[小説]歌う山 - The Singing Mountain -(プロローグ)

小説/本文

時は2001年2月―――。

ここは、日本有数の荘厳な山々の奥深くにある、N県○×郡。
今は一面、見渡す限り雪深く、生き物の気配すら感じられない季節…
…の、はずなのだが。

「うっわー……マジかよ、雪なんて全然ねーじゃんか!」
白いどころか、青々と生い茂る森林を目の当たりにして驚くのは、遠山 満。
隣りにいる満の妻・芹子も感心して辺りを眺め回す。
「あっ、見て見て橘くん!リスがいたよぉ!」
「そ、そんなはずないよみはるちゃん…リスってこの季節、冬眠してるはずじゃ…
…って、あっ、本当にいる…(汗)」

いつものように定番のボケツッコミを繰り広げる、大島 橘・森川みはるの二人。
「さ、さあ…宿はもう少し先です…。皆さん…頑張って歩いて下さいね…」
「って、あんたが一番頑張って歩くべきじゃないの?早くも息切らしてさー。
ホレホレぇ!とっとと案内せぃっ!」

案内係の桐島上総を一蹴するのは、蔵石沙織。
先頭を歩く上総の後ろには、ぞろぞろと数人のN.H.K社員が連なって歩いていた。
その中には、橘たちや遠山夫妻の他に、東堂浪路、
そしてイギリスから一時来日している夫・明と共に歩く成沢眞妃の姿もあった。

「ところで、桐島さぁん!冬なのにどーしてこんなにあったかいの?ここって。」
誰もが気になる原因を、みはるが先頭切って問い出した。
「この辺一帯は、久我博士が開発した【常春エリア】に包まれているんですよ。」
「トコハルエリア?」
「久我博士が開発中の気候操作システムですよ。このエリア内に囲まれた地域は…
例えばグアム島のように、一年中温暖な気候を保つことが出来るんです。
一応、今現在は直径15kmくらいの広さで実施されているようですが…」

「15km!? この辺に住んでる住民とかは文句言わねーのか?」
あまりの大規模な『実験区』に、さすがの満も驚く。
「いえ、この辺りは無人ですよ。鳥居財閥の私有地ですから。」
「鳥居って…千雪ちゃんとこ?」
「はい、そうです。このプロジェクトには、鳥居さんのご協力もあって、
鳥居グループの全面的バックアップを頂いておりますから。」

上総の言葉に、一同は少々首を傾げる。
「何で千雪が?あいつ、久我ちゃんと仲良かったっけ?」
「…さあ…別荘が暖かくなればそれでいい、とでも思ったんじゃないの?(笑)」

色々とどうでもいい議論を交わしながら、
週末の連休を利用した小旅行のプロローグを楽しみつつ。
一同は久我の待つ宿へと向かっていった。

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