「……落ち着きましたか?」
パノスは泣き声こそ止まったものの、結佳にしがみついたまま離れない。
結佳は彼の頭を撫でながらつぶやき始める。
「忘れられたって、いいじゃないですか。生きてそこにいるんですから。
生きてさえすれば……また、新しい親子関係はいくらでも築けます。
わたしを生んでくれた父と母は……亡くなってしまいましたけど……」
パノスは、はっとして顔を上げる。
「姉ちゃんは、父ちゃんも母ちゃんもいないのか!?」
「いなくはないですよ?新しい父と母に引き取られて、仲良くやっています。
ただ、生んでくれた両親はもういないのです。
忘れられるどころか、会うことも、話すこともできない存在です」
「…………」
「だから、あなたのお父様は生きてるんだから、いいじゃないですか。
生きてさえすれば、何だって出来るはずです。ご自分のことも、お母様のことも。
忘れられてしまったなら、またこれから覚えてもらえばいいのです」
「これから………」
「結佳ちゃーん!だいじょうぶー?」
なかなか戻ってこないのを心配したのか、みはるが会社から呼びに来たようだ。
「…えっと、パノスくんだっけ…だいじょうぶかな?」
おそるおそる覗き込む。
「…おう、こうしちゃいられないもんね!!」
さっきの泣き顔はどこへやら、
パノスは涙をぬぐっていつの間にか強気な表情を取り戻していた。
『と、言うわけでー、さっきはゴメンな!』
パノスは、照れながらも潔くリーザに謝罪した。
『いいえ……僕も君の事情も知らずに、
酷いことを言ってしまったようで……本当にごめんなさい』
リーザも英語で謝罪を返す。
パノスと結佳がいない間、社員達が事情を説明しておいてくれたらしい。
『まあ忘れちゃったんなら、仕方ないよな!
これから覚えてくれよな!親子なんだから!!』
無邪気に寄り添ってきたパノスの頭を、リーザが優しく撫でる。
『そうですね』
記憶はないので戸惑ってはいるが、仲良くなろうという気持ちはあるらしい。
「あの~……」
家族団らん(?)の邪魔するのが申し訳なさそうに、みはるが声をかける。
「パノスくんって、何歳なのぉ?」
「オレ?10歳だよ!」
「リーザ様の歳(23歳??)でパノスくんくらいの子供がいるのって
…ありえなくないの?」
「えー?だって父ちゃん35とか6とかそのくらいだぜぇ?
忘れたけど。だから普通じゃねーの?」
35!!!??
その場にいた一同が愕然とする。
「うっそ、じゃあオレや久我ちゃんやナッちゃん(瀬上奈津恵)
とかより年上!? マジでぇ!?」
「それが本当ならまさにおとぎの国の住人みたいな人ですね…リーザさん…」
「えぇぇ!? リーザ様ってそんな素敵なお年頃だったんだ♪
あたしのストライクゾーンねv」
社員それぞれの反応は様々である(笑)
「そういえば…パノスくん、さっきリーザ様に
『遊んだ女どもに刺されちゃえ』とか言ってたけど…
写真も女の人いっぱいはべらせてたし、リーザ様っていったい何者なのぉ?」
「ん?父ちゃんはオレの国の王子なんだ!どうだびっくりしただろ!」
びっくりするどころか、一同は ”やっぱり!!”という顔をする。
見たまんまのキャラだったというわけだ。
「で、父ちゃんは王家の跡取りなんだけど、そのまた次の跡取りをオレだと認めてほしくて、
今まで捜し求めてたってわけなんだ!」
「へぇぇ~、なんかマンガみたいな話だねっ!」
「ハハハ、まぁどうしても先代の王子の認知が必要みたいでさー。
早くしないと他のやつに先越されちゃうし」
「他のやつ?」
「だって父ちゃん、子供あと25人くらいいるみたいだし」
どんだけ――――――!!!???
「まぁ、まずは親子の絆深めないとなっ!よろしくな父ちゃん♪」
この後、パノスは無理矢理にリーザのマンションへと押し掛け居候となるのであった。
「良かったですわね、パノスさん」
みんながびっくり仰天でドタバタ騒ぎしている中…
結佳はひとり、異国からの珍客を温かな瞳で見つめていた。
(おしまい)