[小説]N.H.Kエアコン争奪戦!!(1)

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そして、運命の土曜日。
午後10時半、会社の近所にある4階建ての廃校へ、
社員達は集まっていた。

「…あれぇ?眞妃ちゃんのとこはエアコン壊れてないじゃん!
なんで参加するの?」

壊れたエアコンがあるフロアは、総務・システム設計・
事業企画・購買部のあるフロアで、
眞妃のいる経理部と、営業部・開発研究室はその上のフロアである。
「それがね……」
眞妃は、頭が痛いと言わんばかりに、眉間にシワを寄せる。
上のフロアのエアコンは、肝試し大会をより面白くしようと、
沢井が壊していったのであった。
「全くゥ!何考えてんのかしらん!!沢井さんってばっ!!ぷんぷん!!」
さすがのハリーも怒り気味である。だがいつもと変わらずクネクネしているが。
「あれ?そのわりには研究室のヒトタチが来てイマセンね~」
クリスが辺りを見回す。
「ま、あいつらが参加するとも思えねえしなあ」
研究室のあいつら、とは、
研究以外興味のない、久我恭一郎と、
協調性というモノがない、仙波継人のことだ。

「……って何でオレがバケモノ役なんだっっ!!??」

その頃、研究室の二人と、主催者の英司は。
研究室のエアコンを壊さない代わりに、オバケ役をやる、
という英司と久我の勝手な協定により、
無理やりオバケのコスチュームとメイクをされた継人。
オバケの定番、白装束に三角頭巾、そして死人メイク。
なかなか上手なメイクで、かなりおどろおどろしい。
何故か英司と久我は私服のままである。
「まーまー、仙波くん。そう怒らないで~結構似合ってるよ♪」
青筋立てて怒る継人をものともしない英司。
「何でオレだけなんだよ!?てめえら何で着替えねぇんだ!?」
「フフ…オバケ役なんて、そんな重労働…年寄りの私たちにはとてもとても…」
「……(怒) とにかく、オレはやらねえからな!!」
と言って、コスチュームを脱ごうとする継人。
「ま、待ってくれっ!!仙波くん!!!君がオバケ役をやらなかったら
イベントが盛り上がらないじゃないかあ!!!」

あわてて英司が引き留める。
「うるせえ!!やりたきゃてめえらで勝手にやれ!!!」
「待って、待って、落ち着いて仙波くん!!
もしオバケ役を最後までやりこなしてくれたら、
なんでもお願い事を聞いてあげるから!!」

「!!……なんだと?」
英司の言葉に、服を脱ぐ動作を止める継人。

「…じゃあ、もしバケモノ役をやりこなしたら、
オレを研究室から別の部署に変えてもらうぞ!!!約束は守れよ!!!」

自信満々に、英司と久我を指さす、継人。
「フフフ……わかったよ。言うとおりにしよう。
ちゃんとやりこなせたら、ね……」

久我の、なんとなく含みのある言い方が少し気になる継人だが、
これさえやりこなせば、殺したいほど嫌いな久我と職場を共にすることは
二度と無くなるのだ。そう思うと、そんなことはどうでもよくなった。

一方、参加者側の社員達は。
校門に、主催者の英司が置いたと見られる企画書を手に、
午後11時のスタートの合図を待っていた。
企画書によると、11時になるとチャイムが鳴り、
それを合図に校舎の中に一斉に入るのだそうだ。

「沢井英司杯争奪 肝試しスーパーオリエンテーリング 1999 in Summer」
…の、概要はこうである。

11時に一斉スタート。
そして、校舎内の至る所にスタンプ台が置いてあるので、
それを全て押して、屋上のゴールまでたどり着くこと。
スタンプは全部で5つ。
最初にゴールにたどり着いたチームが、栄光のエアコンを入手できるのだ。

なお、チームは研究所と、主催者の英司を抜かした6部署。
総務部…みはる・クリス
事業企画部…芹子・千雪
システム設計部…満・幹雄
購買部…橘・愛子
営業部…悟史・次郎
経理部……………

「な、なんで私があんたと一緒なのよ!?」
「いや~ん♪眞妃ちゃんってば、テレちゃってえぇん♪
ガンバって経理部にエアコンつけましょっっ♪」

たった一人の経理部・眞妃と組む、営業部のハリー。
「ちょ、ちょっと冗談じゃないわよっ!!!吉村さん代わってくださいよっっっ!!!」
事前に、ハリーに高級ホテルのディナーご家族ご一行様招待券にて
買収済みの悟史は聞かないフリである。

 ”キィィ~~ン……コォォ~~ン……カァァ~~ン……”

なんとも不気味なチャイムの音がした。
「よおおおっし!!!スタートだぜ!!!」
夢のエアコンを目指して、社員一同、スタートを切った。

「この私が、他の社員に負けるわけがないのは一目瞭然だけれども…
神崎さん!!!この私の足だけは引っ張らないでちょうだい!!!」

「…じゃあ…なんで私の後ろ歩いてるんですかっ!?鳥居さんっ!!!」
二人して頼りない足取りで校舎内を歩く、事業企画部チーム。
「うっ…うるさいですわねっ!!神崎さんが背後から襲われないように
守って差し上げてるのよ!!私はっっっ!!!」

「じゃ、じゃあ鳥居さんの背後はあたしが守るっ!!」
「キャーーーッッ!!!ちょ、ちょっと!!!いきなり後ろに回らないでちょうだい!!!」
どっちもどっちな意地の張り合い。
その時、千雪の足下に…

 …ぬるっ

「キャアアアアーーーーーーーッッッッ!!!」
「ちょ、ちょっと鳥居さん!!!何があったのよっっ!?」
恐る恐る足元を見る、芹子。
「これ……コンニャク?」
その通り、他の何者でもない。コンニャクであった。
おそらく英司が仕掛けたものであろう。
そばにはスーパーの値札が付いたコンニャクの包装紙があった。
「なんてオーソドックスな……鳥居さん、もう平気だって…」
千雪はすでにアワを吹いて気絶していた。
「いやーーっっ!!鳥居さん!!!起きて下さいよ!!!
こんなところで一人にしないでぇぇーーーーっっ!!!!」

いきなり絶望的な、事業企画部であった。

「…やだなあ…誰の悲鳴だろう…」

一方、こちらは購買部チーム。
遠くに女性の悲鳴聞いて、怖さに拍車がかかる、橘。
女性の悲鳴とは、芹子と千雪の悲鳴なのだが。
「大島さん!!こっちこっち!!…もおっ!!遅いですねえ~
先に行ってますよっっ!!」

「…ま、待って……百武さん……」
愛子の超人的体力に、早くもついていけない。
まだスタンプは一つも押されていないのに、
何故かすでに4階にたどり着いていた。
「学校内を走るのって結構楽しいわねっ♪
…よーっし!!あと500周は回るわよっっ!!!」

愛子は何かカンチガイをしている。
「500……!? な…何かが違う……」
そうこうしているうちに、愛子の姿が見えなくなった。

「まあいいか…エアコンなんてなくても…」
元々暑いのはそんなに苦手ではない。
ただエアコンが無ければ愛子が下着一丁で仕事するので、
目のやり場に困ってしまう。
………でもそれも…悪くない、か………
…と、ちょっとだけヨコシマな気持ちもあった。
(男だな、橘(笑))

「ふう…疲れた。ちょっとだけ休も…」

『……ねえ……』

(…?)
どこからか、女の子の声がする。

「だ…誰!?誰かいるの?」

『…あ…あなたは私の声が聞こえるのね…?』
「…え…!?………も、もしかして……!!!」

突然、「誰もいないはず」の橘の目の前に、セーラー服姿の少女が現れる。
「うわあああああああっっっっ!!!!」
『やあだ、そんなに驚かないでよ…』
逃げようにも、情けないことに腰が抜けて逃げられない橘。
「で…で…でたあ………ゆうれ……」
実を言うと、橘は霊感が人よりもかなり強く、
心霊体験はこれが初めてではない。
金縛り、心霊写真は日常茶飯事なのである。
だがしかし、ここまではっきりと「見た」のは初めてであった。
『そんなにおびえられちゃうと、私ショックだわ…
これでも花の17歳の女の子なのに…』

といって、「少女」はすこし寂しそうな顔をする。
見た感じ、本当にごく普通の女子高生で、
特に危害を与えるといった感じもなさそうだ。
確かに、人生で最も楽しい頃に死んでしまい、
恐れられて誰にも相手にされないのは辛いかも知れない。
ましてや女の子なら。
橘は、次第に落ち着いて、「少女」に語りかける。
「ご…ごめん……ね」
『…あっはは!やあっと話しかけてくれたねっ!』

ゴオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!!!

突然、ものすごい轟音と共に、「少女」が
橘の意識の中に入り込んできた。

「………………!!!???」
驚きの余り、声も出ない橘。
『ゴメンねえ~!霊の呼びかけに答えてくれた人じゃないと、
とり憑くことが出来ないのよ~!』

橘の「意識」の中から語りかける、「少女」。
(な…何だって…!?)
『しかし嬉しいわ♪やっとのことで見つけた子が
あなたみたいに可愛い男の子で♪』

(もしかして…僕…とり憑かれ…)
『そんなイヤな顔しないでよ~!タダでとは言わないわ♪
あなたの心の奥の、本当に望んでいることを、してあげる!』

(ほ…本当に望んでいる…こと……?)

「少女」のその言葉を最後に、橘の意識が消えた。

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