[小説]愛と青春のボンソワール(5)

小説/本文

成田空港から、数時間。

一行は、ドイツに到着した。
空港を出た一行は、ドイツの空気をしばし満喫した。
「きゃあーーっっ!ドイツよ!!ドイツゥゥゥゥ!!!」
みはるはうかれまくりで回転しまくっている。
「あ、あれもしかして、千雪ちゃんがチャーターしたヘリじゃない?」
悟史が指さす。一同が悟史が指さした方を見ると…

   ”☆ WE♡(LOVE)CHI・YU・KI・号 ☆ ”

ご丁寧にヘリの塗装まで変えてチャーターしたらしい。千雪は。
「あれに…乗らなきゃだめ…?(汗)」
「………ほ、ホントにあれなんですか?僕らが乗るのは…」
とても嫌そうな、眞妃と橘。
「し…しかたねえだろ…(汗)」
さすがの満もちょっと嫌そうだ。
「じゃ、乗りましょ!芹子ちゃんが待ってるわよっ!」
全く動じない、みはると愛子。
「ちょっと待て!」
「は?」
ヘリに駆け乗ろうとした二人を、満が止めた。
「このヘリは4人乗りだ(運転手除く)」
「……え、ということは……」
「まあ道理からすれば、後からついてきたみはると橘が残るべきだろ」
「ええーーーっ!ヘリ乗れないのぉぉーーーっっ!!??つまんなあい!!」
納得いかない、とみはるはわめく。
一方橘は。
(よかった…アレ乗らなくて済むんだ…)
ちょっとほっとしていた。
「まあもしものことを考えて、何人か残った方がいいのかもね。
あなたたちはそのへんでショッピングでもしてれば?」

と、眞妃はあっさりと言い放つ。

とりあえず、みはるもなんとか納得させ、
一行は4人と2人に別れ、みはると橘はヘリで飛び立つ4人を見送った。

(ドイツに来てみはるちゃんとデートなんて…)

神様ありがとう…
無言で涙を流し、喜ぶ橘。
「…じゃ、橘くん。どこいこっか?」
みはるが橘の手を引いて歩き出そうとすると…

「………キ~ミ~た~ち~?私をさしおいてウキウキショッピングとは
ちょおおっっっといただけないなあ~~~?」

「……え?」

橘の足下……いや、性格には膝のあたりから声がする!?
……カバンの中だ!!
「ちょ、ちょっとなに!?カバンに何かいるの!?」
みはるはうろたえる。

…しばらくして、橘のカバンが、みるみるふくらんでゆく。
次第に、カバンは「中の物」の勢いに押され、破裂した。
中から出てきた「モノ」とは…
「ジャアーーーーーン!!」
自ら効果音を発して「彼」が現れた。
「くっ、久我さん!!!」

「フッフッフッフッフ…この私が発明した超新薬
『チイサクナール』で小さくなって君のカバンに潜ませて貰ったよ」

「………っていうか………カバン弁償してください………(涙)」
橘は、もはや反論する気も失せていた。

一方、ヘリに乗り込んだ4人は。

「あ、見えてきたよ!あれじゃない?」
愛子が指さす。
かなり大きい、豪奢な造りの家だ。
「芹子ちゃんって、オジョーサマだったんだねえ」
悟史が感心して言う。
「…さて、どう切り込んでいく?遠山さん」
「そうだな…」

その頃、芹子は。
先日の、満との電話のやりとりを父に盗聴されてしまっていたため、
さらに警備が厳重にしかれていた。

「……ホントに…来るのかしら……満………」

弱々しい独り言を吐く、芹子。
芹子は、ここ数日何も食べていなかった。
食事はきちんと出されているのだが、食べていないのだ。
何故なら、自分を閉じこめる父に、
『日本に返してくれないなら、ここで餓死した方がマシ』
と、タンカを切ったからだ。

……ババババババババ………

「……? なんか外が騒がしい…わね…」

……ババババババババババババババババ………

騒がしさの元の『音』は、どんどん近づいてくる。
「……こ……この音は……ヘリコプター……?」

芹子が音に気づくほど、屋敷に接近していた満達は。
「よし、眞妃!行けっ!!」
N.H.K班の攻撃の要である眞妃が、ヘリからハシゴをおろして、降りてくる。
そして、ハシゴから飛び降り、2階の窓を勢いよく割って、屋敷に侵入した。
続いて、満も。
「何者だ!?貴様!!」
ドイツ人のSP達が、騒ぎに気づき、銃を構えて駆けつける。
「芹子を返してもらいにきたわよ」
眞妃は、カッコよく言い放つと、銃にも全くひるまず、
次々とSP達をなぎ倒す。
満が手を出すまでもなく。
「……つえ~……眞妃……。絶対敵にはまわしたくねえ女だな…」

「芹子!芹子はいるか!?」
騒ぎにあわてた芹子の父、雄三が芹子を閉じこめた部屋に来る。
「…何よ」
力無く芹子は返事する。
「よかった……いたか。
今、何者かがお前を連れ戻しに来た、と屋敷に侵入したのだ!」

父の言葉を聞き、芹子は はっ! とする。
「まさか……満!?」

そのとき、雄三のSPの一人がやって来た。
「社長!!大変です!!屋敷のSPを総動員で阻止しようとしても、
奴ら強すぎます!!このままでは、この部屋まで……ぐほおっ!!」

言葉を言い終えないまま、SPはその場に倒れた。

倒れたSPの背後に、眞妃と満。
「ここが最後の部屋ね」
ああ疲れた。といわんばかりに手をはたく眞妃。
眞妃の1/10くらいしか敵を倒さなかった満。
だが、ケロッとしている眞妃とは対照的に、汗だくでヘトヘトだ。
(こいつ…何者…)
満は改めて眞妃の恐ろしさを知った。
遅れて、愛子と悟史の二人も到着する。
「遠山さん。いたわよ、芹子」

「きさまら…一体どういうつもりだ!?」
雄三は、芹子の前に立ちはだかり、震えた手で銃を持ち、怒鳴る。
「あんたが、芹子のオヤジか」
そう言って、満は眞妃の一歩前に歩み寄り、雄三を睨む。
雄三は、銃の引き金に手をやる。
「んな物騒なもん持って、大事な娘の前で人殺す気か?」
「う…うるさいっっっ!!!芹子は私の娘だ!!!!娘と父親が一緒に暮らして何が悪い!!??
芹子はやらん!!!やらんぞ!!!ぜえーーーーーーーっっっっったいにやらん!!!!」

「でも、今の状態は一緒に暮らしてるって言わねえだろ」
「!!!」
「気持ちはわからなくもねえけど、芹子は日本に帰りてえって言ってんだ。
それを無理矢理閉じこめて引き留めとくのは、同居っていわねえだろ!!」

「…お…父さん…」

弱々しく、芹子は雄三の腕にしがみつく。
「……あたし…お父さんのこと、好きだよ。
あたしだって、本当はお父さんと一緒に暮らしたいよ…。
……でも……あたしの大事な友達も、……好きな人……も、日本にしかいない……
あたしのやりたいことも、日本にしかないの……」

次第に、芹子の頬が涙で濡れる。
「……芹子……」
一瞬、雄三は悲しそうな目で芹子を見る。
が。

「……なーんて言えば日本に帰すとでも思うかっ!!
やーーだよーーん!!芹子が何と言おうと帰さないもんね!!!」

…ほとんど子供のワガママの領域である。
「……この……頑固ハゲオヤジ……」
さすがの芹子もキレる。しかし弱っているのでつっこむことも出来ない。
「てんめぇ…娘が涙ながらに訴えてんのに、その態度はねぇだろっ!!」
満もキレる。
「うーるさーい!!芹子を取り戻したければ、この私を倒してからにしろ!!!」

―――――――――――― ……………

「…ふん、口ほどにもないオヤジだわね」
雄三が『この私を倒してからに…』と言った瞬間、
満の背後から、眞妃が、目にも見えない早さで波動拳と昇龍拳、10連コンボに
カカトおとし、南斗水鳥拳にどどん波、んちゃ砲(んなバカな)をくらわし、
一瞬にして撃沈した。
「眞妃…それオレがやるべきこと…」
眞妃に先をこされた満は、ちょっとむなしかった。

「……芹子、大丈夫か?」
満は、力無く床に座り込んでいる芹子に近づいて、問いかける。
「……満……」
芹子の目から、涙が一粒、また一粒と落ちる。
「…ったく…どーしてお前はそーすぐ泣くんだぁ?」
満が、芹子の涙を指で拭う。
「だって…だって……ホントに来てくれるなんて思わなかったんだも……んっ」
感極まって、芹子は満に抱きついた。
よしよし、と、満は芹子の頭をなでる。
しかし、自ら抱きついた自分に赤面し、芹子は満の腕から無理矢理逃れる。
「……って、な、なに抱きついちゃってんのかしら私っ!!」
「……あのなあ……ここまで来てそりゃねえだろ……」
「うっ、うるさいわねっ!あたしはこの通り元気だものっ!!
それに、迎えに来いなんてあたし一言も言ってないわよっ!!」

無理矢理元気を装う、芹子。
「……お前のそのガンコさは完っ璧父親譲りだな……」
そう言って、満は小さくため息をつくと、再び芹子を抱き寄せる。
「!!!……ちょ、ちょっと!!!何すんのよ!?離してよ!!!」
「いやだ」
満の腕のぬくもりが、本当はたまらなく心地良いのに、
あくまで芹子は意地を張る。
「……どうして、こういうことすんのよっ……
別にあたしはあんたのこと、何とも思ってないんだから!!」

「…じゃあ、ドイツ行きが決まったとき、何でオレを避けた?」
理由を知っているくせに、満はあえて芹子に問う。
「……それは……」
「…それは?」

その一言が、芹子はなかなか言い出せなかった。
5年前。
その一言で、芹子は一度満に断られているのだから。
その一言に、芹子は恐怖感さえ覚えていた。

だが……今なら。

「……あ……あんたが……好きだからに決まってるじゃないのっっ!!!」

やっとのことで言葉を吐き出すと、芹子は満の背中に腕をまわす。
「……ふっ、やっと白状したか」
あまりにも頑固な芹子に、満は失笑する。
「…!! なっ…何笑ってんのよっ!!」
「ああ…スマンスマン」
満は、そう言って微笑むと、芹子を抱く腕の力を強める。

「…オレも、好きだよ。芹子」

…その頃、眞妃、愛子、悟史の3人、そして雄三は。

「だいたいさあ~~芹子は昔っから私に冷たいんだよ!
蔦子(つたこ…芹子の母)にはなついてたくせに……うっうっ」

3人は、雄三のヤケ酒に付き合わされていた。
「おじさま、元気出して…?ほら、もっと飲みましょ♪」
「ありがとう愛子ちゃん…君、イイ子だねえ…」
オヤジ趣味の愛子は、雄三のことが気に入ったらしく、
ルンルンでお酌をする。

「…あーあ…また愛子の悪いビョーキが始まったわね…」
仕方なく眞妃も酒を飲む。ヤケ酒ではないが。
「…まんちゃん達、うまくいったかなあ?」
おつまみをほおばりつつ、悟史が嬉しそうに言う。
「うまくいかないはずがないでしょ」

少し霞みがかった西の空に、ドイツの夕日が、沈んでいった。

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