[小説]歌う山 - The Singing Mountain -(3)

小説/本文

「浪ちゃんが………行方不明!?」
久我から説明を受けた沙織は、信じられない様子で目を丸くする。
時間は、夕方6時を回っていた。
当然、浪路が帰ってくる様子は全く無い。
「そういえば……ここに着いてから、
姿が見えないと思っていましたけど…まさか、そんなことが……」

「でも、眞妃が見たっていう、遊歩道は崩れてないんでしょ?
いったい、何が起こっちゃったの…?」

橘は青ざめ、芹子は泣きそうになりながら満の腕にしがみ付く。
「考えられる原因は、一つしか無い。」
久我の言葉に、一同の視線は久我に集中する。

皆が固唾を飲み込む中、久我はゆっくりと語り始めた。
「……実は、数日前から……この山の何処かから、
未確認の不思議な音波が発せられているのだ……
この音波は……明らかに地球上には存在し得ない『モノ』だ。」

「地球上にはそんざいしない…って、宇宙人?」
みはるの、あまりにも短絡的な答えに、一同は少々肩の力を抜かす。
だが久我は大きくうなずいた。
「そう、宇宙人だ。」
真剣大真面目に答える久我。
みはると、久我信者の上総を除いた全員が、半分疑う表情を見せる。
「この音波は、今はまだ分析中だが、
どうやら壊れた物体を修復する、という作用があるらしいことが判明している。
眞妃君が見たという、崩れた遊歩道もこの音波によって修復された、
という可能性もあるのだ。」

鵜呑みにするにはあまりにも御伽噺のような『仮説』に、
沙織はため息を吐きながら反論する。
「うちゅーじんー?久我さんにしちゃあ、
マンガみたいな事言うねぇ。何か確証でもあるんかい?」

「あるとも。」
久我は自身満々に言った。
「私は…某ライバル会社勤務時代から、
この山で、この気候操作システムの研究を続けている。
それはもう、何年もかけて、この山の隅から隅までを研究・分析をしたが、
研究を始めてから、つい先日まで、この山はどう見ても、何の変哲も無い普通の山だったのだ。
だが、その正体不明の音波が発せられるようになってから…この山は大きく変わった。」

「どう変わったんだ?」
「花を摘んでも、すぐ次の新しい蕾が花開き、
木の枝を折っても、すぐに新芽が出る。
岩を砕いても、すぐに元に戻るという現象が起こるようになった。
…まるで、この自然を壊すなとでも言っているかのように!」

熱く語る久我。黙り込む一同。
「…けど…そんな事分かっても、局地的に起きた地震の原因はなんなのかとか、
浪路の行方を知る手がかりとかにはならねぇんじゃねーか?」

満の冷ややかなツッコミが入る。
久我は不敵な笑みを浮かべて、人差し指を振る。
「確かにそうだ。だが…まんちゃん。考えても見たまえ。
この謎の修復音波が、人体にも影響を与えるものだとしたら…
浪路君の怪我なんて既に治って、今ごろ何処かで助けを待っている、
という可能性も高いのだよ。」

「人体にも効能がある、っていう確証はあるんですか?」
恐る恐る尋ねる橘に、久我はニタリと笑い、
「…だから、今回それを実験しようと思って、
皆をここに招待したんだがね……フフフフフ……」

「な、何ィ!? じゃあオレらは元々実験台になるために呼ばれたのか!?」
「あ~あ、やっぱおかしいと思ってたんだよ~。
久我さんにしちゃ、妙に気前が良かったからさぁ。
タダで温泉宿に泊まらせてくれるなんてさ。」

一同から、溜息と怒りの声が上がる。久我はそんな事は当然、気にしない。
だが次の瞬間、久我の顔は真剣そのものになった。

「しかし………浪路君の件については、私にも責任はある。
鳥居家の私設捜索隊を派遣して、浪路君を捜索・救出しよう。
皆も、手分けして捜してくれないか。」

 ”ヒュルルルル~……パアァァッ!”

山頂付近に、明るい光の玉のような物が打ち上げられる。
久我が、浪路を捜索しやすいようにと打ち上げた人工太陽である。
時は既に午後9時を回っていた。
鳥居家のガードマン達が、一斉に山中へと駆け出す。

乳飲み子を抱える遠山夫妻、
そして体力的に役に立たなそうな久我は、連絡待ち係として宿に残る事に。
その他の社員は、三手に分かれて捜索を始めようとしていた。
「それじゃ、僕たちはこちらを捜してみます。」
そう言うと、上総は沙織の手を引いて歩き出した。
「何、当然のようにあたしと組んでんのよっ!!」
沙織の飛び蹴りが上総を直撃。
しかし、二人以外は皆夫婦かカップルなのだから、
二人が組まなければならないのは至極当然である。

「それじゃ、ど、どうしましょうか……」
一大事に身を置かれ、オドオドとする橘。
「じゃ、ボクらはこっちに行ってみる?眞妃……
……眞妃?どうしたの?」

そういえば、久我から説明を受けている時も、始終項垂れていた眞妃。
いつもは毅然とした彼女が、今日だけは別人のようだ。
「……ごめん……明……
落ちこむよりも先に捜す事の方が大事なのは分かってる……
で、でも……私、浪路に申し訳なくて……」

「…え……?」
心配そうに顔を覗き込む明の腕を ぎゅっ と掴むと、
眞妃の頬から一筋の涙が零れ落ちた。
「私……浪路を見失う直前、稲葉さんがこの旅行に来れなくなって、
一人で寂しく滝を眺めてた浪路に、酷い事言っちゃった…
何拗ねてんの、一人がいいなら一人でいれば、って……」

好きな人と離れて、一人で過ごすその寂しさと辛さは、
普段、夫と離れて暮らしている自分が、一番分かっていたはずなのに。
「そんな事言っちゃった直後の、あの地震……
私が、変な事言わないで、大人しく浪路を上に連れ戻してれば…こんな事には…!!」

「眞妃ちゃんは悪くないよ。」
肩を震わせ、涙をこぼす眞妃にそっと言葉を投げかけたのは、みはる。
「浪路さんは大丈夫だよ。
だから、会ったらあやまればいいじゃない!ね?」

そう言って、みはるは無邪気な笑顔を見せた。
良い方向に考え過ぎかもしれないが、そこがみはるの良いところでもある。
「…ありがとう、みはる……」

眞妃は、みはるの笑顔により、少しだけ心が軽くなった気がした。

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