[小説]歌う山 - The Singing Mountain -(8)

小説/本文

私は、この星の時間で言う、400年程前…
観光旅行の途中でこの星に不時着しました。
不時着の原因は、宇宙船の燃料切れです。

「ふーん、そうなんだ。」
すぐにでも自らの星に帰りたいのは山々でしたが、
燃料が溜まるまでには、とてつもなく長い月日が必要でした。
私は燃料が溜まるまで、宇宙船をこの山に隠し、
この国の言語を学びつつ、ひっそりと暮らしていました。
そして、つい先日…やっと、星に帰るまでの燃料の充填が完了したのです。

「そうですか………で、その……今、設置しているものは何ですか?」
ピーターは、自分がこの地球に来たいきさつを話ながら、
浪路蘇生のための装置を設置していた。だが、それは……
「ピーターさん、それ……ボクには、家庭用通信カラオケセットにしか、見えないのン…」
さすがのボケ役の明までもが呆れる。
明のツッコミをものともせず、ピーターは、カラオケセットのような装置の配線を、
浪路の頭と両手に繋ぐ。そして最後に、マイクと一冊の分厚い本を取り出した。
一冊の本とは…曲のコードが書かれた、例の本である。
「……それ、マジにカラオケセットじゃん……
こんな時に歌って、どうするってワケ……?」

ピーターの行動が理解できない沙織は、少々怒り気味に問う。
私が調べたところによりますと、この星での『歌』とは娯楽でしかないようですが…
私の星では、『歌』は、生活に欠かせないものとなっているのです。
この宇宙船も、歌う事によっていろいろと動作を指示します。

ピーターの説明に、上総はハッとする。
「…じゃあ、山のあちこちが崩れ、それが修復された時に
発される音波、そして耳鳴り……あれは、全て貴方の歌声によるものだったのですか!?」

そういえば、眞妃がピーターに社員をここに連れてくるように頼んだ時も、
小さい声だが、何か呟いていた。
沙織も、基地内で迷っていた時に何やら歌声を聞いた。
「じゃあ、浪路さんも、ピーターさんが歌って生き返らせるの?」
そうです。ある程度の修復だけであれば、私の力だけで十分ですが、
生物を生き返らせるには、相当のエネルギーを必要とします。
ですから、溜めこんであるこの宇宙船のエネルギーを、
私が歌う事によって送りこみ、蘇生するのです。
それでは、歌わせていただきます。

ピーターはコード表を見て、番号を入力する。
曲のイントロが流れ始める。演歌のような曲調だ。
『蘇生装置』には、ご丁寧にモニタもついている。
曲名は…

『恋はまろやか』 作詞・作曲/ムニォネピェヤヌニスリャン

♪あなたとふたり 生きていくの
そう 恋は まろやか まろやかに

ある日突然 貴方からの電話
「結婚しよう」いきなり過ぎね まあいいわ
明日は式場 予約しなきゃね

ああ 恋は まろやか まろやかに

「これ…さっきちょっとだけ聞いた歌だ…
でも、すげぇムチャクチャな歌詞だな…」

苦笑いする沙織。
歌は結構長く、ピーターは20番くらいまで歌い続けた。
最後の方の歌詞は、二人のひ孫が老後を過ごす内容となっている。
しかし、間抜けな歌詞とは裏腹に、浪路の方に異変が。
ピーターが歌うにつれて、顔色がどんどん変わってきているのだ。
全身が、青白い光に覆われている。
エネルギーが送りこまれているのだろう。

 ”ああ~こい~は~ ま~ろ~や~~かぁ~~…

ピーターが最後のワンコーラスを歌い終える。
すると…

「……ん……」

指先がほんの僅かに動いたかと思うと、
浪路はゆっくりと目を開けた。
「浪路さぁ~ん!!」
「ナミちゃんっ!!」
「浪ちゃん!」
「ほ、本当に生き返った……あんな歌で……」
喜びの涙と笑顔で迎えられた浪路は、一体自分に何が起こったのか分かっていない。
「えーっと……ここは……?
俺…確か、成沢と話してて、地震が起きて……」

何気なく名前を呼ばれた眞妃。
その声を耳にした瞬間、眞妃は大粒の涙を流しながら浪路に抱きついた。

「おわっ!? ど、どーしたんだよ成沢!?」
普段、気が強く気高い眞妃にしては意外な行動に、浪路は驚く。
「ごめん……ごめんね、浪路……本当にごめんなさい……
私、あんたの気持ち、全然考えないで酷い事言っちゃって……」

やっと、伝えたかった言葉を吐き出したが、
涙で顔をぐしゃぐしゃにした眞妃は、それ以上言葉にできなかった。
彼女の素直な言葉に、最初は不可解に思った浪路。
だが、死の直前に眞妃と争った事をようやく思い出した。
「……俺も、悪かったよ……せっかく気にかけてくれたのに、
八つ当たりしちまってさ。大人気無かったよな…」

涙を流しつづけ、しがみ付く眞妃の背中を、浪路は優しく撫でる。

 ”ああ~あい~は~ な~め~ら~~かぁ~~…

感動の再会劇の中、ピーターは何故か次の曲を熱唱していた。

行方不明になり、一度は死んでしまった浪路が生き返り、
事件はこれで一件落着……かのように見えた。

「そういえば、久我さんとまんちゃんって、どこ行ったのかなぁ?」
メンバーの中に、二人が欠けていることにようやく気づいたのは、みはる。
「あれ?そういえばずっといなかったわねン♪」
「まー、あの二人…特に久我さんは死ぬわきゃないか。」
浪路がいなくなった時とは違い、何故かあまり心配しない沙織。
おや、お仲間さんがまだ他にもいらっしゃるんですか?
よろしければお探ししてこちらに呼びましょうか。

皆の了承を得る前に、今度はハンディカラオケで歌おうとするピーター。
二人を捜索しようとしてのことなのだろうが、
ハタから見るとふざけてるようにしか見えないのが悲しい。
しかしその時。

”お~い……みんなぁぁ~~”

部屋の扉の外から声が。
「……この声……遠山さん……?」
しかし、満にしては少々声が高く感じられるのは気のせいか?
皆が扉に注目したその時、扉が開き、
そこからは何と二人の子供が、素っ裸で現れた。
見た目、三歳児くらいだろうか。
「キャ―――――!!!!かわいいっ!!!!」
みはるは、思わず子供の一人を抱きかかえる。
「えへへぇ、可愛いでちゅね~v どこから来たんでちゅか~?」
みはるに、ほっぺをプニプニされる子供。
「わっ、何すんだよみはる!!!下ろせ下ろせ!!!」
しかし子供の口からは、子供とは思えない口調が。
「オレだよオレ!満!」
「えぇっ!?お前遠山なん!?どーしたのさそのカッコ!!!」
「…という事は、こちらの御子様は……」
みはるに抱きかかえられてない方の子供に視線を向ける、上総。
「久我恭一郎だ……フフフフフ」
愛らしい子供の姿でポーズを取る久我。
「随分と可愛らしい姿になったわね、二人とも。
けどパンツくらい履いたら?」

「しょうがねぇだろ!大人のパンツ履いたってズリ落ちちまうんだから!」

ほうほう……これは…動力炉の光をモロに浴びましたね、お二方。
二人の子供の姿を見て、ピーターがうんうんと頷く。
お二方、この部屋のちょうど真下にある動力炉へ行きましたか?
「真下かどーかは知らねーけど、変なでっかい青い光の玉を見つけたんだ。
んで、そこにしばらくいたら…身体がどんどん若返っちまって。」

それは当然です。この宇宙船のエネルギーは、
少し浴びるくらいなら何ともありませんが、
生きた生物があまり大量に浴びると、肉体の時間が退行してしまうのですから。

この宇宙船に蓄積されているエネルギーは、物を再生させる力を持っている。
浪路が、このエネルギーを大量に浴びても若返らなかったのは
死んでいたからであって、生きている者が浴びると、こうなるらしい。
「それにしても……君が、この基地の住人かね?
いやあ、素晴らしい、素晴らしい!
是非、これから私の研究に協力してくれないかね?
悪いようにはしないよ…フフフフフ」

自らが幼児化しても、久我は特に慌てない。
むしろ、感動に打ちひしがれている。
そして、捜し求めていた浪路と再会した満は。
「おっ、浪路。無事だったんか!良かったな~」
その一言だけで終わってしまった。

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