(情報システム部)
杏寿:はぁ………。
浪路:ん?なんだ杏寿、ハンカチなんか握りしめて、ため息ついて。
杏寿:あ、浪路さん…。実はこのハンカチなんですけど、
一昨日、社員通用口の前で拾ったのです…。
恐らく、この会社の人のものではないかとは思うのですが…。
浪路:誰のものかわからない、と。
杏寿:はい…。
浪路:まぁなー、学生じゃあるまいし、
持ち物にいちいち名前書いてる大人なんてそーいないだろうしな。
ま、テキトーに食堂にでも貼り出しておけば誰か持っていくんじゃね?
杏寿:そ、そんなこと……したら……。
浪路:ハンカチの一枚二枚、仮に盗まれたって……って、これ……。
杏寿:……すごく、高そうなハンカチ、なんですよね……。
浪路:よく見るとこれ、シルクだな…。
しかも男性ブランドもんじゃねーか。絶対高いぞこれ。
こういう紳士のたしなみみたいなハンカチ使う、ここの男社員ってーと……
……………(すごく考える)……………だ、誰かいたっけか………?
満:おう浪路、紳士中の紳士ならここにいるぜ!
浪路:黙れ、紳士という名の変態が。
・
・
・
(昼休み、食堂)
杏寿:(結局…一番人目のつく食堂に掲示するのが一番だと言われ、来てしまいましたが…
こんな高級そうなもの、貼り出すのはやはり、気が引けますね……)
リーザ:あの~……すみません。
杏寿:は、はい !?
リーザ:その、手に持っているハンカチ……。
杏寿:(も、もしかして !?)は、はい!一昨日、社員通用口の前で拾ったもので…!
リーザ:あぁ良かった!それ、僕のなんです。ずっと探していたんですが…。
杏寿:ほ、本当ですか!私ずっと落とし主を探していまして…良かった…!
(ハンカチを手渡す)
リーザ:ありがとうございます!(にっこり)とても大切なものなので、助かりました。
杏寿:ど………ど、どういたし、まして………
(こ、この方……よく見ると、ものすごく、綺麗……!
天使みたいな、というか……おとぎ話から飛び出したような……
王子様みたいな……な、なんて綺麗なの……!)
リーザ:僕は、国際部のフレスリーザ・レオンハルトと申します。
お会いするのは初めてですよね。
良かったら、お名前教えて頂けませんか?
杏寿:あ……は、はい、私は、情報システム部の真北杏寿と、申します……!
リーザ:杏寿さん……アプリコットですか。
貴女によく似合う、みずみずしくて可愛らしいお名前ですね。
杏寿:∑ か、かわ………っ!!??
リーザ:杏寿さん、これからお昼ですか?
杏寿:(『可愛らしい』を頭の中でリフレイン中)
は、はわ、はい、お昼はこれから、です……。
リーザ:良かったら、お昼をご馳走させてください。ハンカチのお礼です。
杏寿:え、ええええぇぇええ~~!!?
・ ・ ・ ・ ・ ・
リーザ:(何かの会話の途中)…へぇ、杏寿さん、普段は和服を着たりするのですか。
杏寿:(少し落ち着いた)はい、祖母も、母も和服が好きで……
和服を着るのが日常的になっていますね。
リーザ:日本の和服は本当に素晴らしいです。
お祭りや、成人式などですれ違う人のものしか見たことないですが…。
今度、僕に和服を見せてください(にこにこ)
杏寿:∑うぇ !?(や、やだ変な声出ちゃった…)
ははは、はい、いつか、機会があ、あれば……。
リーザ:そういえば、ハンカチ……洗ってありましたね。
杏寿:…あ、はい!拾った時、地面の汚れが少しついてしまっていたので……。
丁寧に洗ったつもりですけど……だ、大丈夫でしたか……?
リーザ:洗ってくださった上に、きちんとアイロンがけもしてくださっていて…
感動しました。貴女のような方を、まさに大和撫子と言うのでしょうね。
杏寿:やまとなでしこ……!?そ、そんな恐れ多い……!
(な、なんなのこの方……!次から次へと信じられない褒め言葉を、私に……!)
その後、杏寿が沸騰しそうなクサい台詞を
リーザ様が織り交ぜながら、談笑は続いた……
(翌日、情報システム部)
浪路:へぇ、あのハンカチ、リーザ様のだったのか!
まぁ確かに、あんな王子様が使ってそうな高級シルクハンカチ使うのなんて
リーザ様くらいか。納得だわ。
杏寿:無事お渡しできて、よかったです……それにしても……(ぼんやり)
浪路:ん?
杏寿:レオンハルトさん、でしたっけ……とても、お美しい方でした……。
女性である私なんて足元の足の裏にも及ばないほど、きらきらして……
笑顔が素敵で……。
浪路:はっはっはっは!リーザ様と比べようって方がまず間違いだわ!
あんなおとぎ話から飛び出したリアル王子様、そーそーいねぇって!
……なんだ杏寿、もしかして惚れたか?(にやにや)
杏寿:だ、だって……!あんな、素敵なお方にあれこれ褒められたり、
あんな美しいお顔で微笑みかけられたら……!
浪路:あはははは!まーな!大抵の女はコロッとイッちゃうだろーな!
ま、本気なら応援するけど、リーザ様はちぃーっとばっかし、クセがあるぜえ?
杏寿:と、当然……あんな素敵なお方、既にお相手がいらっしゃるでしょうし、
いなくても……高嶺の花ですし……
浪路:いやーそういうことじゃなくてなー?
杏寿:??
・ ・ ・ ・ ・ ・
(一方、国際部)
閣下:……………。
幹雄:あ、おはようございます。(今日は閣下か……)
閣下:おはよう……。
幹雄:……あの、閣下……な、何かあったんですか? 何か怖い顔して……
(まぁ、閣下は大体怖い顔してるけど…たまに気にかけてあげないと怒るからなぁ…)
閣下:……昨日、我輩が落としたハンカチを、
もう一人の我輩に届けてくれた女がいたんだが……
ハンカチを受け取ってから、奴の様子が変なのだ。
幹雄:変? 何がです?
閣下:それぐらい察しろ!中原のくせに!!!
幹雄:(;´□`) い、意味わかりませんよ !!??
閣下:……ふん……あんな地味な女のどこがいいのだがな……だが……
本気ならば、我輩が後天的に創り出した人格の、大いなる進化の一歩とも言える…
……………ううむ……………
幹雄:(何だかよくわからないけど……閣下が珍しく考え込んでる……)
・
・
・
(その日の夜、国際部)
夜半:(お盆休みはどこに行こうかな。さすがにそろそろ京都には行ってみたいんだよなぁ。
日本に100年近く住んでて、まだ一度も行ったことないしなぁ。
和スイーツ食べ歩きしたい………) ………ん?
夜半:『君』の方から単身、俺の元に来るなんて初めてじゃないかな。
……一体、何の用だい?
(つづく)