(終業後、食堂)
沙織:いや~、あこちゃん何だか申し訳ないね!ホントにここでごちそうしてくれるの?
あこ:は、はい……
千雪:暇ですし、言われるがままに付いてきましたけど…一体なんなんですの?
沙織:いやね、前にあこちゃんのお昼のお弁当、ちょっとつまませてもらったら
爆発級にウマくってねえ!訊いたら全部手作りだっていうから、
冗談半分でごちそうしてよーって言ったら、作ってくれるっていうからさー!
千雪:爆発級…それは何だか気になりますわね。
あこ:そ、そんな…言いすぎです。ただの、よくある和食ですよ。
沙織:いいじゃんいいじゃん和食!和食大好き!
旦那はほとんど洋食とスゥィーツしか作らないから和食に飢えてんのあたし!
千雪:お食事、旦那様が作っているの?
沙織さんが自分で和食を作ればいいのではなくて?
沙織:∑( ̄□ ̄;)い、いいじゃんあたしが作るより奴が作った方がウマいんだもん!
おいしいの作れる方が作る方がいいんだってば!
あこ:あ、あの、それじゃちょっと作ってきますので、少々お待ちくださいね。
下ごしらえは、昼休みのうちにしておきましたので、
そんなに時間はかからないかと思います。
千雪:そういえば、食堂勝手に使ってしまって大丈夫ですの?
沙織:だいじょーぶだいじょぶ!
前もってあたしが蔦子ちゃんに許可取っておいたから!
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あこ:……できました! そちらにお持ちしますね。
(お盆に入れて、厨房からいそいそと運んでくる)
沙織:おお~~!いいにおい!
あこ:まずは、里芋の煮ころがしと、鯖の味噌煮、
あとは家から持ってきた大根の香り漬けです。
沙織:(大根の香り漬けを一口ぽりぽり)
うぉぉおお~~!うまあああ!!!
あとひくおいしさ!やめられない止まらないとはまさにこのこと!
千雪:……!! とってもいいお味だわ……(それだけ呟いて無言で食べ続ける)
あこ:あとは、きんぴらごぼうと、だし巻き卵、筑前煮です。
ほんと、ありきたりのものばかりですけど…
たくさんあるので、お気に召したらお持ち帰りください。
沙織:うおはああああああ!!どれもうますぎいいい!
お気に召すどころか、持ち帰って転売してもいいレベル!!
千雪:転売は失礼ですわよ沙織さん…
沙織:冗談だっての!売り物になるくらいウマいってこと!!
千雪:私も少し持ち帰らせて頂こうかしら…それと、千歳さん。
あこ:はっ、はい?
千雪:今日のお料理のレシピを教えていただけるかしら?
沙織:お?千雪ちゃん自分で作るん?
千雪:いえ、うちのシェフに作らせてみようかと
あこ:∑シェフ!? そ、そんな、ただの普通の和食ですよ!?
千雪:こういった基本中の基本の料理をとても美味しく作るというのは、
プロにはとっても大事なことだと思いますもの。
千歳さんを見習わせて、うちのシェフの腕の再確認をですね…
あこ:あわわわわわ……
沙織:それにしても、あこちゃんマジ料理上手だねえ!お料理学校でも行ってたの?
それともお母さん直伝とか、自己流とか?
あこ:お料理を含む家事全般は……花嫁修業として小さな頃から学ばされてましたので……
沙織:花嫁修業!すげーわー!
あたしも結婚したけどそんなんやったことないわ!www
あこちゃんならすっごいイイ奥さんになれるね!
あこちゃん嫁にする男がうらやましーわ!
あこ:………!
沙織:それとももしかして、もう既にイイ相手がいたりして?(にやにや)
あこ:あ、あの……その、い……
沙織:そーだよねそーだよね!あこちゃんだってイイ年頃だもん!いないわけがないか!
どぉれどれ~、おねーさんに聞かせてごらん~?恋の相談なんでも来い!
千雪:……沙織さん、そんなに深く追求しない方がいいんじゃなくって?
千歳さん、困ってらっしゃるわよ。
沙織:(≧▽≦)えー! 女同士集まったらすることと言ったら、やっぱ恋バナっしょ!
ねーねーあこちゃん、相手どんな人なん!?
代わりにウチの旦那の話でもするからおせーてよー!
千雪:旦那様のお話って……ただ単にのろけたいだけなんじゃ……
あこ:……………
沙織:……………黙っちゃった(´・ω・`)
千雪:ほら見なさい。完全に困らせてしまったでしょう。
沙織:……ご、ごめんね?あこちゃん。
なんか事情もあるだろうし無理矢理訊くもんじゃなかったね!
あこ:あ、あの………正直に話しても、いいでしょうか………
沙織:(゚∀゚)! どうぞどうぞ!
あこ:………
(首から下げていたネックレスを取り出す。トップにシンプルな指輪がついている)
沙織:それ………
あこ:……あの……私、結婚してる……してた、んです。
沙織・千雪:!?
あこ:相手は……営業部の、泉…課長の、お兄さん、でした。
沙織:! なるほど……そうだったのかあ、
なんか、あこちゃんと照美ちゃん、前から知り合いっぽい
空気があったけど、どういう関係?とも訊きづらかったしなぁ。
千雪:でも……「でした」ってことは……
あこ:は、はい……夫は、4年前に事故で亡くなって……しまい……ました……
沙織:( ̄□ ̄;)……!!
ご、ご……ごめん!そんな事情があると知らず無神経に突っ込んじゃって…!!
あこ:……いいんです。普通の23歳の女性なら、恋愛話なんて、
ほんと、普通でしょうし……
沙織:(なんかこの空気、妙にデジャヴすると思ったら、カズくんの逆パターンか…!)
あこ:……私、夫が亡くなって4年間、何もかもから目を背けて、
ずっと塞ぎこんでいたんです……でも、それじゃだめだって、
気付かせてくれたのが、照美さ……南十字部長、でした。
沙織:な、なるほどぉ。さすが照美ちゃん……
あこ:ちゃんと前向いて生きよう、って……
夫を、忘れることは、できないですけど……(指輪見つめながら)
千雪:別に、無理に忘れようとしなくても、良いんじゃなくって?
旦那様の思い出を抱きつつ、自らの幸せを探すと良いですわ。
沙織:そーそー!ぶっちゃけ言っちゃうと、
うちの旦那も前の奥さんを病気で亡くしてるんだわ。
でも今でも堂々と言うもんね、前の奥さんもあたしも好きだって!(≧▽≦)きゃー
千雪:またさり気なくのろけてますわね……
あこ:! 桐島さん(=沙織)の旦那さんも………
………あっ……あのっ!桐島さん!
沙織:なに?
あこ:桐島さんの旦那さんって……あの、確か、この会社にいらっしゃるんですよね?
沙織:あれ?会ったことないっけか。そーいやあこちゃんはまだ新人だし
開発企画会議に出ることもないし、会う機会もなかったかー。
開発研究室の主任やってるよ。メガネかけてるからすぐわかるよ。
千雪:そこ判断材料なんですの !?
あこ:あの……
桐島さんの旦那さんと、ふ、ふたりで、お話させてもらえないでしょうか……!
(つづく)