[小説]継人でショート(第2話:合コンでGo!)

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昼休み。自分の席で居眠りをしていた
継人の元に、システム設計部が誇る究極のナンパ男、
東堂浪路が尋ねて来ていた。
ちなみに浪路は見た目は男だが、本当は女。
だが継人はまだその事実を知らない。

「頼むよ、仙波ぁ~ どうしても頭数が足りなくってさ。
可愛い子紹介するからよ、いいだろ?」

「やだよ、めんどくせえ」
そういう人の集まる場が嫌いな継人は、頭からお断りする。
だいたい、そういう酒の席に集まる
キャピキャピしたコギャルはあまり好きではない。
浪路が連れてくる女なんて、大抵そういうタイプなのはわかっていた。
しかも、今は給料日前で、そんな飲み会をやる余裕もない。
「じゃあ、お前の分の会費、俺が払うからさ、な?」

そこまで言われてしまっては、継人には、
行く以外に選択肢はなかった。
「……ったく、わかったよ」
「よし!んじゃ、お前もう一人男連れて来いよ。
あともう一人欲しいんだよ。頼んだぜ。じゃ」

「…はあ!? ちょっと待てよ!!」

(…ったく…誰を誘えってんだよ…)
頭を抱えながらオフィス内を歩く継人。
もともと社内の人間とは、従兄弟の橘以外とはあまり
言葉を交わさないのに、合コンに誘うなど無理な話であった。
かといって橘は、自分と同じくそういう席は
確か苦手であったはず。うなずきそうにもない。

「あ!仙波さん!!!!どうしたっスか!!??」

ふと、継人の背後から気合いの入った元気な声が。
「……泉……」
営業部の熱血男、泉 次郎である。
次郎とは、社内の男性社員の中でも、
一番年が近いせいもあって、最近少し話すようになったのである。
(ダメもとで…誘ってみるか…)

「合コンっスか!!!???自分、行かせて頂くっス!!!!!!」
クソ真面目な次郎のことだから、断られると思ったのに、
意外に乗り気の返事に、継人は少々驚く。
意外にというか、ものすごく乗り気な様子である。
その乗り気っぷりに、半ば呆れてしまうくらいだ。
「…お前、そんなに合コン好きなのか?」
「ハイ!!!!!だってみんなで飲んだり食べたり歌ったりするのって
楽しいじゃないっスか!!!!…でも、何故か誰も誘ってくれないんっス……
仙波さんが誘ってくださって、ものすごく嬉しいっス!!!!!!」

嬉しさのあまり、飛び跳ねる次郎。
「で、で、どこでやるんっスか!!!??
どこの会社の女性と会うっスか!!!???」

「オレも詳しい話は知らねぇんだけどよ…
知りたかったらシステムの東堂浪路に聞いてくれよ」

こうして、東堂浪路、仙波継人、そして泉 次郎。
なんとも奇妙なメンバーにて、合コンに挑むことになった。

合コン当日、土曜日。
3人は、会社の近所にある、とある中華料理屋の玄関口に来ていた。
本日の合コンの会場である。

「キャーーーッッ!!やだぁ~~!!結構カッコイイじゃない!」
「へえ~けっこうイケてるじゃんっっ!!!」
「浪路、あんたでかしたわっ!!!!」
「おいおい、俺はシカトかよ」

早速のご対面で、騒ぎ出す女性側。
女性側も3人である。
その内の1人と浪路はどうやら知り合いのようだ。

「紹介するぜ。こっちの背ぇ低い方は泉 次郎。
んでもってこっちは仙波継人。二人とも俺と同じ会社の後輩だ。
あ、俺は東堂浪路ってんだ。」

続いて、浪路と知り合いらしき女性が紹介をする。
「えーっとね、この髪の短いコが小暮里佳ちゃん。
こっちの背の高~いコが時任亜由美ちゃん。
あたしは真鍋ひかる。みんな同じ大学の4回生よ」

継人の想像通り、3人とも遊びまくっていそうな
雰囲気の女性である。
「継人君っていうの~?よろしくねっ♪」
さっそく目を付けたらしく、見た目気の強そうな活発娘、
小暮里佳が継人の腕にしがみつく。
(…こーいうのが苦手なんだよな…)

「や~ん!次郎君ってちっちゃくてかわいー♪」
突然、次郎の頭をなでなでするのは、
身長が175cmはあろうかという長身の美人、時任亜由美。
「ど、どどど、ど、どど、どもよろしくっっス!!!!!!!」
亜由美の迫力に押され、次郎はドギマギとしている。
「んじゃ、入ろうか。」
浪路と真鍋ひかるが店内へ誘う。

(…ふーん…なかなか変わった造りの店だな…)
テーブル一つ一つが個室となっており、
個々の部屋にカラオケ完備。
カラオケボックスと中華料理屋が一つになったような感じだ。
「あ、カラオケついてるっスか!!!???自分、カラオケ大好きっス!!!!!」
浮かれまくりの次郎。
「ま~カラオケはそのうちやろうぜ。まずは飲むぞ!」
そう言って、浪路がオーダーをどんどん頼み始める。

2時間後。

「ねーねーねー!継人くぅぅぅん♪もっと飲んで♪ねっ??」
すっかり出来上がった里佳は、継人にべったりである。
まるで『どうぞ見て下さい』と言わんばかりの
露出の激しい薄着なのをいいことに、ここぞとばかりに継人に迫っているのだ。
自慢の胸を武器に、継人にすり寄る里佳。
酔いも手伝って、かろうじて理性を保つのが精一杯の継人。
そうやってべったりされるのは、本当は大嫌いな継人も、
酒をたらふく飲んだせいか、抵抗することもできない。
(……ま……まいったな……)

一方、次郎と浪路は。
「オラオラオラーー!!!次郎!!!!お前飲み足んなすぎ!!!
オラ飲め!!!あーーん?俺の酒が飲めねえってのか?
だいたいお前はなー!!!!真面目すぎんの、マジメ!!!!」

酒を飲むと実は絡み上戸の浪路。
「ぎゃっははははははははは!!!!!!!
そーんなことないっスよーーー!!!!!あーーっはっはっはっは!!!!!
ほーら、自分はこぉーんなに飲んじゃいますよーーーー?
ひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!!!」

続いて笑い上戸の次郎。
二人のペースについていけず、すでに酔いつぶれている女性二人。

(オレもいっそのことああやって現実逃避したい……)
中途半端に酒に強いと、楽しめるモノも楽しめない。

「…ねぇ、継人君…」
ふと、自分にしがみついている里佳がそっと呟く。
「な、何…」
継人が里佳の方を向く。

なんと、里佳は脱いでいた。
上半身すっぽんぽんである。
「ちょ、ちょっと、何脱いでんだよ!?」
「いいでしょ…?継人君…」
「…………な……(汗)」
浪路たちはすっかりへべれけで、こちらの様子には気付いていない。
継人の理性が限界、というところで、事件は起きた。
「それでは、1番!泉 次郎20歳!!!!うたいまーーーーーっっス!!!!!!!」

”しぃぃぃぃぃぃぃんぱぁぁぁぁぁぁぁいなあいかああらああねえええ~~  きぃぃぃぃぃみぃぃぃぃぃのぉぉぉぉおおおおもおおおいいいいっがああああ!!!… ”

ガシャーーーーーンン!!!
パリィィィィーーーーンン!!!!
バキバキバキバキィィィ!!!!!

次郎の、超音波とも言える歌声が、
継人たちのいる個室を破壊してゆく。
「な……なんって声……っていうか声じゃねえよコレ!!!
…うっ、うわああああ!!!」

一瞬にして酔いの冷めた浪路は、気を失ってしまった女性達を
かばいつつ、崩れてくる天井や壁から逃げまどう。
次郎は、すっかり歌の世界に入っており、周りの惨事に気付いていない。
まるでドリフのコントのように、四方の壁が倒れる。
「お、おいっ!!!やめろ泉!!!」
酔いしれる次郎の口を無理矢理塞ぐ継人。
元凶が黙った瞬間、崩壊もパタリと止んだ。

結局、合コンはその時点で終了(当たり前。)
予想外の惨事に、次郎の超音波(※歌声)に耳をやられた
女性達は、気の毒なことに3人とも病院送りだ。
一方、N.H.Kの男性軍は、奇跡的にかすり傷で済んだ。
このへんが、特殊なN.H.K社員と一般人の違いであろうか。

「…にしても…お前にこういう特技があったなんてな。」
こんな惨事になっても、特技の一言で片づける浪路もただものではない。
「…特技?なんのことっスか?」
次郎はわかっていない。
「なんのことって…お前な~…」
「以前、遠山さん達にカラオケ誘われた時も、
自分が歌ってる途中に店が崩れてきたんっスよ!!!!!
最近、老朽化した店が多いんっスよね!!!きっと!!!!!」

真面目にそう答える次郎。

(何故か誰も誘ってくれないんっス……)

継人は、自分が合コンに誘ったときに、
そう言った次郎の理由が今、わかった。
やはり、この会社の人間は、みんな変だ。
だが、次郎が歌ってくれなかったら、
あの後、里佳と一体どうなっていたか。

だが、その後あの女性3人組と会うことは二度となかった。

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