2日後。
「はぁ~~い♪毎度様々です~!ニコニコ生命でぇ~す!!!」
いつものように、柊が定期訪問に来る。
「キャー柊ちゃん!!」
みはるは、条件反射のように叫ぶ。
「みはるちゃん、ちょっとこちらに…いいですか?」
柊は、総務部のデスクでやることをやり終えてから、
みはるをオフィスの隅へと呼び寄せた。
「なぁにい?柊ちゃん」
「これを…」
柊から、一枚のメモを渡される、みはる。
『読んで下さい』という目でみはるを見る、柊。
”今日午後6時、会社の近くの公園で会いましょう。お話があります ”
そのやりとりに、同じオフィスにいた橘も気付いていた。
そして、約束の午後6時――――
「お話って、なあに?柊ちゃん」
辺りはすっかり暗くなり、公園内は街灯の明かりで照らされている。
恋人達にとっては、格好のデートスポットだ。
「…まだ、気付きませんか?」
「え?なんのことぉ?」
「昨晩、眞妃さんから電話を頂きましてねぇ」
「眞妃ちゃんから?」
そう言って、柊は少し照れくさそうに、
自慢の長い髪を掻き上げる。
「中途半端なアプローチは止めなさい、って言われましてね」
「…え?」
何を言っているのか、まだわからないみはる。
「みはるちゃんは、良いお友達をお持ちですね。
…弟が思いを寄せている人にこう言うのは罪だと思ってましたが…
眞妃さんのおかげで、決心がつきましたよ」
「え……?それって…ま…まさか…」
「森川みはるさん。僕と結婚して下さい」
(結婚ーーー!!??やだあの人、何言ってるのよっっ!!!)
(シィーーーッ!!眞妃!!!気付かれちゃうわよっ!!!)
こっそりと、公園の影から二人の様子を見ているのは、
眞妃と芹子であった。
(私はただあの人にみはるに告白するフリしろって言っただけなのに!!!)
(でもそんなことして、みはるがOKしたらどうするのよ?)
(しないわよ、あの子は…絶対。そう思ったから)
(じゃあなんで二階堂さんにあんなことさせるのよ?)
(追いつめられたら、少しは自分の気持ちに気付くと思って…)
(自分の気持ち?)
(きっと、あの子、本当は…)
「けっ…結婚んん!!??え、何、うそぉっ!!!」
突然、とんでもないことを言われ、錯乱するみはる。
「僕では、駄目ですか…?」
みはるは、錯乱している間に、
いつの間にか抱き寄せられてしまっていた。
「◎×△●☆+*~!?」
頭の中が沸騰状態である。
「…僕は、あなたに振り向いてもらうために、
モデルになって、誰よりも有名になろうと思っていました。
…こうして、あなたは僕の腕の中にいる…夢のようですよ…」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ちなさい!!!!」
突然、木陰から眞妃が飛び出す。
「眞妃ちゃん!?」
…ガサッ
眞妃が飛び出したのとほぼ同時に。
眞妃が現れた反対方向の木陰から。
橘が現れた。
「た…橘くん…!!」
みはるが呆然とする中、柊がみはるの肩を抱きながら橘に言う。
「いや~ごめんね~橘くん。こーいうことだからね~はっはっは」
「しゅ…柊ちゃん…!!!」
みはるが何かを言おうとする前に、橘が震えた声で、呟く。
「……そうですか……
……でもこれで…僕…安心してあの会社を去ることが出来ます……」
”えっっ!!?? ”
橘の驚くべき発言に、眞妃、まだ陰に隠れている芹子、
そしてみはるが……驚愕した。
愕然とする一同を差し置いて、柊はただニコニコとしているだけだった。
それから、なんとなく解散した5人。
だが柊は橘のことを気にも留めずに、みはるに
「明日電話入れますね~」
と、のんきに約束を入れていた。
みはるは…
(なんで…なんでこんなことになっちゃったのよおっ!!)
どうしていいかわからず、
これから来る不安一杯の未来から逃げるように、走って家に帰っていった。
次の日、みはるは橘の言い残していった言葉を
頭の中で反芻しながら、重い足取りで会社に向かう。
会社へ着き、食堂の前を通り過ぎたとき、
みはるは昨日のあの言葉の意味を、一瞬で理解した。
食堂の掲示板に貼られた、真新しい白いA4サイズの紙に、こう書かれていた。
” 購買部 大島 橘 殿
右の者、10月25日付にて、ねぎ秘密結社仙台支社勤務を命ずる ”