[小説]純情青年の憂鬱(終)

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2週間後。

今日も、いつものように、朝が始まる。
二駅分のラッシュに耐え、会社の最寄り駅で降りる、橘。
(はあぁ……さて…今日は忙しくなりそうだな…)
頭の中で、今日のスケジュールを立てる。

「おはようございますっっ!!!」

いつか、似たような状況で聞いた覚えがある、声。
「…み、みひろさん!」
「お久しぶりですね!橘さん」
…まるで、何もなかったかのように微笑む、みひろ。
「は、はい…お久しぶりです、みひろさん…」
とまどいながらも挨拶を返す橘に、
みひろは突然、ムッとした顔をして、ふくれる。
「みひろさん、なんて呼ばないで下さいっ!!」
(…え?(汗))
フッた分際で、気安く名前で呼ぶな、ということだろうか。
「…えと…あの…それじゃ、森川さん…」
「ち・がーーうっ!!『さん』がイヤだって言ってるのっ!!」
「え、ええっ?」
「…だって、双子の妹のみはるが『みはるちゃん』なのに、
私が『みひろさん』なんて不公平だもん!!!
だいたい5つも年下の女の子に『さん』はないでしょーっ!?」

なんだか、初めて会った頃のみひろよりも、
さらに迫力が増しているというか…
橘は、みひろの迫力に圧倒され、目を丸くする。
「み、みひろちゃん……?」
おずおずと『ちゃん』付けで呼ぶと、
みひろは にいっ と笑って、
「そうそうそうっ!それでいいのっ!!
……贅沢いうと、『ちゃん』が無くてもいいんだけどね~?」

「!!……え、ええっ!?」
「きゃははははっ!!橘さんてば、赤くなっちゃって~!!
ジョーダンですよ、ジョーダンっ!!」

そう言ってからかうと、みひろは会社の方へ向かって走っていく。
「あ、あれ?みひろちゃん!!大学はそっちじゃないんじゃないの!?」

「……というわけで、夏休みの間だけ、アルバイトとして
来てもらうことになった森川みひろちゃんだ。
みんな、いろいろ教えてあげるように」

人事課長の沢井は、バイトとして入社したみひろを紹介する。

(……え……ウソ……(汗))
自分のフッた相手が同じ会社へ。
橘にとって、この上ない気まずい環境だった。
「えーーっっ!?みひろちゃんがウチのバイトするなんて、
聞いてなかったよ~!?」

驚くみはる。だが嬉しそうだ。
「当然よ~!ナイショにしてたんだもん。
……ライバルに簡単に手の内見せるような私じゃないわよ……」

みはるには聞こえない声で、なおかつ橘には聞こえるように、
小声でつぶやく、みひろ。

「!!!!」
「??」
みひろの言葉を聞いて、目を白黒させる橘。
何を言われたのかわかっていない、みはる。
「ま、いっか~!お茶入れてこよっ♪」
特に気にもせずに、立ち去るみはる。

「……これで、みはると同じ条件ですよね。橘さん!」
ま、まさか?
ごくり、と唾を飲み込む、橘。

「……私、あきらめませんから!」

END

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