[NEWS] 西から来た王子様・2

○刊ねぎ秘密結社ニュース

「…これって…リーザ様に似てない?」

結佳と、騒ぎを聞いて駆けつけた橘や満も、みはるの背後から写真を覗き込む。
「確かに……でもなんか……」
「なんか?」
「今のリーザさんとはなんかかけ離れてない?なんというか…
…すごく、悪い男っぽく見えるんだよね……」

写真の中のリーザらしき男は、両脇と足もとに派手な女性を侍らせて酒を飲んでいた。
「父ちゃんの写真、これしかないからなー。
ちゃんとすれば育ちのイイ男に見えるんだけどな!」

社員達はむしろその『育ちのいい男』の方の姿しか知らない。
「この女の人達の中の一人が、あなたのお母様?」
結佳は屈んで、少年を視線の高さを同じにして問う。
「…ううん…母ちゃんの写真は、一枚もないんだ。」
心なしか、少年の表情が少し曇る。
「で、でもな!オレ母ちゃんにそっくりだって、よく言われるんだ!
父ちゃんには、会ったことないんだけど…きっとわかってくれる!」

力説する少年。
だが社員達の脳裏には一つの不安がよぎった。

リーザは名前と基本的な知識以外は全て忘れてしまっている記憶喪失である。
果たして彼のことを覚えているのだろうか。
不安に思いつつも、みはる達はリーザのいる営業部へと、少年を連れて行った。

営業部。
「あれぇ?みんな揃ってどうしたのー?」
突然営業部に人がぞろぞろと入ってきたのを見て、悟史が驚く。
「みなさん耳かき~」
営業部のデスクの奥の方から、謎の挨拶をしながら現れた、金髪美青年。
「リーザさ……」
「父ちゃん!!!!」
みはるが声を掛ける前に、少年がリーザの前に飛び出す。

『父ちゃぁぁん!! なんでこんなところにいるんだよ!! すごい捜したんだぞ!!』
一気に興奮したのか、日本語を忘れて一番話し慣れている言語で話す少年。
「…………?」
あっけにとられたリーザは、しがみつかれたまま何も返せないでいる。
『わかんない!? オレ、リザンヌの息子のパノスだよ!! 似てるだろ!?』
少年……パノスは必死に訴えかけるが、リーザは次第に困った顔をして、橘の方を向いた。
「………!」
「どうしたの?橘くん…」
橘はしばらく黙った後、答えづらそうにパノスに告げた。
「パノスくん、……お父さん……リーザさんは、君の話してる言葉がわからないそうです」
「ええ!? なんでだよ!オレと父ちゃんの国の言葉なのに!? 忘れちゃったのか!?」
パノスは必死になって、今度は英語で自分が息子であることを告げる。
だが………

『ごめんなさい。人違いだと思います…
君のことも、その女性のことも、知らないのです』

申し訳なさそうに寂しげな目をして、リーザは英語でそう答えた。
とても嘘をついているようには見えない。
「………」
パノスはリーザの腕から離れ、下を向いて黙り込んでしまった。
今にも泣き出すのではないかと、ヒヤヒヤしながら見守る社員たち。
はるばる海外から、父親を捜して日本までやってきて、ようやく見つけたと思った父親に
「お前なんか知らない」と言われて、傷つかない子供はいないだろう。
「……………ちゃんなんか……」
ふるふると握り拳を震わせる、パノス。
「……!」
見ていられなくなった結佳が彼の肩に手をやろうとした瞬間、

「………父ちゃんなんか、遊んだ女どもに刺されてくたばっちまえ――――――!!!!」

拳を振るい、顔を殴ってやろうかと思ったのだが届かないので、
彼の拳はリーザの…よりによって股間を直撃した。
「!!!!!………」
声にならない声を上げて倒れるリーザ。
「きゃーーリーザ様ぁ!! 大丈夫!?」
「…うっわぁ…リーザ様みたいな気品のある男の急所攻撃なんて見たくなかったな…」
痛々しそうなその姿から目を逸らしながら満が言う。

床に倒れて悶えてるリーザを後目に、パノスは会社を飛び出していった。

パノスは飛び出した後、会社の前にある公園のベンチで、一人鼻をすすっていた。
『なんだよ……ちくしょう』
腕で涙をぬぐう彼の視線の横に、温かい紅茶缶が見えた。
「飲みますか?温まりますよ」
「姉ちゃんは……さっきの」
心配した結佳が追いかけてきたのだ。

結佳は、リーザが記憶喪失であることを説明した。
「父ちゃんが……記憶喪失……」
「原因はわたし達、会社にもわかりません…
けど、今は分かり合えなくても、こうやって親子再会できたんですし、いつかは」

「しっ、知らねぇよあんなボケオヤジ!オレのこと……はともかく、
母ちゃんのことまで忘れちまうやつなんて……もう、絶交だっ!!」

「そんなことを言ってはいけません!」
大きな声に対し大きな声で返されたパノスは、びっくりする。
「少なくとも、リーザさんが居なければ、あなたはここにいることすらできなかったのです。
今この人生を生きていられるのは、間違いなくお父
様とお母様のお陰なんですよ。
たとえどんな人間であろうとも…」

「で、でも……父ちゃんは、母ちゃんのこと知らないって……ひどい、ひどいよ。
だって、母ちゃんは……」

「お母様が、どうされたのです?」
「母ちゃん死んじゃった……それ伝えたかったのに……うわああああん」
それだけ振り絞って吐き出すと、パノスは結佳の胸で大泣きしてしまった。

 

(続く)

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