(開発研究室・別館。午後11時)
久我:(もうこんな時間か。今日はこの辺にして、シャワー浴びて寝るか……)
――――――……………
久我:(……!? 何か、もの凄い不穏な人の気配……?)
雅人:……今晩は。
久我:!?
雅人:君が、久我恭一郎くんかな。夜分遅く失礼。
久我:誰………ああ。もしかして、貴方は……
雅人:初めまして。仙波継人の父で、仙波雅人と申します。
息子がいつもお世話になっているようで。
久我:やはり……仙波くんの。顔立ちが良く似ておられる。
こんな夜遅くに、何の御用ですかな?
雅人:久我恭一郎くん。君の事は調べさせてもらった。
決して表立って行動はしないものの、業界ではかなりの有名人であること。
君の生み出す発明品は、時には世界情勢をも左右するとの評判だということ。
久我:はっはっはっは、そんなこと。まあ、お褒めいただき光栄ですよ。
雅人:……だが、そんなことはどうでもいい。
久我:?
雅人:重要なのは、その数々の奇跡の発明品を生み出す過程で、息子を幾度となく実験台に用い、時には命の危機に晒したこともあるというではないか!
久我:……それについては否定しないが……仙波くん……継人くんは人智を超えた驚異の回復能力を持っている。大事に至ったことはないですよ。
雅人:回復能力が優れているからと、効果もわからない発明品の実験台に命を晒させるのは良いとでも?…………いよいよもって許しがたいな、この狂科学者は。継人が毛嫌いする理由も、良く分かった。
久我:息子さんに、何か聞かされましたかな?……いや、まどろっこしいのは好みませんな。問おう。何が目的でここに忍び込んできた?謝罪か?賠償か?それとも……私の命か。
雅人:命を取ろうなんて思ってはいないさ。これでも一応、表向きは善良な一般市民なのでね。
君に金輪際、息子に手出ししないと誓ってもらうまでだ。
久我:クックックックック………彼のような世界的にも貴重な「素材」を手元に置いたまま飾っておけとでも?そんな馬鹿げた誓いを立てると思っているのかい?
雅人:君の意思なんて聞いていないよ。君はここで僕の眷属となってもらい、半永久的に意思を捕縛させてもらうからね。
君か息子が天寿を迎えるまで、息子には手出しさせない。
久我:……ここに現れた時からビシビシ感じる、獲物を狙う狩人のような殺気は、そのせいかな。
私のような” 狂科学者 ”を吸血鬼の「契約」で縛りつけようとは。貴方こそ生活に支障が出てしまうのでは?
雅人:ふ………確かに「契約」はこちら側も縛られる諸刃の剣。
だがこう見えても僕は、位の高い吸血鬼でね。普通なら契約者1人で手一杯になるが、僕ならば2人でも3人でも、特に不自由することはない。
……たとえ、契約相手の人間の血を飲まずとも、困ることもない。
久我:困るのは、契約された人間の方、ということか。血を飲まれないまま放置されれば、いずれ死に至るという…。
雅人:ご名答。我々の理についても精査しているようだね。
久我:継人くんがダンピールだと知った時に、色々と調べさせてもらったよ。
本来なら、人外についての研究は興味外……なんだがね。
雅人:ならば話は早いね。大人しく、僕の牙に掛かってもらおうか。(ゆっくりと、久我に近づき手を伸ばす)
久我:どうぞ。………出来るのならね。
雅人:…………!?
(久我に手が届く3歩手前くらいで、固まってしまう)
雅人:な、なんだ……!? 壁があるわけでもない、動きが封じされているわけでもないのに、これ以上近づけない……!?
久我:せっかく、こちらが無防備にしているのに、シャイなお方だね。
こんな、体力なさそうな細身のおじさんにすら手を出せないのかね。
雅人:そっ、そんな馬鹿な…
久我:……ふっ、血を貰っておくだけでもこんな効果があるとは。
はじめて目の当たりにしたが、白鳥君は本当に最高位の吸血鬼なのだな。
雅人:!!!!!!
まっまさか……あの御真祖様と既に契約しているのか!?
久我:契約……とは少し違うな。私は彼に血を与えたことはない。
私は表から裏から、それはもう「各方面」からの刺客が絶えないからね。
こういうこともあろうかと、白鳥君の血を注射しておいたのだ。
契約していない場合、時が経てば消化されてしまうようだが、しばらくの間は「虫除け」くらいにはなるらしいのでね。
雅人:む……虫除け……なんという………
久我:……さて、どうする?継人くんのお父さん。
雅人:……………………
久我:……おや、随分と戦意喪失させてしまったようだね。
雅人:…………あー
久我:あー?
雅人:……――――もう!!! なんなの!? ずるいじゃんそれ!!!(泣)
せっかく、継人に好かれようと、継人が嫌ってる上司をやっつけてやろうと思ったのにさあ!
なんなの!もう!この人!真祖とか引っ張り出されたら勝てるわけないじゃんもう!
せっかく人がカッコよく夜中に現れて颯爽ととっちめてやろうと思ってたのにィィ!!!もう無理!無理だよこんなのォ!!!(地団太を踏む)
久我:(ぽかーん)
雅人:っていうかさあ、聞いてよ!継人ったらさ!
せっかく、二十年ぶりくらいに父親として堂々とふるまえるようになったのに、
ゴハンもお出かけも通勤通学もお風呂もトイレも睡眠も一緒してたら、ウザイからいい加減にしろとか言って怒っちゃってさ!!
久我:お風呂もトイレも睡眠も!?
雅人:あっそのへんは断られたけどね!?
久我:ですよなぁ…
雅人:でも添い寝くらいはいいと思わないかい!? そう思ってベッドに入ったら、あの子ってば蹴っ飛ばしてベッドから追い出してきたよ!! お父さん悲しいよ!!!
久我:いくら息子とはいえ、二十歳かそこらまで大きくなったら添い寝は厳しいのでは…
雅人:まだあるんだ!この間大学まで付いて行ったらうんぬんかんぬんかくかくしかじか
久我:(あっ……これはすぐに帰ってくれないやつだな……)
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(翌朝、開発研究室)
継人:……で、なんで父さんが会社にいるんだよ……
しかもよりによってこの変態狂科学者と肩なんか組んでんだ?
雅人:(吸血モードにならなければ触れることはできるらしい)
いやー恭一郎くん!僕ぁ君のこと誤解してたよ!君の、継人に対する愛情は本物だったんだな!
久我:いやいや……雅人さん、貴方こそ、息子さんを本当に心の底から愛する、世界一素敵な御父上ですよ。
雅人:継人、お父さんはな、恭一郎くんと一晩話し合って、彼の人となりを深く知ることができた。
そこでだ。決めたんだ。僕と彼の継人に対する愛は比べようがないほど深く重く大きい!だからこそ、ふたりで手を取り合おうと!
久我:名付けて「継人くんファンクラブ」!! 親御さん公認なんて最高じゃないか!活動内容は継人くんの日常生活を温かく見守r
継人:お前らふたりともクチから手ェ突っ込んで裏返してやろうか