[小説]千葉湯けむり殺人事件(5)

小説/本文

「だ、誰だ?」
警戒する一同の視線の先には一人の青年が立っていた。
「あ、ど~も~、勝手に、いやいやいや皆さん災難でしたねぇ。」
青年はズカズカと入り込んで来る。
「あ、あの~」
「いやいや御心配無く~。妖しい者ではありません。」
青年は愛想よく答える、しかし。
「靴、履いたまま。」
「をうっ!?はっはっは、失礼失礼~。」
芹子の突っ込みに慌てて靴を脱ぎに戻るのであった。

「で、あなたはいったいどなたなんです?」
沢井が青年に尋ねた。
疂を拭いた後で、青年と社員一同は向かい合って座っていた。
「申し遅れました。私、こういう者です。」
青年が出した名刺を見ると、

( アフロディーテ探偵事務所・探偵 シャンゼリゼ島崎 )

などと書いてあった。
「すっごぉぉい!本物の探偵さん!サインしてくださいっ!!」
みはるがにじり寄る。
「び、美容院みたいな事務所と美容師みたいな名前・・」
対照的に芹子は引き気味である。

「いやいやいや、はっはっは」
気さくにサインに応じる島崎。
満と吉村はヒソヒソと話し合っている。
「悟っつあん、な~んかアイツ、妖しくねーか?」
「む~、そうだなぁ、警察がちゃんとした捜査をしてるってのに今さら探偵なんて・・」
「なんですか~~?」
「うわあぁぁぁっ!!!!!」
満と吉村の顔の間に突然島崎がにゅ~っと割り込んだのだ。
「び、び、びっくりさせるぜぃ!」
「はっはっは、御心配無く。」
「あんたが心配だ・・」
島崎は妙~な身ぶり手ぶりで説明を始めた。
「実は私はこの旅館の関係者の方に、別な件で依頼されて来たんですよ。」
「別な件?」
満の問いには答えずに島崎は続ける。
「此所に着いたのも事件の前、というより最初の事件の直前ですね。」
「あ、そーいえばロビーで見たような・・」
島崎が突然立ち上がる。
「そうっ!読者諸君っ!初めの頃を読み返してくれたまえっ!
「青年」として私がちゃんと出ているのだっ!!
しっかし、まさかこ~んなキャラだとはねぇ~、はっはっはっは」
「自分で言ってるよ・・」
満があきれて言った。
「あの、探偵さん?では、この事件には関係無いんですか?」
眞妃が質問する。
「いやぁ、ところがですねぇ。私に依頼をされた方々が全て今回一連の事件の関係者でして。」
『えぇっ!?』
驚く一同。
「なるほど、それで私達にも聞き込みを。」
「そうなんですよ。」
「それにしても変ねぇ、あれだけの大事件にも関わらず
旅館から退去しろとか言ってこないってのも・・」
眞妃が首をかしげる。
「あ、それですか、先ほど犯人が逮捕されたらしいですよ。」
『どしぇぇぇーーっ!!??』
また驚く一同。
「で、無くなった二人の女性ですね、
え~、どうやら自殺に間違い無いみたいなことらしくて・・」
『どしゅぇぇひぇーーっ!!!???』
またまた驚く一同。
「じ、じゃあもう事件は解決ってこと?」
眞妃が聞く。
「警察的には、ですね。」
「警察的?」
怪訝な顔をする一同。
「実は、今回の依頼者の方というのが、
先ほど逮捕された犯人の人でして・・・はっはっは」
『どびっしゅぇぇぇぇぇーーっ!!!!!?????』
今度こそ本当の驚きを体験した一同であった。

「まぁ、そんなワケで私はまだやらねばならないことがけっこうあるんですよ。」
パチン!島崎が扇子を閉じた。
一同はあれから、事件の詳しい事情と、
その後の経過ををこの探偵から聞いたのであった。

要約すると・・・
島崎に依頼をしたのは芹子を襲った長身の男、勝野隆司40歳、この旅館の経営者の長男であった。
依頼内容は経営者である父が行方不明なのと、妹が挙動不振であることに関する調査である。
勝野容疑者は逮捕時は心身虚脱状態だったという。今は警察病院に入院しているようだ。
さらに自殺したという二人は勝野容疑者の妹、寛子の知人らしいということである。
寛子の招待を受けてこの旅館に来ていたという。
そして勝野容疑者の父、行方不明の勝野隆昌氏はかなりの資産家であると言う。

なぜか彼は話している間中、正座して落語家のような身ぶり手ぶりであった。もちろん意味不明。

「なるほど・・・ふむぅ・・」
満があごに手を当てて頷く。
「なるほどじゃないわよ。あんたと吉村さんが病院を抜け出したりするもんだから、
警察もこまってたらしいじゃないの。」
芹子が二人をたしなめる。
二人は揃って「はーい、すいまっしぇ~ん!」
ぜんぜん反省の色がない。
「それにしても満ならともかく、吉村さんまであんな無茶するなんて・・」
芹子が悟史をしげしげと見る。
「あ~ら、吉村さん言ってたわよン?」
復活していたハリーが首を突っ込む。
『久しぶりに羽を伸ばせるなぁ~』だって!」
吉村のモノマネで言う。
『えぇ~!?』
声を上げる一同。なぜか島崎もいっしょである。
「なるほど、病院にいたら貴重な時間が勿体無いと。」
満がフムフムと頷く。
「それにしても愛妻家の吉村さんらしからぬ発言ね。」
眞妃までもが吉村をジトっと見つめる。
「い、いやそれはね・・家族を愛すればこそ、家にいると疲れるじゃない・・だから・・ね」

何故か沈黙・・・そして。

「はっはっは!」
ズデンっ!コケる一同。
「な、なによ!島崎さん。いきなり・・」
「あ、笑う所じゃありませんでたか?はっはっは失敬失敬。」
「調子狂っちゃうなぁ~」
そう思ったのは芹子だけでは無かったが、類は共を呼ぶの法則が、
彼を呼び寄せたことに気付いた人間は居なかった。

次の日、満と悟史、芹子の3人はパトカーに乗って警察に行った。
今後のことでいろいろあるらしい。
シャンゼリゼ島崎の姿は朝から見えなかった。

残されたメンバーは旅館でじっとしていても仕方が無いので、
気晴らしに近くの水族館に行くことにした。
社員旅行はまだ5日もあるのだ(良い会社だなぁ(笑))
「でも旅行がこんな会社の近くだってことは、いつでも呼び戻せるってことだよなぁ・・」
橘は前を歩くみはる達の背中を見ながら、なんとなく呟いた。
(僕とみはるちゃん以外のメンバーが呼び戻されれば・・・)
良からぬことを考えたりする・・・その時。
 ピラリラ、ピ~ラリラ~、ピララリラ~~・・・
あたりに軽快な電子音で、ブラビの新曲が鳴り響く。
沢井の携帯電話だった。(なぜブラビ・・)
「あ~はいはい?・・・・・・・・・・え!?」
沢井の声が大きくなる。
「届いたかっ!!よぉぉぉぉぉしっ!!!!!やったぁ!!」
そして立ち止まってガッツポーズを繰り返す。
「さ、沢井さん・・・?」
怪訝そうな橘。電話を切った沢井はなんだかすごく嬉しそうだ。
「あの・・もしかして会社からですか?」
「家からだよぉ!いや~待てば海路の日和有りってねぇ~!」
あまりのハイテンションに先を歩いていた眞妃達も戻って来た。
「どうしたんですか?沢井さん?」
沢井はニマ~っと笑って答える。
「いや~、本当に手にはいるとは思わなかったけどねぇ~」
「何がですかぁ??」
みはるは興味津々である。
「新素材の人工皮膚♪」
『え・・・・・・?』
唖然とする4人。かまわず沢井は続ける。
「これがあるとすんごくリアルなフィギュアができるんだよぉ~♪
くぅ~っ!!早く試してみたいなぁ~っ!!」
『・・・・・・・・・・(汗)』
しかし橘はハタと気付く。
(これは・・「みはるちゃんと二人っきり計画」の第一歩となるのではっ!?よ~し・・・)
またしても良からぬ考えが鎌首を擡げる。
「沢井さんっ!良かったですねぇ!!」
橘は沢井をけしかけ始めた。
「その沢井さんの新素材フィギュア!早く見たいなぁ!」
「うんうん!そうかね!君も分かるかねっ!?」
沢井は橘の手を握ってブンブン上下に振った。
「よしっ!今からさっそく戻って!」
「はいっ!(よしっ)」
「いっしょにフィギュアを作ろう!大島君っ!!」
「はいっ!え・・・!?」
「タクシーっ!!」
バタン!
「ぎゃーーーーーーーーっ!!!」
「そんなに嬉しいかね♪」

ブロロロロロロロ~・・・・・・・・・

沢井は最後まで橘の手を放さなかった。

「行っちゃった・・・」
眞妃はポカんとしている。
「いいわね~ン何かに熱中できる人達って!」
ハリーはくねくねと見送った。
「早くー!ラッコ見に行こうよー!!」
みはるはもう忘れている。橘のことも・・・

がんばれ橘!まけるな橘!クライマックスまでには戻ってこいよ!(笑)

さて、こちらは水族館。
「うわ~….きれい」
眞妃はつぶやいた。そう、まるで今日までのことを洗い流してくれるかのように…。
そこに、あの大男があらわれた。
『え、なんで?今のって、あの容疑者…』
そのとき。
「うっ…..」
眞妃は大男によってぐっすり眠らされた。
そして、近くの立入禁止区域にひきずりこまれた。
そのとき、眞妃には「こんなに首を突っ込まなければいいものの。馬鹿な野郎達だ。」
と聞こえたような気がした。

もちろん素手で眞妃を倒せる人間はいない(笑)
眞妃には象をも眠らせられる、麻酔銃が使われたのである。
そして大男の横にはもう一人、別の人影があった。
その姿は女性のようにも見えた。

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