[小説]私が発明する理由(プロローグ)

小説/本文

午後9時。
誰もいなくなったオフィスの片隅にある、
開発研究室から、男二人の声がする。
沢井英司と、久我恭一郎である。

「『某ライバル会社』に、科学者?」
「そう。最近、驚異的な頭脳を持った科学者を雇ったようなんだ。」
『某ライバル会社』とは、打倒N.H.Kをモットーに
働く、(理由は不明)対向組織である。
あらゆる手を駆使して、N.H.Kの業務を妨害している。
ちなみに、『某ライバル会社』という社名なのだ。

「システム設計部からの報告によると、
最近、頻繁にデータをハッキングされてるようなんだ。
君の作ったプロテクトをも、いとも簡単にくぐり抜けている。
…しかも、データを奪った後に、ウイルスを蒔いて、
こちらのデータを消していっているんだ。かなり悪質だよ」
「……ほほぅ……それはそれは……」
顎に手をやり、何度もうなずきながら感心する、恭一郎。
「…それで、私立探偵に、あちらの状況を探ってもらったのだが…
新しい科学者を雇った、ということ以外は分からなくてね……」

しばしの静寂が、二人を包む。

「……それで、私にそれを調査しろと?」
「…ああ。君なら向こうの情報をハックするのも容易いだろうし、
………それに、あそこは君の『古巣』なのだから………
向こうの状況もある程度予測がつくだろうしね……」

英司の言葉に、恭一郎は フッ と笑う。
「……英ちゃん、それは言わない約束だよ。
私は、今はここの人間なんだ。……よかろう、引き受けた」
「頼んだよ」

これで一安心だ、といった表情の英司は、
静かに研究室を去った。

英司が去った後、恭一郎は研究室にあるパソコンのスイッチを入れる。
「私のプロテクトをくぐり抜けるとは…
……面白いじゃないか……久々に骨のある科学者に出会えそうだ…
……フフフフフ………」
キーボードを叩きながら、不気味に独り言する、恭一郎。

英司の言葉からも察することが出来るように、
恭一郎は、もともとは『某ライバル会社』の人間であった。
だが、4年前にN.H.Kの社長により、法外な契約料で引き抜かれたのだ。
金銭面だけでなく、他にも理由があったらしいが…それはまだ謎である。

いつもロクなものを発明せず、周りをパニックに陥れてばかりだが、
恭一郎は、IQ200という尋常でない頭脳の持ち主。
よく考えると、その『ロクなもの』だって、
常人には発明できないものばかりなのだ。
そういう訳もあって、恭一郎は社内でも実はかなり
重要な人物として扱われている。

「……よしよし……」
『某ライバル会社』の社員名簿に、いとも簡単にアクセスする恭一郎。
そこにたどり着くまでにいろいろ設けられていた
セキュリティやプロテクトなどは、ものともしない。

「……ここ最近に入った社員を調べればいいのだな……どれどれ」
一人ずつ、写真付きの名簿をチェックする。
「……見慣れた顔ばかりだな。
ホントに新人なんて入ったのか?………!?」
一瞬、その場にそぐわない、小さな女の子の顔写真を
見つけたような気がした恭一郎は、急いで画面を戻す。

見間違いではなかった。まだ親に甘えたい盛り、と言った感じの
年齢の少女が、社員名簿に載っている。

 名前:アリス草薙
性別:女
年齢:4歳
出身地:アメリカ・ロサンゼルス
入社年月:1999年7月
所属部署:特殊開発部

etc ………………

「特殊開発部…まさか、この少女が……!?」
どうみても、ごく普通の少女。
明るい茶色の髪に、青い瞳。
名前と外見からみて、おそらく日本人とのハーフだろう。
「ほうほう、結構可愛いお嬢さんじゃないか…フフフ…」
恭一郎は、まじまじと写真を見る。
そして、あることに気が付いた。

写真の中の少女は、ノースリーブの、夏っぽい服を着ている。
服から覗く胸元は、まだまだ幼い。
だが、恭一郎が注目したのは、そんなことではない。
少女の向かって右側の胸元に、不思議な形をした痣を見つけた。

「…こ、これは…!!!」

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