「ふ~~…今日は暑いわね…」
そう言ってため息をつき、ワイシャツのボタンを
上から2コまでゆるめ、団扇で扇ぐ、芹子。
「や~ん♪芹子ちゃんってば、ダイタ~ン♪ウフフフフッ」
ゆるめたワイシャツの合間から見える、
芹子の白い肌に、ハインリヒが浮かれる。
「っとによ~エアコン壊れてんじゃねえのか?」
ハインリヒの後頭部に回し蹴りをくらわした後、
すでに上半身Tシャツ1枚になった満が言う。
「この暑さ…フツーじゃないよぉ…一体何度なのぉぉ?」
みはるは壁に掛けられた温度計に目をやる。
35度。
一同、唖然とする。
「わかった!きっとエアコンが『暖房』になってるのよ!!絶対!!」
少しでもこの酷暑から逃れたい芹子はエアコンのスイッチを見る。
間違いなく『冷房』である。
「……嘘……」
信じられない事実に、芹子はその場にへたり込む。
「そういえば、購買部の奴らは『暑い』の一言もねえけど、何してんだ?」
満は、フロアの隅にある購買部のデスクに足を向ける。
そこには、スポーツブラ一丁になった愛子と、
愛子の下着姿にやられ、暑さも便乗し鼻血を吹いて倒れた橘がいた。
「あ!遠山さん、今日は暑いわね!」
平然と愛子が言う。
「お…お前には羞恥心というモノがないのかーーーーーーっっっ!!!!」
「あら!下着なんて水着と変わんないじゃない!」
そう言って愛子は淡々と仕事を続ける。
「それにしても、このエアコン絶対壊れてるわよ!
どうにかしないと、この夏越せないわよ?まだ7月なんだし。」
「総務に言って、新しいエアコン買ってもらおうぜ!
どうせこのエアコン古いから直すより買った方が早ぇよ」
意見が一致した社員一同は、総務課長の沢井英司の席へ行った。
その頃、英司は。
書類にハンコを押しつつ、趣味のフィギュアを片手に、
ご機嫌に仕事(?)をしていた。
「う~ん…最近なんだかつまらないねえ…仕事もヒマだし…」
管理職とは楽なものである。
「なにか…楽しいことでもないかねえ…」
今年の夏は、何かをやらかそう。
そう思い、英司は頭の中にいろいろと考えを巡らせる。
そこに、暑さに耐えきれずブチ切れ寸前の社員達がやってきた。
「無理だね」
あっさりと沢井が言う。
「冗っ談じゃねえよ!!英司さんはこの暑さをなんとも思わねえのかっ!?」
暑さに苛立ちが増す満が怒る。
「私は…特に平気だが…」
机の上には作りかけの1/6サイズのフィギュアが7体。
今回はモーニ○グ娘。らしい。
どうやら英司は、何かに集中しているときは外界の温度を感じないらしい。
「申し訳ないんだが…予算がないんだよ」
えええ~~~~っっ!!!???
がっくりとうなだれる、社員一同。
「そのとおり。エアコン買う予算なんて無いのよ」
しかめっ面した眞妃が帳簿を見ながら言う。
「まあ…オフィス用のエアコンは確かに高いけどぉ……」
どうにかならないの?と言った目で、眞妃を見つめる、みはる。
「…まあ、買えたとしても個室用の小さいエアコンくらいしか…」
「それだ!!」
突然、英司が大声を出すので、一同は驚く。
「ど、どうしたんですか?沢井さん」
おどおどと芹子が尋ねる。
「みはるちゃん、今から電気屋さんに行って、
6畳1間用のエアコンを注文してきてくれ!」
何だかとても楽しそうに英司が言う。
「6畳?それじゃこのオフィスにはぜんぜん足りないですよぉ!」
「いいんだよ!それで!!」
「?」
とりあえず、みはるは言われたとおりに、近所の電気店で
6畳1間用のエアコンを注文してきた。
「来週の水曜日には届くらしいですけどぉ…」
今日は木曜日である。
まだ納得がいかない、といった表情のみはる。
そんな顔のみはるを見て、にいいっ と微笑む英司。
「じゃ、これをみんなに配ってきてくれたまえ」
そう言って、英司は丁寧にワープロで打たれた文章が印刷された
紙をみはるに渡した。
「たっ…大変よおおっっ!!!!」
一番最初にみはるから「例の紙」を受け取った芹子が
満のところに駆け込んでくる。
「なんだあ?芹子」
「コレ見てよ、コレ!!!」
”来たる今週の土曜日午後11時より、部門別対向肝試し大会を開催いたします。
あ、肝試し大会っていうか、正式には
「沢井英司杯争奪 肝試しスーパーオリエンテーリング 1999 in Summer」ですが。
場所は下記の地図にあるとおり、この会社の近所の廃校です。
皆様、ふるって参加をしてください。 ”
「なんだ、ただの肝試しの案内じゃねえか」
「違うのよ!!この下の文章見て!!」
”なお、優勝した部門には、賞品として
「6畳1間用エアコン」が進呈されます。
優勝した部門のデスクの真上に設置されるので、
勝者だけが涼しさを満喫できる!!
さあさあさあさあ!!!!!!これはもう参加するっきゃないっ!!! ”
「な………なんだってぇぇ!?」