[小説]N.H.Kエアコン争奪戦!!(終)

小説/本文

1週間後、橘は退院した。だが……
看護婦さんから花束を受け取る橘の顔は、暗い。
(できればずっと入院してたかったよ……)
病院の門の前には、継人が待っていた。
「よ。おめでとさん。やっと会社に復帰かよ」
「……うん……」
「なんだ、まだ森川みはるにフラれたこと気にしてんのかよ」

がくうっっ…

改めて、他人からそう言われると、なおショックが大きい。

橘が告白した、あの直後。
しばらく二人は固まったままだった。
が。

突然、みはるが橘の腕を振りきり、
「ご、ゴメン!!!…あっ…あたし…」
と、そこまで言いかけたあと、
ダッシュで立ち去り、それっきりである。

なんとかそのことは考えまい、と、橘は別の話を振る。
「そういえば、エアコンはどうなったの?」
「ああ…それがな……」

次の日。
1ヶ月ぶりに、橘は会社のドアを開ける。
すると………

ゴオオオオオオオオオオオオオオオ…………

とてつもない寒風が、橘を襲う。
「な…!?なんですか一体!?」
「あっ!大島くん!!退院おめでとう!!!」
芹子がクラッカーを鳴らす。
クラッカーの色テープが、寒風にあおられて
橘の顔面に貼り付く。

しかし、このオフィスの恐ろしいほどの寒さは何か。
そういえば、オフィス内なのに、社員全員、
コートとマフラーに手袋を着用している。
「おう!やっと来たか!橘!!」
「オメデトございマース!!花束ドーゾ!」
クリスにバラの花束を受け取る橘。
バラの花は、触れるとパラパラと崩れる。
「ちょ…ちょっと…この寒さは一体…!?」
「ああ、これか。エアコンをみんなで買おうって言って
買ったんだけどな、やっぱどうも効きが悪りぃんで、久我ちゃんに
改造してもらったんだよ。そしたらこんなになっちまいやがって。
でもま、いいだろ?暑いよか。アイス買ってきて机に
置いといても溶けねぇんだぜ?」

(そ、そういう問題じゃ……)
しかし、誰も反論しないところをみると、
みんなそれで納得していると言うことか。
(やっぱり変だ…この会社…。)
しかたなく、橘は会社の備え付けの毛布をかぶる。

そしてそのまま、自分の席へと腰掛ける。
1ヶ月ぶりの椅子の感触は、なんだかとても新鮮である。
「久しぶりっ!大島さん!!」
正面の席には、同僚の愛子。

「…おはよ、橘くん!」

橘が毛布をかぶってふるえていると、
みはるがお茶を手に、そっと声をかけてきた。
みはると話すのは、あの告白以来である。
橘は、即座にそのことを思い出し、
緊張で気を失いそうになる。
「お………お、おは、よ…」
言葉も必要以上に、どもる。
「退院おめでとっ!はいっ!これ退院祝いっ!!」
みはるが橘に手渡したのは、定期券サイズの紙切れ数枚。
「お好み焼き屋さんのタダ券なのっ!
今度一緒に食べにいこ!『みんなで』!!」

みんな、で。

今まで通り友達として、
みんなで和気あいあいとやろうじゃないか。
みはるの答えは、そういうことなのだろうか。
(…まあ…予想はしてたけど…)
みはるが自分に全く気がないことなど、
最初から分かっていたこと。
当然と言えば当然の結果である。

「…いいよね?」
黙ったまま動じない橘の顔をのぞき込み、みはるが問う。
問いかけられ、はっと我に返り、みはるの方を向く橘。
そこには、少し不安そうにこちらを見る、みはるの顔。
「…うん」
「やったあ♪じゃ、今日のお昼休みにみんなで行こっ♪」
そう言って、みはるは無邪気な笑顔を見せる。

(………………………
…やっぱり…あきらめるなんて無理だよなあ…)

みはるの笑顔に、胸を高鳴らせずにいるなんて、不可能だ。
元々、一度フラれたくらいであきらめる気など、さらさらないのだ。
勝負はこれから。
告白はその第1歩に過ぎないのだ。

 ”………フフッ……これがきっかけになって、上手くいくといいわね… ”

ふと、橘の耳に、由美子の声が聞こえたような気がした。
由美子がいなければ、橘はみはるに想いを伝えることすら
できなかったであろう。
橘は由美子に心から感謝をしていた。
だが、あのセーラー服の幽霊は、もう姿を現すことはなかった。

「……また、会えるといいですね。……今度は人間として。」

「……ど……どうしたの…?橘くん…」
橘が、あさってな方向を見て独り言を呟いているので、
みはるが心配そうに問いかける。
「…もしかして…まだ治ってなかったりして…
確か脳波の異常だったんでしょ?大島さんが入院してたのって…」

様子を見ていた愛子も心配しながら言う。

「…そういうときは、この久我印頭痛薬がオススメだよ…」
いつの間にいたのだろうか、久我恭一郎が
突然、橘のお茶に怪しげな薬をどぽどぽと混ぜる。
橘は気づいていない。

橘は無意識にお茶に手を伸ばす。
「きゃーーーっっっ!!!!飲んじゃダメーーーっ!!!!橘くん!!」
「え?」
みはるの叫びもむなしく、橘は一口飲んだ後に我に返る。

その直後、橘がとんでもない目に遭ったのは言うまでもない。

END

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