[小説]歌う山 - The Singing Mountain -(5)

小説/本文

一方、3人とは全く別の場所を捜索している、橘・みはるの二人は。
「……あ~~っ!もう!浪路さんどこにいるのーっ!?」
「本当に…これだけ見つからないと不思議だよね…
鳥居さん家のガードマン何百人も借り出しても、見つからないなんて…」

「いっそ、千里眼ができる恵莉ちゃんを呼んだほうがいいんじゃないかなあ?」
「今から呼んでも、東京からじゃ時間がかかっちゃうよ…」
社員の間では、何かがあったら携帯電話で連絡を取り合う事になっているが、
今のところ、橘の持つ携帯は、全く鳴る様子は無い。
「この辺りはもう大体捜したし、少し休もうか…」

鳥居家の私有地でもあるこの山の頂上には、
久我が打ち上げた人工太陽が輝いている。
だが、所詮は人の手で作られた太陽。
光は本物の何十分の一くらいしかない。
そのせいか、辺りは普通の昼間よりも、だいぶ薄暗い。
橘は、うっすらと照らされる森を眺めながら、浪路の安否を気遣った。
「ねえ、あたし…思ったんだけど。」
しばらくお互いに沈黙していたが、ふとみはるが口を開いた。
「…何を?」
「橘くんの力で、どうにかならないかな?」
「僕の……力?」
「ほら、橘くんてさ、ひとの心を読む力があるんでしょ?
それで前に、あたしの居場所を見つけたこともあったじゃない!」

「あ、ああ…そういえば…」
(出典→小説『千葉湯けむり殺人事件』
まだ二人がただの友達だったころ…
橘がみはるに片思い真っ只中の時の出来事だ。
ただ、あの時はみはるを思う気持ちが強かったからこそ…
そんな力の使い方が可能だったという事もあるが。
「このままじゃ……浪路さん、ずっと一人でかわいそうだよ……」
そう、搾り出すように言うと、みはるは泣き出してしまった。
みはるにとって…浪路は頼りになるお姉さん(またはお兄さん)のような存在。
眞妃には大丈夫だと言ったものの、内心は不安でたまらないのだろう。
一刻も早く、浪路の無事をこの目にしたいのは、橘とて同じだ。

橘は、涙で目を真っ赤にしたみはるの頭をそっと撫でると、
空を見上げ、全神経を研ぎ澄ませた。
次第に…この山にいる、全ての人間の心が、次から次へと脳裏に浮かぶ。

――――橘くん、がんばって…!
(これは隣にいる、みはるちゃんの心…)

――――早く、早く無事に帰ってきて、浪路…!
(これは、宿で連絡を待つ芹子さん…)

――――今日の夕飯の野菜炒め、しょっぱかったなぁ。
(こ、これは…鳥居家のガードマンのうちの誰かかな…)

――――便所どこだーー!?あーもう、そのへんにしちまえ!
(これも…ガードマンかなぁ…ι)

さまざまな人々の『思い』が駆け巡る中、
満の、闇をも貫く叫びが、橘の脳裏に飛び込んできた。

『ぎゃぁぁぁああ―――――っっっ!!!!な、なんだぁぁ――っっ!!??』

「私って…どうしていつもこうなのかしら…」

橘達がいる場所とはちょうど反対側…
浪路が姿を消した遊歩道付近を、成沢夫妻は歩いていた。
「いつも、って?」
溜息をつきながら俯く眞妃に、明が問う。
「素直になれないというか…喧嘩っ早いというか、意地張っちゃうっていうか。
ちょっと前までは、あんたに対してもそうだったし。
この年になると、性格の矯正ってのも出来ないものなのかしら…」

本気で悩む眞妃に、明は微笑む。
「別に、そのままでも君は十分素敵だって。」
「…何よ、こんな時に口説き文句?」
「そうじゃなくて。別に無理矢理矯正なんてしなくても、
眞妃のそういう怒りっぽくて意地っ張りなところは、
君の個性の一つだって、みんなちゃんと分かってるよ。
もちろん、ナミちゃんもね。」

「…………」
「それに、素直な眞妃ってのいうのはかえって不気味だし(笑)」
「…なぁんですって? どういう意味よ!それはっ!!」
明の胸ぐらを掴んで、目を吊り上げて怒る眞妃。
しかし明はそんなことは慣れっこなので、動じずに笑う。
「あはは、やっぱり眞妃はこーでなくっちゃ。
…その元気な顔、早く皆にも、ナミちゃんにも見せないとね。」

そう言われ、眞妃はハッとする。
何気なくからかったように見せかけ、元気づけてくれた明に。
「明、あんたって…」
「なに?」
「…卑怯よね。」
それだけ言うと、眞妃は明の胸ぐらから手を離し、
さっさと先を歩き始める。
「…え、えェ?ボクってヒキョーなのン!?
キャー!Wait(待って)!! 眞妃!」

眞妃の言った事が理解できない明は、
混乱して、英語とオカマ語交じりの日本語を放つ。
眞妃が後ろを振り向かずに突っ込む。
「あんた……日本語メチャクチャよ……
……あら?これは……」

眞妃が夕方、一人で浪路を捜した川岸を歩いていると、
この自然の中にあるには、不自然な『もの』を発見した。
ちょうど、浪路が転落したかと思われる場所の辺りだ。
夕方に眞妃が捜した時には、心が混乱していて気づかなかったのだろう。
「どうしたの?」
「ねぇ、見てこれ……文字?」
一つの大きめの岩に、文字らしきものが彫られていた。
しかし、見た事も無いような文字だ。
「全然…何が書いてあるのかわかんないね…
でも、最近彫ったものっぽいけど。」

明が、確かめるかのようにその文字に触れる。
すると、その時。

 ”パァァァァ……

文字から光が放たれ、その光に明が包まれたかと思うと、一瞬にして消え去った。
「えっ!? ちょ、ちょっと、何っ!? 明!?」
眞妃が本日二度目の当たりにする、人間の消失劇。
「…これ以上、誰もいなくならないでよ…!! 明ぁっ!!!」
吐き出すように叫ぶと、眞妃はとっさにその文字に触れ、
明を追うようにして、消えた。

一方、連絡待ち係の久我と芹子(+息子・昴)は。

 ”ガン!ガシャーン!パリン!

「ちょっと久我さんっ!何大っきな音立ててるのよっ!
昴が起きちゃうじゃない!やっと寝かしつけたのに!」

「す、すまない…芹子君……ちょっと探し物を……」
「う………うわぁぁ~~~~ん!!!」
「ああもう、やっぱり起きちゃったじゃないの!
…まあ、いっか。ちょうどミルクの時間だし…
久我さん、責任持って粉ミルク作って!あたしはオムツ取りかえるから。」

「な、何で私が…」
「文句言わない!起こした責任よっ!!
あ、ミルクに変なもの入れたらぶっ殺すからね!?」

「ぶっ殺すって…芹子君、まんちゃんと結婚してから
性格過激になったんじゃ……」

「つべこべ言わずにミルク!!」
連絡待ちの傍ら、子守りを任されている久我だった(笑)

そして、昴が泣き止み、一息ついた頃…
「フフフ…よし、これで完成だ。」
久我が、宿の庭にて何やら大きな装置をセッティングしていた。
「やだ、何それ。」
「宇宙人を掘り当てるのだ。」
「はぁ?」
「これだけ虱(しらみ)潰しに捜しても、浪路君は見つからないのだ…
そして、あの不自然な音波の発信源も、見つからない。
これはもう、地上に存在するものではないと断定せざるを得ないだろう。」

「で、それで庭に穴を掘ろうってワケ?」
芹子の問いに、久我は満面の笑みを浮かべて、答える。
「その通りだ!庭に風穴を開けて、奴らの拠点に侵入する!行くぞ!芹子君!!!
え~い、スイッチオン!!!!フハハハハハハハハハハ!!!!」

意味不明な笑みと共に、久我は謎の装置のスイッチを押した。

 ”ドッカァァァァ――――ンン!!!!!”

「ちょ、ちょっと何爆破してるのよ!?」
爆風の中、芹子は久我に叫ぶ。
「地道に掘るよりこの方が手っ取り早いだろう!」
「地下に宇宙人がいるんだかなんだか知らないけど、
もし地下に浪路がいたらどうなるのよ!?」

「あ。」
「あ、じゃない――――――――っっっ!!!!(泣)」

しかし、久我の思惑通り。
爆発で開けた風穴からは、謎の金属の『基地』が発見された。
無残にも『基地』の一部は粉々になってしまった。

「ぎゃぁぁぁああ―――――っっっ!!!!な、なんだぁぁ――っっ!!??」

爆破の跡から、聞き覚えのある叫び声が聞こえる。
「この声……み、満!満っ!? そこにいるの!?」
「…フフフフ…やるねぇ、まんちゃん……
この私よりも敵のアジトに侵入していたとは……フフフフ……」

「その声……芹子!久我ちゃん!? もしかして、ここって宿の地下か!?」
この元気そうな声を聞く限り、満は無事のようだ。
「それより、久我ちゃん!何とかしてくれよ!
カズさんと沙織も一緒だったんだけど、何か知らねーうちに二人とも消えちまったんだよ!」

砂煙に捲かれて姿の見えない満の声は、かなり必死そうだった。
一体どうしたと言うのか。
「早く、早く二人を見つけねぇと……!!」
「ど、どうしたの?満、そんなに慌てて…」
「カズさんの理性が持つうちに見つけねぇと、セクハラが!!」
………………
満は、先ほどの沙織の「上総はセクハラ男」という言葉を真に受けていたようだ。

「…………まあいい、私もそちらへ行こう。
浪路君もそちらにいるだろうしね。」

久我は、既に浪路がこの基地内にいると断定している。
白衣を翻しながら、久我は自らが開けた風穴に飛び込んでいった。

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