(屋上公園)
みはる:(あーもう、今日は橘くんは出張だし、お昼ひとりでつまんなーい!
……って、あれ?)
(ベンチで一人で座っている大島 梧を発見)
みはる:(あれ~、梧[あお]くんだぁ。あおくんもひとりでお昼かな?
(しばらく様子を見る)
梧:…………………はぁ。
みはる:(ため息ついてる……)
梧:…………(笑顔はなく、どことなく空ろな目つき)
みはる:(そういえば、あおくんが笑ってないとこって、初めて見たかも…)
梧:(しばらくして、少し離れた木陰にみはるがいることに気づく)
……あぁ、みはるちゃん。いつの間にそこにいたのかな(にこにこ)
みはる:う、うん、ちょっと前から~。
梧:ここのベンチ使うの?だったら退くけど。
みはる:う、ううん、別にどかなくても!せっかくだから、一緒にお昼食べよ?
梧:ははは、別に構わないよ。
・ ・ ・ ・ ・
みはる:あおくん、手作りのお弁当なんだね~。自分でつくってるのぉ?
梧:うん。
みはる:へぇぇえ~!すごおい!マメなんだね~!
梧:ははは、別に、前日の晩御飯のおかずの残りを適当に詰めてるだけだよ。
みはるちゃんこそ、毎日橘兄さんのお弁当作ってるんでしょ?変わらないじゃない。
みはる:あたしのは、みひろちゃんとふたりで作ってるしぃ~。
梧:それでも毎日は大変でしょ。
自分のならともかく彼氏にあげるものなら手も抜けないでしょ。
みはる:あはは、そ~かも~。
(しばし会話が途切れる)
みはる:そーいえば……
梧:?
みはる:あおくんとこーやってふたりで話すの、はじめてかも!
だってなんかいつもは、
梧:いつもは?
みはる:なんか、ずーーーっとにこにこしてるから逆に
なに考えてるかわかんなくて声かけづらいんだもん!
梧:ははは、そうかな~。
みはる:そうだ、さっき、あおくんため息ついてたでしょ!なにか悩みでもあるのっ?
梧:ため息?……あぁ……
みはる:あたしでよかったらなんでも話していーよっ!
なにせ、将来はあおくんのおねえちゃんだもん!
梧:姉………そういえば、そうだね。
みはる:さあさあさあ!おねーちゃんの目を見て話して!
(梧の両肩を掴んでじっと顔を見つめる)
梧:…………みはるちゃん、
みはる:なあに?
梧:あんまり……いや、僕の目、じっくり見たら駄目だよ。
みはる:あーごめんね!近すぎたかな!
梧:そうじゃなくてね…。
僕の目を直視したら、ろくなことが起こらないってことさ。
みはる:ろくなこと…?
梧:……今までもそうやって、いろんな人を狂わせてきた。
いろんな人の知りたくない部分を知ってきた。
悲しいけどね、僕は「これ」のせいで他人を心から信じることが出来ないんだよね。
みはる:あお、くん……?
梧:将来家族になると思う君だから言うけど。
大島家の人間は特殊な能力を持ってることは知ってるよね。
僕の能力は、目を合わせた相手の心の奥のトラウマを強制的に引っ張り出すこと。
心の奥のどす黒い感情も吐き出させちゃうオマケつきだ。
みはる:それで…いつも人と目をあわせないで、にこにこしてるの…?そんな…。
梧:まあ、そんなに深刻にならなくても大丈夫だよ。
ちょっとだけ視線を合わせるくらいなら大丈夫だし、
僕より「上」の人間には効かなかったりもするしね。
みはる:うえ?
梧:僕よりもはるかに強い能力の持ち主にってこと。橘兄さんにはまず効かないし。
みはる:そっかぁ……あおくん、大変なんだね……。
梧:だから、そんな、みはるちゃんが深刻にならずとも…
みはる:でも大丈夫!!!
梧:!?
みはる:あたし、梧くんと見つめあって、昔のいやなこと思い出してもすぐ立ち直るし、
あおくんに対して悪いこととか思ってないもん!!!
そりゃ、ちょっと腹黒そーかなーとかくらいは思ってるけど!
思ってることはだいたい正直に言っちゃうし!
梧:(あっけ)
みはる:だから、なんかあったら、どんどん頼っていいんだからね!
あたしお姉ちゃんだから!!
梧:……ははは……まいったな。さすが橘兄さんの好きになった子だなぁ。
まるで裏表なさそうだよ、みはるちゃんは。
みはる:えへへへへ…よく言われるっ!
梧:でも、ごめんね。なんでも笑顔の裏に隠すクセは昔からでね。たぶん今更直せないんだ。
けど…何かあったら、「お義姉ちゃん」に話しても、いいのかな…。
みはる:もちろんだよ!
ほら、あたしたち同い年じゃん!結構話しやすいかもっ!?
梧:ははは、そうだね、話しやすいかもね。
みはる:……あっ、そろそろお昼休み終わっちゃうね!じゃあまたね!あおくん!!
梧:ははは、またね。
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梧:(世の中の人間が、みんな君みたいなのだったら、苦労しないんだけどね)