[小説]―― 6月 ――(終)

小説/本文

そして現在。

折り畳み傘を握りしめたまま、ボーっとしている眞妃。

「……ちゃん」

「…きちゃん」

「眞妃ちゃんっ!!」
「えっ!?」

不思議そうに、眞妃の顔をのぞき込む、ハインリヒ。
けれどもその直後、
「ねえねえっ!昨日新発売のファンデーション買っちゃったのぉ~♪
さっそく塗ってみたんだけどさっ♪どう?似合う?似合う?」

「んなもんは鏡にでも聞けーーーっっ!!!!!!」
ズドコオオオオオオオッッッッッッッ!!!!!!!!
今日も、眞妃の波動拳が炸裂する。
「お~、ハリーちゃん、今日もよく飛んでるなあ」
悟史がのんきそうに言う。
「あっはは~!眞妃ちゃん、今日もやるねえっ♪」
あの時、彼の異変を教えてくれた新入社員…
みはるは、今となっては眞妃の一番の話し相手だ。

”キ~ン コ~ン カ~ン コ~ン… ”

気が付けば、終業時間である。
「…さて…雨も酷くなってきたことだし…今日は帰ろうかしら」
「えっ、眞妃ちゃん今日は残業しないのっ!?じゃあ一緒に帰ろっ!
あたし、着替えてくるねーーーっ!!!」

そう言ってみはるは、更衣室へダッシュで向かう。

「ふう…今日は何だか昔のことを思い出しちゃったわね…」
眞妃は、もう一度、折り畳み傘を手に取る。
なんとなく、傘を広げてみる。
「この傘も、もう古いわね。買い換えようかしら…あっ」
手元が狂い、折り畳み傘の袋を床に落としてしまう。
「ああもう…」
面倒くさそうに、傘の袋を拾う。

カチ…ン

(え?)
傘の袋から、何か光るものが落ちた。
「これ……」

誕生日に、明から貰った銀製の指輪である。
あの日。
傘とバッグと一緒に、投げつけていた指輪。
当然、無くなったと思っていた。
眞妃が明に渡すはずだった指輪は、すでに眞妃自身が処分している。

『…何があっても、僕が本当に好きなのは、眞妃だけだから』

ふと、眞妃は明の言葉を思い出す。
あの言葉はウソだったのかもしれないが。

明は、ああいうオカマになり果てた今でも、
冗談なのか本気なのか分からない口調で、
眞妃を好きだと言ってくる。

「私だって……本当は……」

「眞妃ちゃあーーーーんっっ!!!何してるのぉっ?やっぱり残業してくの?」
着替え終わったみはるが、あまりにも眞妃が遅いので様子を見に来る。
「ううん…………ごめん、今行くわ。」

眞妃は、指輪をそっとポケットの中に入れると、
足早に更衣室へと向かっていった。

END

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