そして、数週間後。
いつもの平和な日々の戻った、N.H.K。
午後の中休み。システム設計部のデスクにて、
幹雄が大量の便せんを読みながら、微笑んでいる。
「あれー?中原さん、その大量のお手紙、何?」
通りがかった愛子が、不思議そうに尋ねる。
ふと、机の上に置かれた封筒の差出人名を見る、愛子。
”森岡建設(株) 代表取締役社長 森岡 繁 ”
「…あれ…この人、もしかしてこの間の社長?」
「はい。実は文通を始めまして」
「へえー!…でもそれにしてもすごい量ね!
あの事件からまだそんなに日が経ってないのに!」
封筒は、少なくとも10通はある。
しかも、封筒一つ一つに入ってる便せんの量も、各10枚以上はある。
しかし、同じ趣味を持つ友人が出来た幹雄は、
そんな大量の手紙を、実に嬉しそうに読んでいる。
「あ、そうだ。会社の皆さん宛の手紙も来てるんです。
皆さんで読んで下さいね」
そう言って、幹雄は愛子に一通の手紙を渡す。
建設会社の社長……森岡 繁氏からの手紙によると。
幹雄、並びにN.H.Kの皆さんへ迷惑を掛けて申し訳なかった、ということと。
会社の経歴、自分の趣味。そして樫の木の権三のその後などが書かれていた。
権三の古い幹は切り倒され、その後の成長は順調だという。
「へぇ~あの会社、元は暴力団だったんかよ」
会社の経歴を見た満は驚く。
「なるほど。あそこの社員達、妙にハクのあるヤツばっかだったもんな…」
幹雄を襲ったチンピラ風の男達も、おそらくその頃の名残なのだろう。
「コンニチハー!」
突然、オフィスに元気な挨拶が飛び込む。
「あっ、ビビアンちゃん!」
オフィスの入り口には。
片手にはシクラメン、もう片手には菓子折を持った
小柄な美少女・ビビアンが立っていた。
「あっ、ビビアン。来てくれたんだね」
颯爽と幹雄が出迎える。
「ミナサマ、そのセツはドウモアリガトゴザイマシタ!」
どうやら、例の事件解決のお礼に来たらしい。
ビビアンの手みやげは、手作りのスイートポテト。
「うっ…………………うまそう……………」
普段、「『おいしい』手作り菓子」に縁のない満は、
見事な手作りスイートポテトの美しさと美味しそうな香りに絶句する。
「たっ、食べていいか?」
「ハイ、ドーゾ!」
ビビアンの返事を聞いた瞬間、一瞬にして、ひとつつまんで
口の中に放り込む、満。
「うっ、うっ、うめぇえええーーーーーっっっっ!!!」
涙をぼろぼろとこぼしながらむさぼり食う満。
「そ、ソンナにオイシイデスか?」
さすがのビビアンも驚いている。
「気にしないで、ビビアンさん。
遠山さん、最近ちょっと食生活に問題があってね…」
眞妃が苦笑いしながら宥める。
「こんにちはーっ!みんな、久しぶりっ!
お菓子作ってきたの!満、ちょっと食べてみて!!」
史上最高のスイートポテトを平らげた満の前に、
史上最悪のお菓子を持って、満の妻・芹子が現れた。
満が、今度は別の意味で涙を流したのは、言うまでもない。
そして今日も、N.H.Kの平和な一日は暮れてゆくのであった。
END