[小説]暴君フレスリーザ ~愛を忘れた王子様(3)

小説/本文

「もう、誰も信じられん。信じられるのは自分だけだ。
だがもう、自分が自分でいることすらも、疲れた……」

「何もかも放り出したかった。なくしてしまいたかった。ゼロになりたかった。
だがその時はまだ死ぬ勇気はなかった。いっそ何もわからない土地で、
今の自分という存在をなくさずに、最初から人生をやりなおせたら…」

「けど、今の自分は嫌いだった。誰からも嫌われ、命を狙われ、家族すらも
自分の人格ではなく、地位を求めてくるばかり」

「だから、我輩は、理想の自分を自分で作り出し、
自分自身を封印して、そいつに人生を譲ってしまうことにした。
だが深くは追求されないように、正体がばれることのないように、
日本語を覚えられない呪いを自分自身に掛けた」

「それで残りの人生は何もかも上手くいくはずだった。だが封印は解かれてしまった。
……我輩は、誰かに恨まれ憎まれ、誰かを恨み憎んで生きてきた。
人望のある人生をどう生きていけばいいか、分からないのだ」

『……いいえ、貴方はわかっているはずです。人に対して優しくすることも。信じることも。
そうじゃなかったら、僕という人格は、生まれなかったはずです』

「……………」

『僕は貴方、貴方は僕です。貴方の言う人望や……自分を愛してくれる人……家族だって、
みんな貴方のものでもあるんです。……僕の言うこと、信じてください。
……自分のことなら、信じられるんですよね?』

「………もう、目を覚ませ」

『はい?』

「貴様が我輩だというのなら、目を覚ますのは貴様でも良かろう。
……我輩の願望であった、人に優しくし、人を信じていける人生を、送るがいい。
我輩はずっと貴様の中で見守ることにする。消えるつもりはないから、調子に乗るでないぞ」

「……父ちゃん……父ちゃん!? 起きたの!?」

リーザが目を覚ますと、白い天井と、心配そうに目に涙を溜めた息子・パノスの顔が見えた。
起き上がろうとするが、全身に激痛が走り、起き上がることができなかった。
「おっと、君はあちこち骨折してるんだから動いちゃ駄目だよ」
治療にあたっていた久我が、慌ててリーザを寝かしつける。
「……僕は……」
「よく生きてた、って感じかね?まぁ普通なら東京タワーの頂上から飛び降りたら、
間違いなく死ぬからね……フフフフ……。
まあ詳しくはまだ分かっていないが、地面に激突する前に『前の』リーザ君が
何らかの回避を試みたと考えるのが一番可能性としては高いかもしれん」

「…僕…魔導の使い方よくわからなかったけど…『彼』のやり方を見よう見まねで、
激突の衝撃を防ごうとした記憶は、あります……」

「……お?君はもしや、記憶を取り戻す前のリーザ君かね?」
記憶を取り戻した『真の』リーザだと思っていた久我は驚いた。
「はい……でも、なくしていた記憶も、はっきりと思い出せています。
自分が生まれてから、日本に来るまでの……色んなことが」

「前の優しい父ちゃんに戻ったんだね!よかった!」
前のリーザだとわかったパノスは、喜んでリーザの腕にしがみついた。
息子の笑顔に、リーザは癒されつつも、『真の』リーザのことも忘れはしなかった。
「…パノス君。前の……『真の』僕も、僕であることには間違いないんです。
ただ『彼』は…人にどうやって優しく接したらいいのか、わからなかっただけなんです。
本当は、君のこともとても愛おしい存在だと、思ってるんです。
だから……『彼』のことも、忘れないでいてください」

「……父ちゃん、また、あの怖い父ちゃんになったり……するの?」
父に諭され、理解しようとするも、まだ子供のパノスは恐怖をぬぐうことができない。

「わからないけど……でも、もしまた現れても……
……今度はきっともっと、優しくなれるような…気がします」

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