ピーターより説明された、浪路を発見・収容するまでの過程はこうである。
例の遊歩道を修復する際に、外部の様子を探るレーダーにて、
川岸の岩場に倒れていた浪路を発見したピーターは、
彼女を救助しようと、岩に書置きを残し、この基地に収容したが、
頭から岩場に転落したらしい彼女は、外傷はあまりなかったものの、ほぼ即死状態だったという。
例の『修復音波』は、やはりこの基地から発せられているものらしく、
浪路の頭の傷は、その音波によって既に治癒されていた。
どうやら、この音波は人体にも効能があるらしい。
だが…身体は修復されても、命は一度落としたら修復できない。
「何よ……謝らせてもくれない、わけ……？」
あまりの衝撃に、涙すら湧いてこない眞妃。
だがその瞳は、人形のように『ぬけがら』である。
浪路の頬を、眞妃はそっと触れる。
血の気は無く、氷のように冷たい頬。
その瞬間、眞妃の瞳から涙が溢れ出した。
触れてみて、初めて実感してしまった。
浪路は……死んだのだ。
「……ピーターさん……」
頬を涙で濡らし、項垂れながら呼ぶ、眞妃。
「はい、何でしょう。」
「私の……仲間たちを、ここに呼ぶ事はできる…？
基地内に、何人か来てるって言ったわよね？
私が、ここに瞬間移動させられたみたいに…」
「はい、それはお易い御用です。
まず、レーダーで皆さんの位置を確認して、それから…」
「説明はいいから、早く！早く呼んで!!」
涙声で訴え、願う眞妃。
このことを…早く皆に伝えなければ。そう思ったのだ。
浪路の横たわる小さな部屋に、一瞬にして大勢の人間が集まった。
ピーターの力により、この旅行に参加している社員達を呼び寄せたのだ。
連れてこられた社員達は、眞妃から浪路の死を伝えられ…
彼女を取り囲み、涙した。
立っているのがやっとの眞妃を支えるが、自らも大粒の涙をこぼす明。
何が起こったのか、理解する事ができずに空を見つめる橘。
沙織や芹子と共に抱き合って泣く、みはる。
「そもそも……あんな地震が起こらなければ……」
あまりにも不幸な、運命の悪戯を恨む上総。
上総の言葉に、眞妃はハッとし、突然ピーターに言い寄る。
「……そう…そうよ！あの地震……!!
なんで、あんな地震が起きたの!? あなたなら…何か知ってるんじゃないの!?」
眞妃に力いっぱい両肩を掴まれ、目を丸くするピーターは、
とぼけた口調で答える。
「それはですね…この基地は、あなたがたの言うところの『宇宙船』でして。
実は最近、エネルギーの充填が完了したので、何度かエンジンの試運転をしたんですよ。
でも、なかなか上手く行かないようでしてねぇ。エンストしてばかりなんですよ。
恐らくエンジンから吹き出る排気が、地震を起こしたのかと。いやいや面目無い。」
「………じゃあ、浪路が死んだのは……
あなたのせいじゃないの!!!何てことしてくれたのよっ!!!!」
”ドゴォォッ!!”
眞妃の怒りの鉄拳が、ピーターを直撃する。
見かけによらず、体重がかなり軽いピーターは５ｍほど吹っ飛ぶ。
「あ、あ痛たたた。そんな、お怒りにならずに…落ちついてください。」
「何言ってるのよ！人一人殺しておいて、その能天気さは何!?」
「そーだよっ、この極悪宇宙人！浪ちゃんを返せぇっ!!!」
「そーよそーよ！返してくれなきゃ絶対許さないんだからぁ!!!」
「はい、もちろんお返し致します。」
”はぁぁっ!?”
ピーターの意外なセリフに、どよめく社員達。
ピーターはあくまでもマイペースに、
両膝をパタパタとはたきながら起きあがる。
「はい、この度の過失は、100％私の責任です。
ですから私が責任を持って、このお方を生き返らせますので。
どうか、落ちついてください。皆さん。」
ピーターの力によって、浪路のいる部屋に集められた社員。
だがどういうわけか、二人だけ…ピーターの監視の目から
外れており、呼び出されなかった者がいた。
久我と満である。
二人は当然、浪路の死についてはつゆ知らずである。
他の社員達は、彼女の死によって混乱していて、二人が抜けている事にまだ気づいていない。
宿の庭から侵入し、適当に基地内を走り回っていたら、
いつの間にか二人は、基地の最深部付近に辿りついていた。
「はー…沙織やカズさんはどこにいんだろなぁ。
それにしても何だ…？ここは。妙に暑いな……
…おい、久我ちゃん。大丈夫か？見た目ヘロヘロだけど。」
散々走り回った二人。満はそれなりに体力があるので平気だが、
普段、研究室に篭りきりで運動不足な久我は既にクタクタであった。
「だ…大丈夫だ……フフフフ……
こ、こんな新発見だらけの基地で、この久我恭一郎は倒れる訳にはいかない……!!!」
そう強がりを言うと、白衣に隠し持っていた
『特製久我印・体力回復増強剤』を取り出し、ドーピングする。
すると突然、目を白黒させたかと思うと、耳と鼻から煙が吹き出る。
「フハハハハハ！これで完璧!!!!
今、私のパワーは柴田君並!!!!!ハーッハッハッハッハ!!!!!」
体力をパワーアップさせた久我は、意味も無くポーズを取る。
「うわー…あんなパワフルな久我ちゃん、かえって不気味だな…」
そんなこんなで二人は、さらに適当に足を進める。
久我が時折、意味不明に高笑いしたり、
目鼻口から煙を吐いたりするのを気にしつつも、足を進める。
「…ん？あんなとこにでっかい扉があるぞ？」
今まで歩いている途中途中にも、扉はいくつかあったが、
満が目にした扉は、いかにも重要そうな、
関係者以外が入ったら管理者に怒られそうな感じの扉だった。
「とりあえず入ってみよーぜ。」
もちろん、二人ともそんな事を気にするようなタマではない。
「おわっ…なんだ？ありゃ…」
扉を開け、中に入ると…
室内の中心に、巨大な丸い発光体が浮かんでいた。
球体は、眩いばかりの青白い光を放っていた。
そして時折、パチパチと火花を散らしている。
「見てると、けっこーキレイだなー。なんだろな、コレ。」
特に詮索しようとせず、満は単純に感想を述べる。
だが久我は。
「こっ……これは………!!!! 何と、素晴らしいエネルギーの結晶だ……!!!!」
更なる新発見に、久我は恍惚の笑顔を浮かべる。
「エネルギーの結晶？エネルギーなんか？コレって。」
訳がわからない満は、のん気に問う。
「この球体からは、例の『修復音波』と同様のエネルギーを感じ取れる。
しかも、パワーの強さから言ったら、例の音波とは比べ物にならない位の凄まじさだ。
恐らく、これが音波の源…あるいはこの基地の動力源かもしれない。」
「ふ～ん。で、コレどうすんだ？」
「許されるなら、私のラボに持って帰って、
ぜひ研究材料にしたいところだが……………ん？」
興奮気味の久我。だが、ふと白衣の袖に目をやる。
白衣の袖からは当然、自分の手が出ているはずだが、
手が白衣の中に引っ込んでしまっている。
白衣が………大きくなっている？
「なあ久我ちゃん……なんか、オレらの着てる服が……
でかくなってないか？オレの上着…なんか、ブカブカなんだけど…」
「……いや、これは……服が大きくなった訳では無い……
………い、いかん！まんちゃん!!!早くここから出なければ……!!!」
