翌朝。
朝一番で、総務部長の奥田早瀬が出勤すると、依頼したことも許可した記憶もない、
社内の大規模な配線工事が行われていた。
あれからすぐに作業に取り掛かり、夜通し工事が繰り広げられたようだ。
「な、なにを……してるんですか……」
「ん? 配線工事。」
工事を速やかに終わらせるために、夜半が大量に久我の分身を魔導で造り出した。
そしてその分身の一人が、あっけらかんに答えた。
「見れば分かります!しかしそんな、会社全てをひっくり返すような大工事…!
一体何の配線工事なんですか !? そんな話聞いていませんよ !?」
久我が突然やらかすことなど、ロクなことはない。
いつもそう認識している早瀬はまくし立てた。
「まぁまぁ、無許可でやったのは悪かったよ。でもこればっかりは
皆に見てもらうのが一番手っ取り早いと思ってね。…まぁ君に一番分かりやすく説明すると、
『欠員の出た広報部の人員の、とりあえずの補完』だよ。」
「とりあえずの、補完……… !?」
早瀬には見えていないが、作業をする久我(の分身)の傍らでは、
配線工事の完成を嬉々として待ちわびる司の姿があった。
・
1時間後、就業時間直前。
その間に総務・人事部オフィスには、何事かと配線工事を見守る社員たちで賑わっていた。
「さて、後はこの線を繋げば……完成だ。」
久我(本体)が、感慨深げに一本のコードを握り締め、呟く。
「良いか……皆、目を見張るが良いぞ……!」
「何が出来るんですか。。」
早瀬は訳が分からないまま、久我が持つコードに視線を集中させる。
「フフフフ………では、出でよっ!」
掛け声と共に、最後のコードを繋ぐ。
『おっしゃ――― !! ふるやん爆たぁぁ――――ん !!!!』
!!!??
その瞬間、突如として社員たちの目の前に現れた司。
その場にいた社員の誰もが自分の目を疑った。
司とまるで関わりのない社員だって、司は死んだと聞かされている。
久我が作った3D映像か !? はてまたロボットか !?
オフィスには叫びとともに様々な憶測が呟かれる。
『改めて!古屋 司! みんな知ってる通称ふるやん! この通り幽霊だっ!』
配線工事の正体は、司が会社内にしか居られない地縛霊であるならば、
社内全体だけでも『誰にでも霊が見れる環境』にして欲しい、という司の願いからであった。
そこで、久我が昔心霊発明に凝っていた頃に作った心霊光線や心霊メガネなどの
発明品から色々と手を加え、社内全体に肉眼では見えない心霊光線を張り巡らせる配線を敷くことで、めでたく実現した。
死神のアラウネや夜半の魔導による強力なバックアップもあって、ぱっと見なら人間とはほぼ区別が付かない。
今までと違うのは、生身の人間が触れようとしても触れられないところと、
幽霊らしく空間をふよふよと浮かんでいるところくらいか。
「……ととという訳で、か、完全に事後報告になっちゃうんだけどね、お…奥田君に、ナッちゃん。
古屋君、かくかくしかじかで…か、会社の業務をこなす上では、ま、まるで問題はないんで、
生前どおり、しゃ、社員としてここに……」
幽霊の司に、さすがにまだ慣れていない英司が、人事を総括する幹部たちに説明をする。
人事部長の瀬上奈津恵は、仕方ないわねぇ、ちゃんと仕事できるなら、まあ問題ないのかしら。と割と冷静。
総務部長の早瀬は、これだからこの会社は、と呟きつつも頭を抱えている。
『ここには吸血鬼とか雪女とかロボットとか勤めてるのに、いまさら幽霊が加わったって別にいいだろー!……お、』
社内の阿鼻叫喚っぷりを面白そうに眺める司の視界に、
自分の死を誰よりも嘆いてくれた幼馴染の姿が入る。
『よっ、愛子! 久しぶり!』
「……つかちゃん !!??」
・
・
この非日常だらけのねぎ秘密結社に加わった、新たな『非日常』。
大切な幼馴染を失い嘆いていた彼女が、それを大歓迎したのは、言うまでもなかった。
END