[小説]愛と青春のボンソワール(終)

小説/本文

小さくなって行く橘の周辺を、何にも乗らずに旋回飛行していたのは、
日本にいるはずの仙波継人であった。
そして彼は何故か、コシミノ一丁の姿で、
高度80メートルにてフラダンスを踊っていたのである。
首にはレイまで掛けている。

久我が叫んだ。
「あれはっ!!あのコスチュームはっ!!そうかっ!仙波君っ!使ったのかぁぁっ!!」
「あれってなによ。」
芹子が聞いた。
「あれはっ・・唯一、私の研究の成果を無にすることが可能な、
『アンチ・アルマゲドン・ハワイアンルック』だぁぁぁっ!!!」

なぜ・・・ハワイ・・・?
「しかもあれを身につけると、音速で空も飛べるのだ!」
進退極まった継人は、スゥエーデンの空港で恥を忍んで着替えたのだった。
「なるほど、ではあんたはそれを日本に忘れて来たというわけか。」
満がひさびさに口を開いた。
「いや!わざと置いて来た!!」
胸を張る久我。その胸に眞妃のデビルチョップ。

そうこうしているうちにも橘は小さくなり、やがて見えなくなった。
そして上空を旋回していたフラダンス継人は・・・

キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ・・・・・・・
グオォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!

継人は急降下からとび蹴りの体勢に移り、そのまま空港に突入した。
「スウェーデンから飛んで来てやったぜぇぇぇぇっ!!!」
ドガァァァァァァァァァァン!!!
高度80メートルからのドロップキックが久我に炸裂した。
スピードはマッハ5を突破していたに違いない。
ガーン!ゴォォーン!!ゴロゴロゴロゴロ・・・・・ドガッシャァァァン!!!
色々な物にぶつかりながら転がる久我。
そしてカウンターに激突して止まった久我は、
通りがかった巨大ミミズに喰われてしまった。

「ふぅ・・・終わったか・・・」
継人はため息をついた。
「仙波くん・・・」
少しの後、芹子がそっと語りかけた。
「・・・着替えあるの?」
・・・・・・・・・・・・・・・
「えっ!あっ!!」
継人はまだハワイアン腰ミノ一丁だった。
『あははははははははははは!!』
緊張が解けて笑い転げる秘密結社一同。
「笑うなぁぁぁぁぁっ!!!」
怒る継人。
なんにせよ、一件落着でった。

めでたしめでたし。

ドイツ軍に捕獲された橘を除いてだが・・・・・(笑)

幸い空港はさほど破壊されておらず、
空港の閉鎖も無事解かれ、飛行機が離陸し始めた。
N.H.K一行は、日本行きの便のフライト時刻までの間、
なんとなくドイツ国民に悪いような気も持ちながら、
空港の待合所でくつろいでいた。

巨大ミミズに飲み込まれた久我は、眞妃に「しかたなく」助けられ、
そして継人の手でもう一度ボコボコに殴られ、
無惨にもクール宅急便で送られることになったのだ。自業自得だが。

「それにしても、仙波くんが来なかったら大変なことになってたね~」
「っていうか吉村さん!すでに大変なことになってたじゃない…」
のんきに言う悟史につっこむ眞妃。
「でも、結構面白かったかも!」
「あーあ!もうちょっとチーターと競争してたかったなあ~!
久我さんにチーターが出せる発明してもらお!」

と、荷物置き場に足を向けようとする愛子とみはる。
『うわーーっっやめろやめろ!!』
と言わんばかりに愛子とみはるを止める社員一同。

「そういえば、二人ほど足りねえじゃねえか」
満に服を借り、あのハワイアンスタイルからようやく逃れた継人。
とりあえず礼くらいは言おうと、満を捜していたのだ。
そんな継人を見て、悟史が嬉しそうに首を振る。
「…ああ、あの二人か~。あとにした方がいいよ~?今ラブラブだから♪」
「はぁ?ラブラブ?」

「……まさか……ドイツでこんな目に遭うとはね…
昨晩のお父さん家での騒ぎなんて可愛いもんだわ……」

半ば放心状態で、滑走路を見つめる芹子。
「でも……よかった……また、日本で暮らせるんだ…」
父が病気だと知って、一時はドイツ永住を考えていた芹子。
その病気は結局嘘だったのだが…
(もし、お父さんの病気が本当だったら、どうなっていたんだろ?)

「もし…お前の親父さんがホントに病気だったとしたら、どうなってただろな」
「!?」
突然、ずっと黙ったまま隣りにいた満が、
自分が考えていたことと全く同じことを言ったので、驚いた。

「さ、さあ?ま、あんなお父さんだから、病気なんてかかるわけないんだけどねっ!
あと200年は生きるんじゃないの?あははは……」

なんとなく、会話の間に耐えられず、茶化す芹子。
「あっはは!ま~な~!お前の親父、結構笑えるキャラだしな!」
芹子の茶化しに乗る、満。
少しだけ、ホッとする、芹子。

父の家で、自分のことを、確かに「好きだ」と言った満。
そんな満が、どうしてもいつもと違うように見えて、
芹子は満を直視できないでいたのだ。

「…芹子、お前さっきからどこ見てんだ?」
ずっと目をそらしたままであることを、気づかれてしまう。
「え、あ、いや別になんでもないわよ…」
少し怪訝そうな顔をして、はっ とする満。
「『いつもと違うんで調子狂う』とでも思ってんだろ?」
ぎくっ…
「な、なんでもないってば!!」
真っ赤になって背中を向ける、芹子。
そんな芹子を、背後から抱きしめる、満。
「きゃあああーーーーっっ!!」
芹子は、照れの極致で、思わず叫ぶ。
驚いて、空港内の客達がこちらを見ている。
「…お前な(汗)そんな嫌がられると、結構ショックだぞ…」
「え……あ!!ち、違うの!!その、あのね…」
耳まで真っ赤になり、しまいには涙ぐむ芹子。
「…あーーっもう!また泣く~!!
しょうがねえだろっ!?もう友達じゃねんだから!!慣れろよ!!」

『友達じゃない』

その一言で、一気に心の枷がはずれ、涙を溢れさせる芹子。
いきなり大泣きしはじめた芹子に、満は驚いて腕を離す。
「あーあーあー!!お、おい!!泣くなよっ!!
そ、そんなにイヤだったか?お、オレが悪かった!!
だから泣きやんでくれよ~~」

あわてる満の胸に、今度は自ら飛び込む芹子。
「……イヤなわけ、ないじゃない……っ」
やっとのことでそう言って、少し怒った顔で満を見る。
芹子の顔は、芹子の父の家で見たとき以上に、涙でぐちゃぐちゃである。

「……あ~あ~…ひでぇ顔……」
満は、芹子の頬に手を当て、長い髪を後ろに掻き上げる。
そして、そのまま顔を近づける………

が。

いきなり満の後頭部に、妙に重たいクール宅急便の段ボール箱が直撃する。
そのまま気を失う満。
「きゃああっっ!!なっ、何っっ!?」
クール宅急便の箱が中を浮いている。

『フッフッフッフッフ……このままでは終わらせない……
終わらせないぞおおお!!!!』

箱の中から声が。
どうやら、中身は久我で、中で例のフラダンス衣装を着て、
箱のまま飛び回っているらしい。

意識を取り戻す満。
「……てんめぇ……めちゃくちゃいいところでぇぇ……!!!」
満はマジである。
そこに、「空飛ぶクール宅急便」を追って、眞妃と継人がやって来た。

「待ちなさい!!久我さん!!!」
「てめえ!!今日こそはぶっ殺す!!!」
そこに満も参戦する。

『まあぁぁぁーーーーてえぇぇぇぇぇ!!!!!』

クール宅急便を地の果てまでも追いかけてゆく、3人。
そんな3人を見つめて、芹子は深いため息をつく。

「……ま、いっか…」

なんとなく、何かがふっきれた芹子は、
袖で涙を拭うと、愛子とみはるが待つ、待合所へと歩いていった。

… END …


……あれ?橘は?

ドイツ国軍に捕獲された橘は。

そのまま、アメリカのCIA(中央情報局)に運び込まれ、
さんざん実験やら検査やらをされたあと、
EPIA(国際連邦科学情報局)にかつぎ込まれ、
解剖を受けそうになったところを、やっとのことで
駆けつけた眞妃に寸でで止められ、日本に帰ったという(笑)

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