結局…
眞妃に、事の真意を問いただそうと思った早瀬だが。
彼女は午後から早退してしまっていたため、空振りに終わった。
翌日。
眞妃の事が気がかりで、一睡もできなかった早瀬は
いつもよりも1時間も早く会社に来ていた。
オフィスには殆ど人影は無く、
毎日何故か日の出と共に出社する中原幹雄が、
食堂にて愛花・ビビアンと戯れている姿が見られるだけだった。
早瀬は、寝不足から来る疲労のせいもあって、力無い声で幹雄に挨拶をする。
「中原さん、おはようございます……」
「あっ、おはようございます。
……どうしたんですか?元気無いですね。」
「あ、いえ……大丈夫です……」
朦朧とする意識の中で、早瀬はふと幹雄を見て思った。
(今なら、まだ誰もいない……中原さんから例の王女の情報が何か聞けるかもしれない)
「あ、あの…中原さん。昨日、遠山部長から少し聞いたんですが…
成沢部長の旦那様とは、一体……」
幹雄は早瀬の問いに、ほんの少しだけ驚いた表情をしたかと思うと、
懐かしそうな瞳で微笑んだ。
「ああ…相原さん………いえ、今は成沢 明さんですか。
元気でいるでしょうかねえ。…で、明さんがどうかしたんですか?」
「その、明さんというお方が、実は……じょ」
「ジャンバラヤ~」
女性というのは本当ですか、と言おうとした瞬間、
その質問は謎の単語によって打ち消された。
「あ、レオンハルトさん、おはようございます。」
早瀬が幹雄の視線の先……自らの後方に振り向くと。
そこには営業部のフレスリーザ・レオンハルトがいた。
リーザは、幹雄の顔を見て少々考えた後、中国語で言葉を続けた。
『何の話をしていたのですか?』
リーザは幾通りもの言語を話すことができるため、
人を選んでは、その人に通用する言語で話す。
彼は幹雄が中国語を理解できることを知っているのだ。
『ああ、相原さん……成沢 明さんのことを話していたんですよ』
『そうなんですか。懐かしいですね』
残念ながら中国語は理解できない早瀬は、二人の会話の内容が分からず、少々困惑する。
「……あっ、すいません。明さんのことを話していたんですよ。」
早瀬の心中を察した幹雄が、慌てて日本語に切りかえる。
「レオンハルトさんは以前ここに勤めていた明さんの後任で
接する機会も多かったですから、明さんのことはよく知っていると思いますよ。」
幹雄の言葉に、早瀬は即座にリーザに言い寄った。
「レオンハルトさん!……成沢部長の夫、明さんが女性という話は本当ですかっ!!??」
真面目な早瀬の口から出たとんでもない言葉に、幹雄は目を丸くした。
だが、幹雄のツッコミが入る前にリーザが口を開く。
「……Oh?それは女子トイレでシャンプー&リンスですね?」
日本語になると相変らずの意味不明言語。
だが、寝不足と不安からくる混乱で、早瀬の思考は少々おかしくなっているのか。
「な……!?明さんは女子トイレでシャンプーをするような人間なんですか!?」
「しかも3番線ホームで土鍋を生ゴミは火曜と金曜ですね。」
「生ゴミを火曜と金曜!?なんて人だ!」
早瀬の住む地域の生ゴミ出し日は月曜と木曜であった(笑)
「ちょ、ちょっと奥田さん、どうしたんですか?落ちついて……」
さすがに見かねた幹雄が止めに入ろうとすると……
「おはようございます。あら、奥田さん。今日は早いんですね。」
能天気に受け答えするリーザに、興奮気味の早瀬。
困惑する幹雄の前に現れたのは…噂の長本人、成沢眞妃であった。
眞妃の姿を見たとたん、早瀬は眞妃の両肩を掴み、必死の表情で訴えた。
「成沢部長!!!目を覚まして下さいっ!!!貴方は騙されているんですよ!!!」
「………………は?」
「……別に、俺は同性同士で愛し合う事は決して悪い事じゃないと思ってます…
お互いがお互いを必要としているなら、それでもいいと思います。
……けど、貴方は違う!!貴方は邪悪な王女の手による、
王国の催眠術によって、偽りの愛情を持たされているだけなんです!!!
俺は……俺はっ、認めない!!!」
……もはや誰も早瀬を止める事はできない(笑)
しかし、事態をさらに悪化させようという人物が、今まさに現れようとしていた。
「イヤ~ン、会社に来るのも久しぶりね~~ン♪♪」
(続く)