[小説]千葉湯けむり殺人事件(1)

小説/本文

…それは、まだ年明けの寒い夜の出来事だった…

一人の青年が、初詣帰りに古びた旅館を訪れた。
「こんばんは~」
広々とした玄関に自分の声がこだまする。

その時、
ガチャーーーン・・・
遠くでガラスか何かの割れる音がした。
(何だろう?)
音はどうも外でしたような気がする。
青年が気になって、外をのぞこうとした時、中から声がした。
「は~い」
あわてて振り返った青年の首筋を、氷のような北風が一瞬掠めた。
身震いする青年。
しかし彼はまだ、その風よりもこれから遭遇する事件のほうが、
よりその身を凍らせるであろうことを
知る由も無かった。

外は真冬。
雪の降りそうな寒い夜であった。

秘密結社一同は千葉へ社員旅行に出かけていた。
その日は朝から遊び回り東京ディ○ニーランドで遊んだりもした。
そして今、社員一同は露天温泉を楽しんでいた。
「寒いけど、やっぱ温泉はいいわねぇ。」
成沢眞妃は言った。
しかし、そんな楽しいひとときも
つかの間…

その時!!

…誰かがこちらを見ている!!
神崎芹子が真っ先に気がついた。
背筋の凍るような、とても冷たい視線である。
…何だか、とても嫌な予感がする…!
そして、彼女の予感は的中した。

冷たい視線が溶けるように消えたと感じたしばらく後、
ガチャーーーーン!とガラスの割れる大きな音がした。
そして風呂から上がった彼女達が最初に耳にしたのが旅館の客の一人が、
変死体で発見されたというショッキングな情報であった。
「警察が来るまでは、ここから入らないようにして下さい」
そう説明を受けた一同は、ロープが張られた奥の廊下を迂回して、
玄関を通って自分達の部屋へ向かった。
「なんだか、まるでドラマみたいですね~」
森川みはるが明るく振る舞おうとするが、さすがに顔が青ざめて・・・いなかった。
玄関を通る時、芹子はフロントで受付をしている
一人の青年を見かけたが、特に気にもとめなかった。

警察は、夜通しで捜査をするらしく、
泊まっていくことになった。
「警察がいれば安心ですね」
そう言って、大島 橘は胸をなで下ろした。
眞妃も、ホッとした様子で、
「それじゃあ、もう寝ましょうよ。
明日もいろいろ歩き回るんだし」
と言って、さっさと自分の部屋へ戻っていった。

ところが、橘が部屋にもどると机に脅迫状が……!
「だれだよ、こんな所にこんなもん置いたのは….」
最初は冗談と思った橘だが、脅迫状を読むにつれ顔が青ざめてきた。

恐るべきその内容とは・・・

「宴会で 酒を飲み過ぎ 今日吐くじょ~」

丁寧に5・7・5になった「強迫状」を手に、石になった橘の側を風が吹き抜ける。
外にも負けぬ、寒い風であった。

「・・・・・・・・・・・・・・はっ!!」
橘が正気に戻った。
「良く見ればこれは、みはるちゃんの字ではないかっ!」
慌てて橘は「強迫状」のあちこちを何か他にメッセージが無いか?と調べまくった。
そしてなんとか本文を並べ替えて
「二人で旅館を抜け出さない?」
とのメッセージにならないかと何度も試みたが無駄だった。

ため息をつき、肩を落としていた彼の背後に…
今にも人を殺しかねないような鋭い殺気を感じた。
「だ、誰だ!?」

なんと、みはるであった。
しかし…目が正気ではなかった。
自我がないような、凍ったガラスのような目である。
そして右手には、長さが1mほどあるロープを持っていた。

彼女は、一歩一歩、橘に近づいてくる。
「ど…どうしたの?みはるちゃん…」
その異様な気配に、橘も彼女が今
普通の状態でないことに気がついたようだ。

「フフ…」
彼女は、不敵な笑みを浮かべると、持っていた
ロープの両端を持ち、ピンと張った。
するといきなり、
ロープで橘をびしびしと叩き
「ホーッホッホッホッホッホ!!女王様とお呼び~!!
世界中のオトコは私のモノよ~~」
……どうやら自分の部屋で酒を飲んだらしく、
べろんべろんに酔っていた。
「み…みはるちゃん…(汗)」

二人がてんやわんやしているその頃、
N.H.K既婚組の吉村悟史と沢井英司の二人は
英司が隠し持って来たワインで乾杯していた。
「いやー沢井さん!こんないいワインもらっちゃっていいんですかー?」
「い~よい~よ飲め飲め!たまにはいいだろ!」
こちらもすっかり出来上がっている様子である。
「…そーいえば、今日は大変でしたねえ~殺人事件ですよ、殺人!」
「んなこたあ警察がなんとかするさあ!さーさー、もっと飲め!」

すっかり上機嫌の二人…
その時!

「きゃあああーーーーーーーーっっっ!!」

夜の闇を裂くかのような、女の悲鳴である。
しかも、隣の部屋からである。
隣の部屋には、芹子と眞妃が眠っているはず…
二人は、一気に酔いが冷めた。

二人はあわてて隣の部屋の前に行き、
ドアを激しくノックする。
「おい!どうしたんだ!?」
しかし、返事がない。
悟史がゆっくりとドアのノブを回す。
…鍵はかかっていない。
おそるおそるドアを開ける…

そこには…
信じられない光景があった。

芹子は泣いていた。
そして芹子のすぐそばに、
眞妃が横たわっていた。
眞妃の口から黒っぽい液体が流れている。

「い、一体どうしたんだ!?眞妃ちゃんは!?」
震えた口調で英司が問う。

「ま…眞妃が…」
芹子の顔は、涙でぐしゃぐしゃである。
「落ち着いて、芹子ちゃん。どうしたんだ?」

「眞妃が…コーラのペットボトル一気飲みして、吐いた…」

どうやら、二人は酒盛りしていたらしい。
よく見ると部屋中にビールの空き缶が散乱している。
そして酔っぱらった眞妃がコーラを一気のみしたらしい。
「ど~しよ~!!ねえ~っど~すればい~~の~~っ!?」
芹子は、もう号泣。っていうか爆泣って感じである。
どうやら彼女は泣き上戸らしい。

「…………………………………………」
二人はあきれてものも言えなかった…
その時!
倒れていた眞妃の体に異変が!

突如、全身がぶるぶるぶるぶる震え出したし思ったら、
のどを掻きむしり暴れ出したのである。
「・・・んぐむうぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!!」
苦しそうである。
「口をあけろっ!」
英司が眞妃の口をこじ開けた。
咽の奥にオレンジ色の物体が・・
「・・・ミカン・・・丸飲みするか?普通・・・」
そうこうしている間に眞妃の顔が緑色からセルリアンブルーに変化し始めた。
「いけない!吐かせるぞ!」
バシン!バシン!
悟史が強く眞妃の背中を叩く。
出ない。なかなか出ない。
眞妃の顔色はすでにリバイアサンパープルを経てアンゴルモアレッドへと変化していた。

「よーっしゃ!全力でっ!!」
悟史のチョップが炸裂!
ズゴバシィィィィィィィィ!!!!!!
その時入り口の戸がガララっ!
「大丈夫ですかっ!」
心配して駆け付けた橘登場!
その口に飛び出たミカンがズポっ!!
橘悶絶。
眞妃の危機は去った。
一件落着。
橘を除いて。

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