[小説]暴君フレスリーザ ~愛を忘れた王子様(プロローグ)

小説/本文

毎年恒例、4月の大規模人事異動を終え。
国際部では、産休に入る大島椎子の穴埋めとして、
多彩な言語を使いこなせることから営業部のフレスリーザ・レオンハルト…
…通称リーザ(様)が異動、配属された。
だが。

「白鳥部長、今日はDVDの白菜がペットボトルでせんと君ですね」

容姿端麗・頭脳明晰で非の打ち所がないはずの彼の唯一の非である
『リーザ語』(崩壊日本語)は相変わらずであった。

「…えーと… 彼、いつもこうなの?」
異動してくるまでリーザとの関わりが全くなかった夜半は呆れて、隣に立つ中原幹雄に問う。
「そうなんですよね。色んな言語が話せるのに、なぜか日本語だけはずっとこうですね。
こちらが話してることはなぜか理解できてるみたいなんですけどね…」

「なんでlisteningが出来てspeakingが出来ないの。訳がわからないなぁ」
「まぁ、リーザさんは、この会社に来る前に記憶喪失になってしまったようなので、
もしかしたら…失礼な言い方かもしれませんが、何か脳に異常があるのかもしれませんね…」

幹雄の何気ない一言に、夜半は「もしや」と言った顔で、穏やかに微笑んでこちらを見るリーザと目を合わせた。

「記憶喪失、ねぇ…」

それから数日後。

「社長、いるかな」
「えぇっ? え、あ、白鳥さんこんにちは!めずらしいからびっくりしちゃった!」
社屋から割と隔離されたような位置にある国際部から、
珍しく夜半が総務部へと顔を出してきたので、受付嬢の森川みはるは驚く。
「社長なら、100均にお買い物に行ってますわよン
でもどーせその帰りに本屋とかアニメショップとかホビーショップとか寄ってくるから今日は帰ってこないと思いますン
どう見ても会社の社長の行動とは思えないスケジュールを笑顔で吐き出すのは、社長秘書の成沢 明。
「………… 大丈夫なの?この会社。
困ったなぁ、…まぁ、別に急ぎってわけでもないけど…直接話したいことがあったんだよね」

「あら?珍しいですね白鳥さん。下に降りてきて、しかも社長に御用だなんて」
無意識なのか狙ってるのか、トレードマークのハリセンを片手に、肩をぽんぽんと叩きながら
人事部の瀬上奈津恵が現れた。
「そんな、いつでも叩く準備は万全と言った感じで構えないでくれるかな…怖いから」
「別に狙ってなんかいないわよ!…それより、貴方が社長に直接用があるなんて、
……何か、余程のことでもあったのかしら?どうせ社長に言ったところで
『好きにすれば』とか言われるのがオチだろうから、私でよければ相談に乗るわよ?」

夜半は、ちょっと考えて、まぁ別にいいかといった感じで軽くため息をつくと、
隠すことでもないからとその場で理由を語り始める。

「まぁ、先日ウチの部署に来たリーザ君のことについて、ちょっとね」
「レオンハルトさんのこと?」
「彼を最初にここに連れてきたのが社長だって聞いたから、社長に言った方がいいのかなって思ったんだけど。
…彼、聞くところによると記憶喪失ということになってるみたいだけど」

「ということになってる、って…まあ確かに、どういった経緯で記憶喪失になってるのかまでは
調べてはいないけども」

「彼は…本人の意志か他者の手によるものかはわからないけど、魔導によって記憶を封じられてる。
その気になれば俺が記憶を取り戻させることが出来るけど、どうする?」

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