山梨から車を走らせ、会社に着くと
ちょうど昼休みの時間だった。
「あっ、中原さん!!」
留守番をしていたみはるが、幹雄救出に向かった社員達が
幹雄を連れて戻るのを見ると、笑顔で迎えてくれる。
「よかった!無事でっ!!……あっ……でも……お花のビビアンが……」
みはるは、ぼろぼろになったビビアンを会社に持ち込んだあとは、
ビビアンを直視することが出来ずに、食堂のテーブルに放置したままだ。
「食堂ですね」
幹雄は、誰もビビアンが食堂にあるとも言っていないのに、
突然食堂へ足を運ぶ。
みはるが驚いて幹雄の後を追う。
「きゃ、キャーーッ!中原さん、見ちゃダメ……って、あれ?」
ビビアンは。
植木鉢こそ割れていたが、本体はピンピンしていた。
いつものように、鮮やかな濃いめのピンク色の花を咲かせている。
「植木鉢、新しいのを買ってあげるからね、ビビアン」
そう言って、幹雄は久々に出会えたビビアンを頬ずりする。
「ビビアンって………形状記憶合金なのかしら………」
眞妃が目を点にして言う。
「おい幹雄、女房のビビアンちゃんとこに戻ってやれよ。
大丈夫なフリしてたけど、きっとすげぇ心配してるぜ」
満が気を利かせて声を掛ける。
「はい、そのつもりです。今日はもう帰らせていただきますね」
そう言うと、幹雄は鉢無しのビビアンを抱え、
颯爽とオフィスを後にした。
自分の帰りを待つ、最愛の妻の元へ帰るために。
栃木にある、幹雄の自宅。
2日ぶりに帰る家は、ほんの少し緊張感が漂っている。
「…ただいま…」
そっと、玄関を開ける幹雄。
そこには、一晩中眠らずに待っていた妻…ビビアンがいた。
『…お帰りなさい。幹雄…』
ビビアンには、まだ覚えたての日本語を話す気力もないのか、
挨拶を中国語で返す。夫を迎えるその笑顔も、少しやつれている。
2日ぶりに会う妻を、申し訳なさそうに、
そして、慈しむように、抱きしめる幹雄。
『ごめん、心配かけて…もう大丈夫だから』
『聞こえたよ…幹雄が助けを求める声。庭の柿の木が教えてくれたの』
監禁された、あの夜。
幹雄は、部屋の外の庭にあった松の木に、
「自分の居場所を、栃木にいる妻へ伝えて欲しい」
と願ったのだ。
その言葉は、あらゆる植物から植物へと、
いわゆる「伝言ゲーム」のように伝わっていった。
そしてゴールは…自分と同じく植物の言葉がわかる妻、ビビアン。
この夫婦だから成せるワザである。
『…で、居場所を聞いてから、少し安心したけど……でも……』
必死になって幹雄を捜索してくれる社員達に
迷惑はかけたくない。
そう思い、電話でも気丈に対応したビビアン。
だが、夫の無事を確認した今、その必要はなくなった。
緊張感が一気にとけたビビアンは、幹雄の胸で思い切り泣いた。