(マンション「メゾン・ド・ヘブン」)
あこ:みかん♥ ぽんかん♥ いよか~ん♥(※全部飼い猫の名前)
みかん・ぽんかん:にゃぉ~~ん
あこ:はいっ、ゴハンだよ~♥ ……あれ、いよかんは?
みかん・ぽんかん:(気にせず黙々と食べている)
あこ:いよかん?いよか~~ん??
(ありとあらゆる、思い当たる場所を捜し始める)
あこ:………いない、どこにもいない………まさか、さっきちょっとだけコンビニ行って、玄関開けた時に気付かずに出て行った…!?
これだけ探してもいないんだもの……きっと、外……!!
みかん:にゃう?
ぽんかん:んにゃ~ぅ
あこ:2匹ともゴハン食べて待っててね!捜しに行ってくるから!!
(外に出る)
あこ:いよか~~~~ん! いよか~~~~~~んっっ!! どこ―――――!?
(今は夕方……薄暗くて、見通しも悪いし、車の通りも激しい時間帯……く、車にはねられでもしたら……!!)
いよかん!お願い出てきて!いたら返事をして!いよか――――――ん!!
”ドスン!”
あこ:きゃっ!……ごっごめんなさい!前をよく見ていなくて…お怪我がありませんかっ!?
カール:おやおや、華奢な小鹿さんがぶつかってきたかと思えば、マドモアゼル千歳じゃありませんか。
あこ:(うわっ!捕まったら長そうなのとぶつかっちゃった!)……こっこんばんは、すいません急いでいますので
カール:どうなされたのですか?確かにずいぶん焦っておられるようですが。
あこ:いよかん……飼っている猫がいなくなってしまって。すぐに捜さないと、この車通りの激しい時間帯だと、最悪の事になりかねないので…!
カール:なるほど。しかし猫は小柄で身が軽く、身を隠すのにも長けた動物。そんなひとりで闇雲に捜しても、無駄に体力が削られるだけになってしまう…。
あこ:そうですけどっ、ひたすら探すしかないじゃないですかそんなのっ!
カール:でしたら、私がひと肌脱ぎましょうか。
…ちょっと、マンションから道具を持ってきますので、貴女はいなくなった猫さんの匂いのついた愛用の物や、抜け毛などがあれば持ってきてください。
あこ:え?なんで…
カール:早く!事態は一刻を争うのでしょう?
あこ:!! は、はいっ!
・
・
・
カール:これは……毛を丸めた、玉?
あこ:はい、いよかん……猫をブラッシングした時にできた、抜け毛を集めた玉です。
カール:ありがとうございます。お借りしますね。ではこれと…
あこ:……石?
カール:わが祖国に伝わる魔法石の、ほんのひと欠片です。これを、毛糸玉と一緒に薄手の木綿の小巾着に入れて…
「・・・・・・・」(何かの呪文を小声でつぶやく)
はい、どうぞ。(20cmくらいの紐でつるした小巾着をあこに手渡す)
あこ:これは?
カール:魔導を施した簡易ダウジングです。捜す相手と縁深い者が持つことで高い効果を発揮します。半径30m程度の範囲に、猫さんがいれば光るようになっています。
あこ:そ、そんなすごいことできるんですか?たったこれだけで…
カール:目視で探すよりは幾らかは楽になると思います。私も微力ながらお手伝いいたしますので、一緒に捜しましょう。
あこ:そうだ…早く見つけないと!メイフィールドさん、ありがとうございます!
私はこっちの方を探しますので、メイフィールドさんはそっちをお願いしますっ!
(あこが数歩、駆け出すと巾着が光りだした)
あこ:え…っ!? 光った!?
カール:…おや、ならば近くにいるようですね。巾着を高く掲げて、猫さんのお名前を呼んでみてください。想いが強ければ、より光りが強まるはずです。
あこ:はいっ…!
いよかん!いよかーん!! いるなら返事をしてっ!いよかーん!!
いよかん:……な~~~~ぉ………
あこ:……聞こえた!何か、すごい高いところから聞こえた気がするけど……
今行くからね!声を出して!すぐそばにいくから!!
・
・
・
あこ:いた……!! マンションのすぐ横の街路樹に登って、降りられなくなっちゃったんだ…!
カール:なるほど、マンションのベランダを伝って、木に乗り移ったんですね。
あこ:でもあんなに高いところ…猫みたいにベランダから飛び移るのは無理だし、あんなところに届くハシゴなんかないし…どうしよう…
消防署とかに連絡して、お願いして助けてもらうしかない……(スマホを取り出す)
カール:待ってください。
あこ:えっ
カール:このくらいなら……私で、何とかなると思います。
あこ:えっ、まさか、木に登るんですか!?
カール:いえいえ、それはさすがに厳しいので…
「・・・・・・」(またしても小声で呪文をつぶやく)
いよかん:んなぅ?(身体が空中に浮かび、ゆっくりと降りてくる)
カール:う~~~~~~~ん………
あこ:うわぁ……
いよかん:んなっ!(あこの腕の中に納まる)
あこ:いよかん~~~!!!! もう!お外出たらだめって、いつも言ってるのに…!!!!
カール:よ、良かった……です。無事に見つけられて……はぁ、はぁ。
あこ:ありがとうございます!……って、なんだか汗だく!だ、大丈夫ですか!?
カール:い、いえ……お気になさらず……私は、魔力がとても低いので、ちょっとした魔導でも体力を消耗してしまうので……少し休めば、何ともありませんよ。
あこ:魔導……つまり魔法ってことですか?スゴイです!
カール:いえ…私の魔導など、ちょっとした探し物や、軽い物を動かしたりする程度しか…
我が敬愛する従兄弟閣下や、その上司殿に比べれば、微々たるものです。
あこ:でも私ひとりじゃ、いよかんをこんなに早く助けられませんでした。本当にありがとうございます。
いよかん:んなぅ。んな~ん(お礼を言ってるっぽい)
カール:私のようなささやかな魔力でも、先ほどまで泣き出しそうだった貴女に、素敵な笑顔を取り戻せたのですから、捨てたものでもないのですかね。
私こそありがとう、マドモアゼル千歳。貴女の最高の笑顔を見せていただいて。
では、私は所用がありますのでこのあたりで。また、お会いしましょう。ご機嫌よう。
あこ:ご機嫌よう……って、だからマドモアゼルとか呼ぶのはやめてって……
……まぁ、いいか。今日くらい。
……ちょっと、今日だけは、カッコよかったなあ、メイフィールドさん……。