(社員寮旅行から数日経った土曜日、社員寮「わけぎ」102号室)
” ピンポーン ”
奈津恵:お邪魔しますよ。
夜半:どうぞ。
俊幸:よお!久しぶりやなぁ白鳥!
夜半:瀬上先輩も元気そうだね。深夜の準レギュラー番組いつも観てるよ。
俊幸:ほんまか!いやーようやっと期間限定やけどレギュラー獲れたからな~
評判次第でまた使てくれるゆうてたし
奈津恵:……ちょっと、暑いんだけど立ち話やめない?
(※一応まだ夏である)
夜半:あぁ、ごめんね。お茶冷やしてあるんでどうぞ。
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(冷たい麦茶を飲んで、一息ついた後)
俊幸:………で、だ。今日の本題!
なんや白鳥お前、また奈津恵と契約だとかなんとかしたんやと?
夜半:そうなんだよねぇ。
俊幸:そうなんだよねで済むかアホ!契約ってアレやろ?このオレの!かわいい嫁に!!
噛みついて血ィー飲んだってコトやろ!? これが夫として黙って見てるわけにいかんのわかるやろ!?
夜半:あ、はい。
俊幸:大体なぁ!奈津恵の血なんてオレでも飲んだことないのにズルいっちゅーねん!!!
奈津恵:普通の人間は人間の血なんて飲まないと思うんだけど。
夜半:瀬上先輩はツッコミのプロのはずなんだけど奈津恵ちゃんに関してはボケに入るよね…。
俊幸:聞いとんのか白鳥ィ!!!
夜半:あ、はい。
俊幸:一応、大学時代にもあったことやから、契約がどんなんかは分かってる。
確か定期的に血ィ渡しに来なあかんのやろ?
奈津恵:そう……だけど、契約破棄すればまた普通の生活に戻れるんでしょう?
夜半:そう、なんだけどね…。
俊幸:そういうわけにもいかんのやろ?なんやゆうべ電話でチラッとゆうてたけど
奈津恵:なんでよ?
夜半:いや、また今回みたいに俺どっかで野垂れ死ぬかもしれないし、そういうことが起きた場合のためにレインの手を借りなくても奈津恵ちゃん一人がいれば復活できるようにしておこうかなと
奈津恵:貴方そんなホイホイ死ねるようなヤワな吸血鬼じゃないはずよね。。。
俊幸:ふん、なんにせよコイツは血がなきゃ生きてけん生きもんやろ?
だからオレは逆転の発想をした!オイ白鳥!!
夜半:はい。
俊幸:オレとも契約しろ!オレのフル~ティ~で美味な血に酔いしれろ!
奈津恵:はあ!?
夜半:え、やだ。
俊幸:はああ!? なんでやねん!食いぶちは一人でも多いほうがええやろ!
夜半:だって先輩の血まずそ…
俊幸:なんやと!
夜半:…ってのはまあ冗談として、同じ会社にいる奈津恵ちゃんはともかく、芸人で多忙な先輩が俺に定期的に血を与えにくるとか現実的じゃないでしょ。
俊幸:そうでもないぞ!? 俺結構ヒマやぞぉ!?
奈津恵:一家の大黒柱がヒマでも困るんだけども…。
夜半:まあ正直に言うと、奈津恵ちゃんは吸血鬼の真祖として界隈では名の知れてる俺との繋がりのある人間としてだいぶ顔が知れ渡ってる可能性があるし、
レインに限らず、俺の寝首掻こうっていう輩は他にいないとも限らないからね。なるべく俺の庇護下に置いておきたいんだけど……。
俊幸:……それってつまり、奈津恵を危険から守りたいから契約を続ける、ってことか?
夜半:そうだね。
俊幸:ふざけんなよ?奈津恵守るんはオレの役目や!
奈津恵:!
俊幸:それに、奈津恵だって守られっぱなしでいるほど弱い女でもない!
奈津恵:俊幸……
夜半:………そうだね、俺が過保護過ぎた。騎士の役目を瀬上先輩から奪っちゃいけなかったね。
奈津恵:そうよ、白鳥君。私がそこまでか弱い女じゃないの、知ってるでしょ?
………コレだってあるしね!
ぺすっ
奈津恵:ぺす?……え?何??
夜半:な、何?いまなにで叩いたの?
奈津恵:いつものハリセンなんだけど……なにこれぇ!?
ぺすっ
ぺすっ
ぺすっ
(夜半を勢いよく何度も何度も叩くが、紙切れ1枚で撫でてるような衝撃しか与えられない)
俊幸:なんや奈津恵、お前のハリセンそんなへろへろだったか?
奈津恵:おかしいわよね!? こんなに勢いよく振りかざしても
(試しに同じ勢いで俊幸を叩く)
スパァン!!!!
俊幸:あ痛ァ!!!!! めっちゃ痛ッ!!! 何すんねん!!!!
奈津恵:あれ……普通に叩けた……
(また夜半に向けて叩く)
ぺすっ
夜半:コピー用紙1枚で撫でられるような感触。
奈津恵:えええええ!? どういうこと!?
夜半:これは恐らく…いや、間違いない。
俺と契約したことで、奈津恵ちゃんのハリセンが 俺を敵だと認識しなくなってる。
俊幸:いやオレかて敵やないんやけどぉ!? 夫やぞ!?
夜半:なんていうか……そうじゃなくて、俺と奈津恵ちゃんは紙の上での契約じゃなくて血を分かち合った関係というか身体の繋がりというか……なんて言えばいいのか……
俊幸:身体ですってェ!? いやんもう汚らわしいッ!
オレかて奈津恵とはもう何べんも身体の関係に
奈津恵:こっ恥ずかしいこと言ってんじゃないわよっ!
スパァン!!!!
俊幸:痛ァ!!! キッツいわ!!!
夜半:よし、決めた。絶対契約破棄しない。
契約にこんな素晴らしいメリットがあったなんて、分かってたらもっと早く契約してたのに。
奈津恵:ちょ、ちょっと勘弁してよ。まさかハリセンのためだけに契約継続するの!? 困るんだけど!?
夜半:俺をハリセンで叩けなくなるのがなんで困るのさ。
前々から言ってるでしょハリセンやめてって。
じゃあ、今後絶対に俺をハリセンで叩かないって約束してくれるなら契約破棄してあげるよ。
奈津恵:え、やだ。
俊幸:即答かよ!!!
お前どんだけ白鳥をハリセンでしばきたいねん!
奈津恵:この寝ぼすけをしばき倒せる存在があってもいいと思うのよね。
夜半:まあ俺と契約することでハリセン自体の威力は上がってると思うよ。ただ、俺だけにはノーダメージだけど。
奈津恵:悔しい……ハリセン以外の得物を探さないといけないじゃない。
俊幸:せやな。なんかこいつムカつくわ。二人でこいつしばく方法考えな
夜半:夫婦仲が良くて何よりだよ。