「ちょっと!!もう少し離れてくれない!?」
こちらは、経理・営業混合チーム、眞妃とハリーだ。
現在、スタンプは2つで、2階にいた。
ハリーは、暗闇の中、ここぞとばかりに
眞妃にひっついている。
怖いせいもあるのだが。
「だってぇ~ん♪ボクオバケとかホラーとか
そーいうの苦手なんだモォン♪」
と言うわりには、何だか嬉しそうである。
「……私はっ……あんたのこと許したわけじゃないんだからね……
……とっとと離れなさいよ!!!」
半ば強引にハリーを突き飛ばす、眞妃。
「いっやああん♪眞妃ちゃん乱暴っ!」
何をしてもハリーはいつもの調子である。
と、そんな風にドタバタしていると…
前方に人影が現れた。
「あら…?あれは……」
暗くてよく見えないので、眞妃は懐中電灯を人影に向ける。
「あらん!タッちゃんじゃないのぉ!」
人影の正体は、橘であった。
…ポン。
悟史は、ニコニコ顔で4つめのスタンプを押した。
「結構順調だねっ!次郎くん!!」
「はいっっっ!!!!!吉村主任っっっ!!!!」
営業部チームは、なんのトラブルもなく、順調にスタンプを集めていた。
現在、3階にいる。
「このまま行けばエアコンは俺達のモノだねっ!」
もう勝ったも同然!とばかりに、軽快に足を踏み出す二人。
その時。
……「いやあああああんんっ……」………
「あれ!!!???今のは相原先輩の声じゃないっスか!!!???下の階だったっスね!!!!!」
「本当だ…何があったんだろう?眞妃ちゃんがいるから怖いモノなしだろうに」
スタンプも4つだし、少しくらい引き返してもいいだろう。
何よりハリー達が気がかりだ。
二人は駆け足で2階へ降りていった。
「どうしたんだい!?ハリーちゃんっっ!!」
現場に駆けつける、悟史と次郎。
なんと、ハリーが天井に突き刺さっている。
眞妃は何か考え事をしているらしく、その場に座って黙りこんでいた。
「うわあ!!!!相原さん!!!!成沢さん、今回はハデにやりましたねえっ!!!!!」
次郎は、いつものように眞妃が殴り飛ばしたのだろうと、
当たり前のように眞妃に問う。
「む…むああきちゃあああん………お・ろ・し・て……」
やっとのことで助けを請う、ハリー。
「あ、ごめんなさい。忘れてたわ」
そうあっさりと言うと、眞妃は
ハリーの片足をつかんで ズボッ!!! と引き抜いた。
「……豪快っスねえ……」
「それにしても…眞妃ちゃん。何があったんだい?
ハリーちゃんに襲われでもしたのかい?」
たまたま持ち合わせていた絆創膏をハリーの顔に貼る悟史。
「違うのよ……」
「え!!!!じゃあ何かもっとすごいことされたっスか!!!!???」
次郎は顔を真っ赤にして問う。
「そうじゃなくて!!!相原さんを殴ったのは私じゃないのよ!!」
きょとん、とする悟史と次郎。
他に誰がやるんだ?と言った表情だ。
「じゃあ……誰がやったんだい?」
「………大島さん………」
話は、ハリーが悲鳴を上げる前に遡る。
暗い廊下で橘と出会う。
「…こんばんは。そちらは調子、どうですか?」
(………?)
眞妃は、なんだか橘に妙な違和感を覚えた。
見た目も、落ち着いた口調もいつもの橘である。
だが…何かが違う?そんな気がしてならなかった。
ハリーはそんなことに全く気が付かず、橘にすり寄る。
「タッちゃあん♪タッちゃんの方はスタンプ集まった?
ねぇんねぇん!良かったらスタンプの場所教えてよぉぉん♪ウフフフフフフ」
そう言って、ハリーは橘に抱きつき、ほっぺにチューをしようとする。
その瞬間。
ドバキィィィッッッッ!!!!!!
「いやあああああんんっっっ!!!」
橘がハリーを殴り飛ばす。
眞妃と張るぐらいのいい殴りっぷりだ。
ハリーは頭から天井に突き刺さった。
「お………大島さん……!?」
さすがの眞妃も驚きを隠せない。
いつもの橘なら…
「や、やめてくださいよっっ!!!相原さんっっ!!!」
と泣きそうになりながら抵抗するはずだが…
「……前々から一度殴り飛ばしてやりたかったんだよ…この男は…」
(……!!??)
今のは橘のセリフなのか!?
眞妃は耳を疑った。
橘は、少し不気味な笑みを浮かべると、その場から立ち去った。
話は戻って、営業部チームと合流した地点。
4人で橘の異変について話し合っている。
「ええっ!橘くんが!?そんなことする人には見えないのに…」
「それに、最後のセリフなんて、まるで別人じゃないっスか!!!!!」
「そう、あれは『別人』よ」
!?
「ま、眞妃ちゃん…それってどういうこと?」
「大島さん…目が普通じゃなかったもの…
あれは、おそらく何かにとり憑かれているんじゃないかしら」
『えええーーーーーーっっっっっ!!??』
3人は驚く。
「まだ、そうと決まったわけじゃないけど…なんだか、すごくイヤな予感がするの。
何か…大島さんがまた何かとんでもないことをやりそうな感じが…
みんな、手分けして大島さんを捜してくれる!?」
眞妃はいつも以上に真剣である。
「…うん!わかったわっ!!みんな、タッちゃんを捜しましょ!!」
「えー…でも…ただ単にハリーちゃんにムカついただけかもしれないし…」
「そうっスよ!!!!大島さんはそんな酷いことを何度もする人じゃないっスよ!!!!!」
まだ眞妃の話を半分信じてない、悟史と次郎は渋る。
「で、でも…」
なかなか協力してくれない二人に、眞妃は困る。
すぐに信じろと言う方にも無理があるが…
「ダメよ!…眞妃ちゃんのカンは昔っから当たるんだから!!
さーあさあさあ!!!早く捜しましょ!!!」
ハリーは二人の背中を押して、無理やり進ませる。
悟史と次郎は、渋々、橘捜索を始める。
「眞妃ちゃん、一人で大丈夫?良かったらボクも一緒に捜そうか?」
「だっ…大丈夫よ!おかまいなく!!」
半ばムキになって答える、眞妃。
「…じゃ、ボクも行くね!何かあったらケータイ鳴らすからね…
…って、ボク眞妃ちゃんのケータイ知らないんだったっ!」
「あ……」
「眞妃ちゃん、ケータイ貸して」
「え?なんで…」
「眞妃ちゃんにボクのケータイ貸すから。
それなら番号教えなくてもヘーキでしょ?」
眞妃は無言で自分の携帯を渡し、ハリーの携帯を受け取る。
「じゃ、気をつけてねん♪」
そう言って、ハリーは眞妃の前を立ち去ろうとする。
「…ま、待って!」
「ん?どしたのん?」
「あ、ありがと……明」
霊にとり憑かれた橘が、次に向かったのは屋上である。
屋上では、のんきにゴール待ちをしていた英司と久我が、
コンビニから酒とおつまみを買い込んで、宴会をしていた。
継人も、オバケ衣装のまま、
「オバケ役をやりこなしたら研究室から異動」という約束も
すっかり忘れて酔っぱらっていた。
どうやら、英司と久我に無理矢理大量に飲まされ、酔わされたらしい。
「おおーーーっ!大島くんじゃないかーー!!もうゴールしたのかい?
愛子ちゃんはどこだい?しかしはっやいなーーー!!!あっはっはっは!!!」
「フフフ…ウフフフフウフフッフ……フフフフフウフフウフフ……」
すっかり上機嫌の英司と久我。
そんな二人をみて、橘は……
「……いい気なもんだな……」
「はい?」
何て言ったの?と思ったときには、もう遅かった。
橘は、まず久我に殴りかかる。
「ギャーーーッッッッ!!!!な、何するんだねっ大島く…ぐほおっっ!!!」
「うるさい!!!…ドイツではよくもあんな目に遭わしてくれたなっ!!!!」
いつもの橘じゃない。
突然の出来事に、一瞬にして酔いがさめた継人はそう思った。
「どっ…どうしたんだねっ大島くん!!??」
さすがの英司も驚きを隠せない。
「黙れ!あんたもだ!!人を変な人形のモデルにするんじゃないっっ!!!!」
続いて英司にも殴りかかる。
「うおおおっっ!?痛いじゃないかっっ大島くんっ…うげえっ!!」
「…やめろよ橘さん!!どうしちまったんだよ一体!?」
別にこのオヤジ達がどうなろうと知ったことではないが、
こんな橘は見ていられない。
そう思い、継人は橘を背後からしがみつき、止める。
「離せ!!!継人!!!」
バシイッッ!!!
継人の体に、一瞬、電流が走ったような感覚が襲う。
「うわああっっ!!!」
衝撃で、継人は橘から5メートルほど吹き飛ばされる。
「…っ痛……」
継人は、橘の方を見る。
橘の目は、普通ではない。
自我がない、といったような瞳だ。
それと、ほんのうっすらと青い光に包まれていることに気づく。
とりあえず、「やるべきこと」をまた一つ成し遂げた
『橘』は、次なるターゲットを捜しに、屋上を立ち去った。
「おい~~…幹雄、お前、もうちょっと早く歩けねえのか?」
「何を言ってるんですか!そんなにあわてて走ったら
ビビアンが驚いちゃうじゃないですかっ!!」
早足の満とは対照的に、のんびりゆっくりと歩く幹雄。
システム設計部チームである。
現在、スタンプは1つで、1階と2階をつなぐ階段にいた。
「まいったなあ…けどコイツ一人置いてく訳にいかねーしな…」
ゴールは2人一緒が条件である。
「あっ、まんちゃーん!!!中原さんも!!!」
「トーヤマサーン!!!」
そこに、総務部チームのみはるとクリスがやって来た。
「おう、お前ら。スタンプ集まったか?」
「ううん、まだ0コ♪」
全くダメ、といった感じで、舌を出すみはる。
「しょーがねーな!お前ら!!…ってオレらもあんまり変わんねーけどな」
「他のチームには会いマシタか?」
「いえ…まだ会いませんね…きっともう上の方の階にいるんでしょうね」
のんびりと幹雄が言う。
「ったくよー!お前がんなトロトロしてなきゃ、
オレらだってもう上の階だぜー!?」
「だからそれはビビアンがっっ…!!」
なかなか波長のかみ合わない、システム設計部チームである。
「…あっ!誰か来マスよ!!」
ゆっくりと、こちらに近づいてくる人影。
「あれ、…大島君じゃないですか?」
「おーー橘!お前もまだ1階だったのか!!
さては体力オバケの愛子に置いてかれたな~?アッハハハ!!」
橘は黙ったまま、こちらを見ようともしない。
満の茶化しを完全に無視している。
「……?」
橘の異変に、真っ先に気づいたのは幹雄であった。
橘は、ゆっくりと足を動かす。
「…どう、したんですか?大島君…」
幹雄の問いにも、全く反応しない。
そして、3人の背後に、一人ボーっとつっ立っていた
みはるの前に足を進めた。
みはるは、何も知らずに、いつものように笑顔を見せる。
「あっ、橘くん!愛子ちゃんは?」
「……見つけた……」
『最終目標』を見つけた『橘』は、ニタリと笑い、
次の瞬間、みはるを思い切り抱きしめた。