それは、普段となんら変わりのない、平和な月曜日の午後。
総務部人事課長・沢井英司は、
いつものように新作フィギュアを手がけていた。
今度のフィギュアは珍しく男性。
いつだか、社長が好きだと言っていた織田裕●である。
社長の誕生日(10月8日)を今頃になって思い出した彼は、
今からでも遅くはない、と、プレゼントとして
制作を始めたのである。
「よし……出来た!」
最後の仕上げを終え、英司は満面の笑みを浮かべる。
フィギュアの肩から腰にかけてリボンを結び、
プレゼント用フィギュアの出来上がりである。
「ふっふっふ…社長の驚く顔が早く見たいなぁ…
…よし、社長室に持って行こう!」
長身のフィギュアを小脇に抱え、英司は
スキップで社長室へと向かった。
社長室。
「確か社長は朝からここにいるはず…」
英司がドアをノックしようとした瞬間。
社長室から、なにやら数人の会話が聞こえてくることに気付く。
「…なんだ…打ち合わせ中か…?」
英司は、ドアにそっと耳打ちする。
差し障りのない話なら、このフィギュアを持って
乱入して驚かしてやろう。
そう思い、ニヤニヤとしながら会話を盗み聞く。
「…私も、それでいいと思います」
「そうよね。その方がいいと思うわ、絶対」
「だいたいよ~、英司さんに人事なんて無理だっての」
(……私のことを…話しているのか?)
社長室内からは、経理部主任の成沢眞妃、
同じ人事課の瀬上奈津恵、
システム設計部主任の遠山 満の声がする。
本社の役員ばかりである。
そして、話題の中心が自分であることに、英司は少々驚く。
(いったい何の話を……)
英司は、さらに会話を聞き続ける。
「じゃあ、これで決まりですね~」
この、少し間の抜けた声は、営業部係長の吉村悟史。
「人事は、私ひとりでもなんとかやっていけますわ」
「ははは!ナッちゃんだけでも3人前くらいの仕事は出来るだろーな」
会話に、ほんの一瞬だけ間をおいて、社長が口を開く。
「ま、意見満場一致ってわけね。
……それじゃ、沢井さんにはとりあえず
辞めて頂くことにしましょうか。」
(な……なんだってぇえええ!!??)
突如、己の身に降りかかった信じがたい事実に、
英司は愕然とし、小脇に抱えていたフィギュアを
ゴトリ、と落としてしまった。
(続く)