[小説]10月の奇跡(プロローグ)

小説/本文

「……今まで、ごめんね。みはるちゃん」

天と地の区別も付かないほど、濃い霧に包まれた場所。

「長い間、嫌な思い、させちゃったね……」

心なしか、橘の声はかすれている。
橘の言葉を、何も言わずに黙って聞いている、みはる。
…いや、黙っているのではない。
言い返したいのだが、声が出ないのだ。

「僕はいなくなるけど、これからも、友達で、いてくれるかな…?」

声は出せないまま。
黙って、ゆっくりとうなずく、みはる。

「僕のことは気にしないで…………
―――――――さんと、幸せにね………」

「橘くん!?」

ガバッ!!!

突然、2段ベッドから飛び起きるみはる。
額には汗がにじんでいる。

「ゆ……夢……?」

時計に目をやる。
午前4時。まだ早朝である。
2段ベッドの上からは、姉、みひろの寝息が聞こえる。
「いなくなるって……幸せにって……どういうことなのぉ……?」
まだ、夢の圧迫感から抜け出せないみはるは、
額から流れる汗も拭わずに、小刻みに震えていた。
何だかとても嫌な予感がする。

みはるには予知能力がある。
みはるの見た夢は、9割の確率で当たるのだ。
もし、この夢が正夢ならば。

友人・橘との別れと、自分に伴侶が出来ることを意味していることになる。

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