[NEWS] 西から来た王子様・3

○刊ねぎ秘密結社ニュース

「……落ち着きましたか?」

パノスは泣き声こそ止まったものの、結佳にしがみついたまま離れない。
結佳は彼の頭を撫でながらつぶやき始める。
「忘れられたって、いいじゃないですか。生きてそこにいるんですから。
生きてさえすれば……また、新しい親子関係はいくらでも築けます。
わたしを生んでくれた父と母は……亡くなってしまいましたけど……」

パノスは、はっとして顔を上げる。
「姉ちゃんは、父ちゃんも母ちゃんもいないのか!?」
「いなくはないですよ?新しい父と母に引き取られて、仲良くやっています。
ただ、生んでくれた両親はもういないのです。
忘れられるどころか、会うことも、話すこともできない存在です」

「…………」
「だから、あなたのお父様は生きてるんだから、いいじゃないですか。
生きてさえすれば、何だって出来るはずです。ご自分のことも、お母様のことも。
忘れられてしまったなら、またこれから覚えてもらえばいいのです」

「これから………」

「結佳ちゃーん!だいじょうぶー?」

なかなか戻ってこないのを心配したのか、みはるが会社から呼びに来たようだ。
「…えっと、パノスくんだっけ…だいじょうぶかな?」
おそるおそる覗き込む。
「…おう、こうしちゃいられないもんね!!」
さっきの泣き顔はどこへやら、
パノスは涙をぬぐっていつの間にか強気な表情を取り戻していた。

『と、言うわけでー、さっきはゴメンな!』
パノスは、照れながらも潔くリーザに謝罪した。
『いいえ……僕も君の事情も知らずに、
酷いことを言ってしまったようで……本当にごめんなさい』

リーザも英語で謝罪を返す。
パノスと結佳がいない間、社員達が事情を説明しておいてくれたらしい。
『まあ忘れちゃったんなら、仕方ないよな!
これから覚えてくれよな!親子なんだから!!』

無邪気に寄り添ってきたパノスの頭を、リーザが優しく撫でる。
『そうですね』
記憶はないので戸惑ってはいるが、仲良くなろうという気持ちはあるらしい。
「あの~……」
家族団らん(?)の邪魔するのが申し訳なさそうに、みはるが声をかける。
「パノスくんって、何歳なのぉ?」
「オレ?10歳だよ!」
「リーザ様の歳(23歳??)でパノスくんくらいの子供がいるのって
…ありえなくないの?」

「えー?だって父ちゃん35とか6とかそのくらいだぜぇ?
忘れたけど。だから普通じゃねーの?」

35!!!??

その場にいた一同が愕然とする。
「うっそ、じゃあオレや久我ちゃんやナッちゃん(瀬上奈津恵)
とかより年上!? マジでぇ!?」

「それが本当ならまさにおとぎの国の住人みたいな人ですね…リーザさん…」
「えぇぇ!? リーザ様ってそんな素敵なお年頃だったんだ♪
あたしのストライクゾーンねv

社員それぞれの反応は様々である(笑)

「そういえば…パノスくん、さっきリーザ様に
『遊んだ女どもに刺されちゃえ』とか言ってたけど…
写真も女の人いっぱいはべらせてたし、リーザ様っていったい何者なのぉ?」

「ん?父ちゃんはオレの国の王子なんだ!どうだびっくりしただろ!」
びっくりするどころか、一同は ”やっぱり!!”という顔をする。
見たまんまのキャラだったというわけだ。
「で、父ちゃんは王家の跡取りなんだけど、そのまた次の跡取りをオレだと認めてほしくて、
今まで捜し求めてたってわけなんだ!」

「へぇぇ~、なんかマンガみたいな話だねっ!」
「ハハハ、まぁどうしても先代の王子の認知が必要みたいでさー。
早くしないと他のやつに先越されちゃうし」

「他のやつ?」

「だって父ちゃん、子供あと25人くらいいるみたいだし」

どんだけ――――――!!!???

「まぁ、まずは親子の絆深めないとなっ!よろしくな父ちゃん♪」

この後、パノスは無理矢理にリーザのマンションへと押し掛け居候となるのであった。
「良かったですわね、パノスさん」
みんながびっくり仰天でドタバタ騒ぎしている中…
結佳はひとり、異国からの珍客を温かな瞳で見つめていた。

 

(おしまい)

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