[小説]因縁 – Connection -(プロローグ)

小説/本文

とある年の、2月。

東京都立英南台高等学校。
今日は入学試験が執り行われており、たくさんの受験生達でごった返していた。
そんな中…校門前に、
目の下にクマを作った坊主頭の中学生が一人、不気味な笑みを浮かべて仁王立ちしている。
「ふ……ふふふははは………
ゆうべは睡眠15分で勉強したからな……今日はバッチリだ…!!!ハ…ハッハハッハ!!!」

睡眠15分。ほとんど完徹である。
「しかも試験開始の約1時間前に会場に到着するこの用意周到さ…
もうほぼ合格といっても間違いないだろう……フフ…ハハハハ…」

しかし、程なく流れた校内放送では。

 ”ピンポンパーン!
間もなく試験を開始しますので、受験される方々は着席して下さい”

どうやらこの男、試験開始時間を1時間間違えたらしい。
「な、何ィ!!? ぬぉぉぉ―――――!!!!!」
非人的なスピードで校舎内に向かって行く。
そして…

 ”バン!

閉じられていた教室のドアをものすごい勢いで開ける。
既に着席している受験生達が目を丸くする。

「区立杉沢中学校3年4組17番、受験番号122ィ!!
柏葉美彦ただいま到着!! 」

…せっかく試験開始に間に合ったというのに、
でかい声による余計な挨拶で周りの人に迷惑を掛けたということで試験官に注意を受け、
少々バツが悪そうに着席する、美彦。
試験開始まであと1分。
美彦は必要なものをカバンから机上へと取り出す。
「えーと、受験票と、エンピツと、定規と………」
いちいち声に出して確認する。
試験官が、額に青筋を立てて彼を睨む。
「どぅわあぁぁぁ―――――!!!!!!俺様としたことがぁぁ―――――!!!!
消しゴムを忘れてしまったァァァァ!!!!!」

「君!! 静かにしなさいっ!!」
一つ一つがオーバーリアクションな美彦に試験官はキレる。
その時…

「使え」

前の席から差し出された、真新しい消しゴム。
綺麗な長い髪を三つ編み一本に束ねた、見慣れない制服の女生徒。
別の中学の生徒だろう。
「へ?いい…の?」
「これをやるからいい加減静かにしろ。迷惑だ。」
少々女とは思えない、無愛想な口調でそう言い放つと、
女生徒は無造作に消しゴムを手渡した。
見知らぬ人の善意に、美彦は素直に感謝した。
大声の御礼つきで。
「ありがとぉぉ―――――――――!!!!!!」
「うるさいっ!!」

試験官の怒号が飛ぶ。
それと同時に校内にはチャイムが鳴り響き、試験は開始された。

「それでは、各自忘れ物の無いように。気をつけて帰って下さい。」

スタートは色々とドタバタがあったが、試験は無事終了した。
終了の挨拶を終え、試験官が去って行くと、
美彦は真っ先に、消しゴムを提供してくれた女生徒の前に立ちはだかる。
「この度は、誠にありがとうございまっしたァァ!!!!!」
大声の御礼と、90度のお辞儀。
周りの受験生達がクスクスと笑っている。
しかし、当の消しゴムを貸した本人は眉一つ動かさない。
笑うどころかむしろ迷惑そうな目で美彦を見る。
「…別に」
「それじゃ、これは返す!」
ぶんっ、と彼女の前に消しゴムを差し出す。
「要らん。やると言っただろう」
「え、そうだっけ?」
美彦が一瞬ためらうと、そこに彼女の友達と思われる女の子が、
教室の入り口で顔を覗かせた。

「みゆきちゃーん、何してんの?帰ろうよ~」

友達の呼ぶ声に、みゆきと呼ばれた女生徒は
美彦に何も告げずに立ち去っていった。

「……みゆきちゃん、かー……
もしかしたら、同級生になれるかもしれないな!」

みゆきが立ち去った後の教室で、
美彦は、嬉しそうに消しゴムを握り締め、
まだ見ぬ高校生活に夢を馳せていた。

だが…試験の結果が発表された、3月。
美彦は見事に落ちたのだった。

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