(2月14日、夕方。資料室に資料を戻しに来ている西城寺初南賛)
初南賛:うぅ…寒いなぁ……この資料しまったらさっさと帰ろう…
というか…尋常じゃない寒さだなぁ、今日…
天気予報じゃ今日はそこそこ暖かくなるって言ってたのに…
…………
な、なんか……冷凍庫でも開けたかと思うような冷気が、背後から…?
(振り向く)
何も無い……別に……通気口とかあるわけじゃない、しなぁ……
(前を向いて棚に資料を戻しはじめる)
氷雨:…………………(ものすごい形相で初南賛の背後に隠れてる)
初南賛:…………やっぱり寒い―――――― !?(また振り向く)
氷雨:(すばやく隠れる)
初南賛:…………??
氷雨:(ま、まずい…緊張してつい冷気が出てしまう……
と、というか隠れてちゃダメなのに……し、しっかりしなきゃ朝霧氷雨!
たかがチョコレートひとつをあの男に手渡すだけの仕事……!
な、何を恐れる必要があるというの……)
初南賛:朝霧さん?
氷雨:ぎゃ―――――― !!!!
見つかった―――――― !!!!
初南賛:ちょ……そんな化け物でも見たかのような大きな声出さないで!
氷雨:み、見つかっ……きゃっ!
(慌てて走り去ろうとするが、足がもつれてずっこける)
初南賛:大丈夫?(嫌がられるのは分かっているので手は貸さない)
氷雨:べ、別に……ちょっとびっくりしただけだし……
初南賛:(ちょっと、ねぇ…………ん?)
(立ち上がった氷雨の足元に、
かわいくラッピングされたプレゼント箱がひとつ落ちている)
初南賛:足元、なにか落ちてるけど。
氷雨:……え? う、うわぁあああああっ!(慌てて拾い上げて背中に隠す)
初南賛:(……あぁ、そういえば今日ってバレンタインだっけ。忘れてたな…
彼女がチョコ持ってるなんて意外だな。ま、女の子同士で交換でもするのかな)
じゃあ僕、職場に戻るから。そこどいてもらえるかな。
氷雨:……………
初南賛:………?
氷雨:……………(無言で箱を差し出す)
初南賛:………え?
氷雨:……ご、誤解しないで……し、仕事だから……上からの命令だから !!
ホントはこんな、男にチョコあげるとかいうふざけたイベントに参加なんて
するつもりこれっぽっちもないんだから!
初南賛:……え、こ、これ……僕に !?
氷雨:今年のバレンタインの社内企画で…
女子社員は必ず誰か一人の男に、チョコを渡すっていう…
ただ、それだけだから……。
初南賛:へぇ……そんな企画があったとは……。というか、なんで僕に?
普段仲良さそうにしてる青木さんにでもあげればよかったのに。
氷雨:青木さんは、男じゃなくてロボだから…。
初南賛:(やっぱりそういう認識なのか。。)
特に……僕なんて、君にとっちゃ、とっつきにくいだろうに。
氷雨:うん。だから。
初南賛:(はっきり言う子だな……って、とっつきにくいのに何故?)
氷雨:あなたはこの間、女の子が嫌いだって言った。だからあなたにした。
女の子が嫌いなら……わ、私を、変な目で見たりしないでしょ。
初南賛:(なるほど………ね………)
氷雨:は、早く受け取って!こ、これは義理…
いえ、義理でもない、義務チョコなんだから!
初南賛:…義務チョコ………………は、ははっ
氷雨:!?
初南賛:い、いや……なんか上手いこと言ったもんだなと思って、つい……
(笑顔で氷雨の手からチョコを受け取る)
……ありがとう。義理でも義務でも、どんな理由であれ、嬉しいよ。
氷雨:そ、そう…よ、義務だから!上から言われなかったらあげることもなかったし…!
初南賛:ホワイトデーは何が欲しい?
氷雨: !? ―――――― べ、別に見返りを要求しているわけじゃ…!
初南賛:見返りって…ただのお礼だよ。ホワイトデーにお返しなんて普通じゃないの?
……いくら女の子が苦手だからって、頂き物にお礼しないほど
礼儀知らずじゃないよ、僕。
氷雨:………な、なんだっていいわよぅうう……… !!!
(この場の空気に耐え切れず走り去る)
初南賛:に、逃げ足速いなぁ………