(屋上公園)
紅葉:(は~~~~、午前の仕事かったるかった~
昼メシなんにしよ……買いに行くのもだりーなー…
……あ、ポケットに百武さんからもらったアメがある。これでいっか)
(公園のベンチに、神妙そうな顔をして座る女性が一人。弁当を食べている)
あこ:……………もぐ
紅葉:(チッ、ベンチは先客か。誰だあの女)
あこ:………はぁ………
紅葉:(なんか暗い顔して、めちゃくちゃ豪華で量の多い弁当食ってるけど……美味しくねーのか?)
あこ:……せっかく作ったんだし……食べないと……でも……(箸を止める)
紅葉:何、食べたくないのに食べてるの?そのお弁当。
あこ:きゃ!? え、えぇ!?
紅葉:ああ、ゴメンね。なんかすごい豪勢なお弁当なのに、嫌そうに食べてるなーって。
すごいね、ソレ手作り?
あこ:あ……はい。全部自分で作りました。
紅葉:っていうか量もすごいよね。全部自分用なの?
あこ:…………は、はい…………
紅葉:ふーん。で、作りすぎて嫌になっちゃったとか?
あこ:いえそんなこと……いつもこのくらい作って食べてますし……
紅葉:いつも。
あこ:ぅぁああいええっ、えと、あの、はい……。量多すぎですよね……アハハハ……
紅葉:じゃあ、体調悪くて食べきれないとかかな。
あこ:……………
紅葉:(なんなんだ?まあいいや)……別に、僕が深く聞いても意味ないことか。お邪魔して悪かったね。
(立ち去ろうとする、紅葉)
あこ:………職場の、ひとたちに………
紅葉:?
あこ:「最近太ったんじゃない?毎日そんな大量のお弁当食べてるからよ」って言われて……
紅葉:ふーん?
あこ:私……料理が好きで、お弁当作りも好きで……食べることも好きで。
毎日、お仕事頑張ってるご褒美のつもりで……お弁当に、好きなものを好きなだけ詰めて持ってくるのが、一日の中でも一番楽しみな日課で……
紅葉:うん。
あこ:でも、そういう風に言われると……もっと、身体にいいものを食べた方がいいのか、とか、量を減らした方がいいのかとか、
色々もやもやと考えちゃって……いつものお昼ご飯をいつも通りに食べたら、また太っちゃうかなとか……
紅葉:あんた……じゃなかった 君が太ると、誰かが困るの?それとも、君は痩せたいと思ってるの?
あこ:えっ……わ、私は別に、あんまりスタイルとか気にしないほうなので……
まあ……健康は、気をつけなきゃなくらいは、思ってますけど……思うだけだけど。。
紅葉:じゃあいいじゃん、好きなもの好きなだけ食べて何が悪いの?
太ってて何が悪いの?それで職場の人たちになんか迷惑かけた?
あこ:め、迷惑なんてかけてないですし…!
紅葉:(無言で、あこの弁当のおかずをひとつ、つまみ食いする)ぱくっ、もぐもぐ
あこ:!!
紅葉:……っぐ、なにこれ、ウッッマッッッ!!!!
ハラ減ってたから余計に美味く感じる……!!!
こんな美味いモノ、んなクッソマズそうな顔で食ってたんかよ!!!!
あこ:………
紅葉:(っと、つい「素」が……)ッゴホン、とにかく、
自分が好きで作ったモノを否定して、それを食べる自分まで否定する権利なんて、職場の人たちにないでしょ。
そんなヤツら、放っとけばいいじゃん。自分の趣味否定する奴らなんかその辺の石ころだと思って無視無視。
こんな美味しいお弁当、そんなつまんない一言でやめるなんてもったいないよ。
あこ:……あ、ありがとうございます……よ、良かったらこっち、食べますか?こっちの箱は口つけてないですし……割り箸もあります。
紅葉:え、マジ?いいの?
あこ:お腹すいてたって言ってたので……
紅葉:ラッキー!昼飯買いに行くのめんどくてここにあるアメだけにしようと思ってたから助かった~!
あこ:あ、アメ……
紅葉:んじゃいただきまーす。……もぐもぐ……う~んウマッ!!!
あこ:(会社で初めて見る子だけど……どこの部署の子だろう……年下みたいだけど。
自分の趣味を否定されてちょっと落ち込んじゃったけど……なんだか励まされちゃった。)