(スマホの見守りカメラで赤ん坊の雪彦を見守りつつ、ぐったり横になっている吹雪)
吹雪:(はぁ~~~~………疲れた。人間の世界で生活するにはお金が欠かせないから、夜の仕事始めたけど……色んな男を漁れるのはいいけど、好みの男だけを相手にするわけにもいかないから、疲れるわ……)
雪彦:ねぇねー
吹雪:(私の今の一番の癒しは、雪彦だわ……雪彦の日々の成長を見守るのが、一番の……)
雪彦:ねぇ―――ね―――!
吹雪:(ああやって私を呼ぶ声は、昔の雪彦そのもの……たとえ種族が違っても、また昔のような、優しくて思いやりのある子に育ってほしいものだわ…)
雪彦:ねぇ、おねえちゃんってば!!! たすけて!!!!
吹雪:!?(「助けて」って……なに!?)
(隣の部屋にいる雪彦のもとへ駆けつける)
雪彦:おようふく、やぶけちゃった!どうしよう?
吹雪:………はぁ!!!???
……ちょっ……ちょっと待って、何が起きたの!?
さっきまで間違いなく赤ん坊だったのに……4~5歳くらいの大きさに、成長してる!?
雪彦:ううーん、首がきつくてくるしいよぅ
吹雪:!! いけない!……えええっと……幼児の服なんてあるわけないし……とりあえず私のTシャツ!(それにしても、さっきまで言葉も「ねぇね」がやっとだったくらいなのが、しっかり話せてる……もしかして、昔の記憶が蘇ってきてるの?)
雪彦:このおようふく、ぶかぶか!
吹雪:ご、ごめんね?今それしかないから……後で買いに行きましょ!
……それより、あなた、お名前は?おとしは?
雪彦:んー?からすまゆきひこ。4さい!
吹雪:4歳……私のことは、誰だかわかる?
雪彦:なにいってるの?おねえちゃん。吹雪おねえちゃんはおねえちゃんじゃん!
吹雪:名前も記憶も……じゃあ、もしかして……もしかすると……(慌てて台所へ行って、戻ってくる)雪彦、このコップの水、凍らせることできる?
雪彦:こおらせる……?え、えっと……
吹雪:(雪女族なら幼児でもできること……記憶が戻ったなら、能力も……)
雪彦:(困った顔をして、コップをじーっと見つめている)
こおらせるって、なに?おねえちゃん、オレわかんないよぅ
吹雪:(やっぱり、駄目か……って、オレ!? 雪彦が自分の事「オレ」なんて言ったことなかったのに…)ねえ雪彦、オレっていうのは……
雪彦:オレはオレだよっ!(自分を指さす)
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(浪路のマンション)
吹雪:どうしてくれるの!絶対アンタのせいでしょ!!
浪路:ってなんだいきなり!? っつーかその子ども誰だ!
もしかしなくても雪彦なのか!?
雪彦:こんにちは!おじゃましまーす!
吹雪:そーよ!今朝いきなりこんなに大きくなってたのよ!
浪路:へぇ……やっぱり、人間だけど普通とはちょっと違うのか……?
定期的にどどーんと大きくなって、もっと早い段階で元の年齢に戻るのか……?
吹雪:そうだといいんだけど……それよりも!「僕」って愛らしく名乗っていた雪彦が
「オレ」だなんて言い出して、絶対生まれたての時にアンタに育てられたせいでしょ!
浪路:そんな、乳飲み子時代に俺の言葉遣いが影響出るもんなの…?
いいじゃん別に、「オレ」なんて言う男の子なんていくらでもいるじゃん。
吹雪:……くぅっ……!!! なんというか、イメージじゃないのよ!
元の雪彦は、もっとこう、おっとりとして優しくて知的で……
浪路:……まあ、これではっきりしたかな。
やっぱり、雪彦は一度死んで、別の生き物として生まれ変わった。
100%もとの雪彦に戻すことは、たぶん不可能なんだよ。
吹雪:不可能……
浪路:雪彦だけじゃない、俺もあんたも、人生のどこでも、何か選択肢ひとつでも違えば、今の環境や人格じゃなくなるんだ。人生ってたぶん、そーいうもんだろ。
吹雪:…………
浪路:でもいいじゃんか。これから雪彦がどんな人間になろうと、あんたの弟であることは一生涯変わることはないんだからさ。
八雲:だよね―――――♥♥♥ 姉さんは死ぬまで俺の姉さんだし俺は姉さんの弟!それはぜ―――――ったい変わらないから!だから雪ちゃんのことは心配せずに育てていいと思いますよ!(浪路を背後からハグ)
浪路:うわっ何すんだ変態弟!!!
八雲:最高の誉め言葉ありがとう姉さん♥♥♥
浪路:褒めてねえし!!!!!
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吹雪:……そっか、これから雪彦は昔とは全く別の人生を歩んでいく……私はそれを支えて、見守っていくしかない……。
……いいわ、どんな子に育とうとも、雪彦は私の最愛の弟。せめて非道な道に踏み外れないように、これからも精いっぱい育てていくわ。