[NEWS] 桐島上総のお盆

○刊ねぎ秘密結社ニュース

(神奈川の郊外にある、のどかな、とある寺)

 

住職:こんにちは。今日も暑いですな。

上総:こんにちは。今年は本当に暑さが厳しいですね。

住職:お参りですか。

上総:ええ。こちらに……妻が眠っておりますので。

住職:お若いのに…奥様が。では、どうぞ、ゆっくりお話してきてください。

上総:はい。失礼いたします。

 

 

上総:……奏子……来たよ。今日も暑いね。
……3ヶ月ぶりくらいかな?最近あまり来れなくて…ごめん。

綺麗な花が供えてあるね。大きな向日葵…。
お義母さんが供えたのかな?君が一番好きだった花だよね。
花瓶持ってきて正解だったな。僕が持ってきた花はこっちに入れよう。

もう、8年も経ったんだね。長いような、短いような……。
……沙織さんに出会うまでは、一日一日がすごく長かったんだけど。
今では、何だかあっという間かな。気がついたら30になってたし。
毎日が、結構楽しくて…。
全然、振り向いて貰えてないけどね。

……………

君の事は、冷めた訳でも、ましてや忘れた訳でもないんだ。
昔と何一つ変わらず、好きだし、いつも想ってる。

でも……それと全く同じくらい、沙織さんのことも、好きで…。

何か…君以外の女性に気持ちが行ってるのに、ここに来るのは、失礼な気もして……
なかなか来れる勇気が出なかった。
情けないよね。

君なら、笑って背中を押してくれるって、わかってるのに。
ウジウジしてるの、自分がするのも他人がするのも、一番嫌いだったよね。
そう、わかってるのに……。

……………

……もし、君が今生きていたら。今、ここに居たら。
沙織さんを好きになることは、無かったはず。
彼女も、それに気付いてる。だから……
この先、想い続けても、報われないかもしれない。
でもね………

恋人同士じゃなくても、夫婦じゃなくても。
彼女が、他の誰かと結ばれても。
幸せそうに笑っていてくれれば、僕が彼女にとってどんな立場であるかなんて、
どうでもいいことに、最近気がついたんだ。

もちろん、僕の隣で笑っていてくれるのが、一番良いんだけど……
……この想いは一生ものだという自信はあるけど、
振り向いて貰える自信は……あんまり無いんだ。無いんだけどね。

それでも今が、とても幸せなんだ。
……これって、おかしいかな?

でもいつかは、この気持ちが本物だって事だけは……
……君の代わりなんかではなく、沙織さんが好きなんだって、わかって貰いたいな。
だから、いつも、つい気持ちを押し付けてしまうんだよね…。

……ごめんね。何か沙織さんの話ばっかりで。
本当、情けないけど……こんなだけど。
前を向いて頑張ってるつもりだよ……僕なりに。

見ていてね。

 

 

住職:お参りは、済みましたか。

上総:……ええ。久しぶりだったので、色々と話していました。

住職:……奥様は、お若かったのでしょうが……幸せだった……いや、幸せでしょうな。

上総:え?

住職:貴方の顔を見ればわかります。
遺された者が幸せでいることが、故人への最高の供養ですよ。

上総:そ、………そんな、幸せそうな顔してましたかね?

住職:はは、そんな困った顔をしないで下さい。
お墓参りは辛気臭い顔をしなければいけない、という決まりはないですよ。

上総:あ、あはは……

住職:また、いらしてください。暑いのでお気をつけて。

上総:はい、ありがとうございます。では。

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