(とあるお洒落なバー)
女性:……そういうわけだから。私たちもう終わりにしましょう。
湧木:や、ほんとゴメンって。君に遠慮してることなんて何もないし…
女性:嘘。いつもいつも、ここぞって時は何か一歩引いた態度とるじゃない。
エスコートは確かに上手かもしれないけど、結局どこか他人行儀。
湧木:う……
女性:このお見合いをセッティングしてくださった方々には申し訳ないけれど…私たち、縁がなかったのよ。
湧木:…………
女性:あなた、私と結婚して、一緒に生活して、子供ができて、育てて、一緒に年をとって…って、想像できる?
……少なくとも私は、想像していたけれど。
湧木:結婚して、子供……
女性:でも、それを現実にする意気込みとか、やる気とか、そういうの、全く感じられないし。
優しいけど……それだけって感じで。確かに、私にも至らない点はあったかもしれないけれど。
湧木:そんなことないよ!君に悪いところなんて、ないよ。
女性:そう、そういうところよ。お前のここがダメだとか、もっと思ってること言い合えるような仲に……私たちは、なれてなかったのよね。
湧木:そんな……
女性:……そんな顔しないで。ただ、夫婦にはなれないけど友達としてなら、やっていけると思うから。これからは「そういうこと」で、ね。
湧木:……うん、わかった。ごめんね。
女性:こちらこそ、ごめんなさい。それじゃ、失礼するわね。
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(数日後、社員寮「わけぎ」101号室)
久美子:な~に~?お兄ちゃん。またお見合いの相手の人とダメだったの~?
湧木:ヴッ………なんでわかるん………
久美子:だって、最近全然出かけなくなったし、スマホもあんまり鳴らないし、ゲームばっかりしてるじゃん。
湧木:ですよねー…
久美子:も~、なんでそんなにお見合いばっかりするの?どうせ長続きしないんだから、やめればいいじゃん!
湧木:そーいってもなぁ、じいちゃんが結婚しろしろうるさいから…頼んでもないのに次から次へとお見合い相手連れてきちゃうし。
久美子:誰を連れてきたって無駄なのになぁ~。お兄ちゃんがいっちばん好きなのは、あたしだもんね!
湧木:………そ―――――ぉなんだよなぁ――――――♥♥ 久美子以上にイイ女なんていないから困るよなぁ!!!!(久美子を抱きしめ)
久美子:だよねだよねー♥ あたしもお兄ちゃん大好きだもん♥♥♥
でも、兄妹は結婚できないから仕方ないよねぇ。あたしだって子どもじゃないしそのくらいは知ってるもん!
湧木:そうだよなー、それが残念だよなー!ん~も~、久美子がかわいすぎるのが一番悪いな!(なでなでなで)
久美子:もーお兄ちゃんたら~!
……あっ、そろそろ塾の時間だ!行かなきゃ!
湧木:あ、送ってくよ!
久美子:いいよー!今日は友達と待ち合わせして行くから、大丈夫!
湧木:そっか。気をつけてな~!
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湧木:………はぁ。結婚か……久美子とできるんなら、それ以上にイイ事はないんだけどな。そもそも無理だし。
浪路:じゃあすればいんじゃね?
湧木:うわぁぁっ!!!! 浪やん先輩!? いつからいたんスか!!!
浪路:ついさっき来たとこだよ。お前が玄関あけっぱで妹とイチャイチャしてるから邪魔しちゃ悪いかなーって思って、落ち着くまで黙って見てた。
湧木:いやいやお恥ずかしい。僕と久美子のラブラブっぷり見せつけちゃったな~。
浪路:ついでに独り言も聞いちまったわけだけども。そんなに妹が好きなら、結婚すればいいじゃん。
湧木:兄妹が結婚できるわけないじゃないっスか。結婚できるなら今頃八雲くんは先輩を食い倒してますよ。
浪路:あの変態はとりあえず生ゴミの日にでも丸めて捨てとけ。
ってかウチは血の繋がりのある姉弟だし。久美子ちゃんは、血の繋がりないんだろ?
湧木:あ、あぁ……はぁ、まぁ。
浪路:確かに年は結構離れてるが……そんなの、時が解決してくれるものだし。本気で考えてもいいんじゃないか?
湧木:久美子は、僕のこと本当の兄だと思ってるんスよ。
それに、先輩にも話したかと思うけど、僕は湧木家の養子で、湧木家のホントの子は久美子だけなんっス。
浪路:ああ、いずれ久美子ちゃんが湧木家を継がなきゃいけないとかなんとか言ってたな。そんなん、お前と結婚すれば問題なしじゃん。
湧木:………問題なしじゃないんっスよ。
浪路:え。なんで?
湧木:……………これはちょっと、僕の、センシティブな問題なんで……詳しくは、言えないっスね。
浪路:センシティブって……なんか、深刻な悩みがあるなら聞くぞ?
湧木:ざっくり説明すると、僕も、先輩と同じような感じってだけっス。
浪路:俺と……同じ?
湧木:……この話は終わり!で、先輩何しに来たんスか?
浪路:あ、あぁ、借りてたDVD返しにな。
湧木:わざわざありがとっス。じゃ、今日はこのへんで!(バタン!)
浪路:お、おい廉坊!………なんなんだ?あいつ。なんか思い詰めてなきゃいいけど。
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湧木:(……言えるわけないよ。僕が男性として不完全な身体だなんて……。)