[小説]私が発明する理由(1)

小説/本文

「ふぃ~~~っっ!!あっっちーーーーーーっっ!!!」
オフィス内のあまりの暑さに、絶叫する満。
またしても、エアコンが故障したのである。
とことんエアコンに縁がない会社だ。
「…も、もうダメです…久我さんに直してもらいましょうよ遠山さん…」
隣の席の幹雄も、ぐったりとしている。
ビビアンもしおれかけている。

幹雄に言われなくとも、しびれを切らした満は、
すでに開発研究室のドアを開いていた。
ドアの前で、同じく暑さにやられた芹子に出くわす。
「おまえもか?」
「うん」
あまりの暑さに、会話も最小限な二人。
「ちーーっす!久我ちゃんいるか?」

「ヤツならいねぇぜ」
恭一郎の(一応)部下である継人が、あっさりと答える。
「い……いない?いないって?」
おどおどと芹子が尋ねる。
「言葉のまんまだよ。出かけてるっつーの」
何度も言わせんなよ、と言わんばかりの継人。
「う…嘘だろーーーーーーーっっっっっ!!??」
満のあまりの驚きっぷりに、継人は目を丸くする。
満が叫んだのは、恭一郎が留守で、
エアコンが直す者がいないというショックからではない。
1年365日中、364日は研究室内で過ごしているという
ウワサも立つほど研究室に居座っている恭一郎が
留守だということに驚いているのだ。
「…で、なんか用があったのか?っても今日一日
帰らねぇって言ってたから、待ってても無駄だぜ」

一生帰ってこなくていいけどな、と小声で呟く継人。
「どこ行ったの?久我さん」
「さあ」
尋ねる芹子と、素知らぬ継人の間に
もう一人の研究員、桐島上総が割り込む。
「久我博士は、何か調査をしているようですよ」
眼鏡を指で少し持ち上げながら、上総は優しく言う。
「調査?」
「ええ。何か、『某ライバル会社』に異変があったようで、
その調査を知り合いの私立探偵に依頼しに行ったんですよ」

「…あ!その異変って、この間ウチのパソコンに侵入されたことか!?」
侵入された上に、データを消された、システム設計部のパソコン。
そのデータの復旧に三日三晩かかった苦労を思い出し、満は突然怒る。
「おそらく、その事でしょう。…しかし…」
「しかし…、どうしたの?桐島さん」
芹子が怪訝そうに問う。
「それ以外に…何か、久我博士の私的なことが絡んでいるようですが…
……私は、あんな深刻な顔をした博士は初めて見ました……」

へえ?そんなことがあのヒトにあるの?
と言ったような表情をする、満と芹子と継人であった。

「ふう~~~っ……今日も暑いねえ……」

午後4時。
外回り帰りの、吉村悟史。
人気の少ない、線路沿いを歩いていた。
今日はこのまま直帰予定である。

「のど乾いたなあ~…なんか飲もう…」
ふと視界に入った自動販売機に足を向ける。
硬貨を財布から取り出していると……

「……うわあ~ん……」

「!?」
突然、背後から子供の泣き声が。
悟史が振り向くと、自分の足の長さの半分くらいしかない
小さな女の子が立っていた。
女の子は泣いていた。
もともと子供好きな悟史は、すかさず
女の子に近寄り、しゃがんで優しく声をかける。
「どうしたの~?お父さんとお母さんは?」
「…いっ…いないの…」
女の子は、ただ泣きじゃくるばかりだ。
「ほら~泣かないで?そうだ!ジュース買ってあげよう!
それと、一緒にお父さんとお母さん、捜してあげるよ」

そう言って、悟史が優しく問いかけると、
女の子は にこっ と微笑む。
(可愛いなあ……でもホントに、どこの子だろう?)
こんな人気のないところで迷子とは。

「どれ飲む?」
硬貨を入れ、ボタンを指さす悟史。
「うんとね、う~んと……もものジュース」
「はいはい」
ジュースを取り出し、プルタブを開けて、少女に渡す。
「わあい!ありがとう!!」
少女は、ニコニコ顔でジュースを飲み始める。
…だが、小さな女の子に、缶1本まるごとは
多すぎたようで、半分も飲まないうちに、缶を口から離す。
「もう飲めない~!おにいちゃんにあげるっ!」
もう満腹、といった感じで悟史にカンを差し出す少女。
「ありがとう~!じゃあもらっちゃうよ」

喉がカラカラだった悟史は、遠慮なくジュースを飲み始める。
少女は、悟史がジュースを飲む様子をまじまじと見ていた。
そんな少女が、悟史はなんとなく不思議に思い、
ジュースを飲む手を止める。
「……どうしたんだい?」

「おにいちゃん、吉村悟史っていうんでしょ?」
「…え!? どうして知ってるんだい?」
「ごめんね。あたし、おにいちゃんに恨みはないんだけど…」

少女の声が、だんだん大きくなっていく。
ふと、悟史は周りを見渡す。
周りの、あらゆるものが、どんどん巨大化している。

「…え、え!?どうなってるの!?」

しばらくして、悟史は気が付いた。
周りのものが大きくなっているのではない。
自分が小さくなっているのだ!

「おにいちゃんが今飲んだジュースに、
小さくなる薬入れたの。面白いでしょ?私が作ったのよ」

少女の手のひらに収まるほど小さくなった悟史は、
ひょいっ、と捕まれ、少女の目の前に吊される。
「き……君は誰!? なんでこんなことしたの!?」
悟史が問うと、少女は不敵な笑みを浮かべる。

「私、アリス草薙っていうの。『某ライバル会社』の社員よ。
上に、N.H.Kの社員を何人かさらってこい、って
言われちゃってね。悪く思わないでね!」

『アリス』はそう言うと、悟史の反応も見ずに、
つけているウエストポーチに悟史を放り込んだ。

「さあて……あと5、6人は連れてかないと…」
アリスは次のターゲットを捜しに、その場を走り去った。

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