桜も散り始めた、4月の東京。
ねぎ秘密結社のある、久我ビルの前に。
一人の少年がたたずんでいた。
「ね、ぎ、ひ、み、つ、けっ、しゃ……うん、間違いない。
フフフフフフ……2年間は長かったな……
やっと…やっと、ここまで来たぜ!!」
少年は見た目、小学校中学年くらいだろうか。
背中にはピカチュ●のぬいぐるみリュックを背負って。
春休みも終わったはずのこの時期に、昼間から一人ほくそ笑むその姿は、
補導の対象とも言えなくも無い奇妙さ。
「よっしゃ、んじゃお邪魔させてもらうぜ!」
少年は、威勢良く独り言で断ると、
何故か正面玄関ではなく、社員通用口から入ろうとする。
別に不法侵入を狙ったわけではなく、彼はそこが正式な入り口だと思ったようだ。
「ん?開かないぞ?」
社員通用口は、社員だけが持つ、社員証も兼ねたIDカードが無ければ通れない。
少年は、扉のわきにあるカードチェッカーに気づくと、
何のためらいも無しにテレホンカードを突き刺す。
その動作により、『久我お手製カードチェッカー』は、
少年を不法侵入者と決めつけてしまった。
”オヒキトリクダサイ”
突然、少年の頭上に金ダライが降ってくる。
ガンッ
「Ouch!! 痛った~~! 何だよ!これが日本の客のもてなし方なのかぁ!?」
警告から10秒以内に入り口前から立ち去らないと、
カードチェッカーの攻撃はさらに続く。
”オヒキトリクダサイ”
ザバァーー!!
今度は滝のような水が降ってくる。
「Noーーー!!! ナニすんジャコラァァア!!!!」
”オヒキトリクダサイ”
バフーーー
お次は季節もの、スギ花粉の嵐。
花粉症の人間にはさぞかし地獄であろう。
「た、タスケテくれーーー!!!!」
ピッ
その時、カードチェッカーの不法侵入者撃退システムを
自らのIDカード1枚で止めた男がいた。
「……誰だお前?こんなトコで何してんだ?」
相変わらずの遅刻常習犯である満であった。
満に案内され、正面玄関からようやくビル内に侵入した少年は、
シャワー室を借りて、水と花粉だらけになった体をきれいにした後、応接室へと招かれた。
「はいっ、お洋服かわいたよ!」
きれいに洗濯した少年の衣服を手渡すのは、みはる。
少年は、制服のワイシャツを借りて羽織っている。
初っ端から酷い目に遭わされ、少々不機嫌な少年は、
ブスッとした表情で衣服を受け取る。
「全く……なんなんだよこの会社はっ!」
「あはははっ!ごめんねぇ?でも、この会社じゃあれくらいふつーだよぉ」
何の悪気も無しにケタケタ笑うみはる。
「ふつー…?日本っておっかねぇとこなんだな…(汗)」
少々青ざめる少年に、温かいココアが差し出される。
「はい、どうぞ。たくさんお水を被ったでしょうから、
温かいものの方が良いかと思いまして。」
そう言って優しく声を掛けてきたのは、関口結佳。
しっかりとした、抜け目のない行動は彼女の良さだが
手渡したカップの絵柄が何故かウ●トラマンガイアなのも彼女ならではである。
「それで、あなたはこの会社に何のご用があったのかしら?」
結佳の優しい問いに、少年はココアを一口飲んだ後、呟き出した。
「何年も前に行方不明になった、オレの父ちゃんがここにいるって聞いて…」
少年の言葉に、周りにいた総務部の社員達は目を丸くする。
「これが、唯一の手がかりのオヤジの写真だ。」
そう言って、少年はピ●チュウリュックから、古ぼけた写真を1枚、取り出した。
写真を受け取る結佳。
そして、その写真を覗き込んだみはるが、ポツリと呟く。
「…これって…リーザ様に似てない?」
(続く)