[小説]私が発明する理由(4)

小説/本文

「そ、それより!!久我さんを一人であっちに向かわせるのって、
すっごい危ないんじゃないの!?さらわれたみんなと一緒に
やられちゃうなんてことになったら……」

不安げに愛子が言う。
「そ、そうよ!!みんなで助けに行きましょ!!」
愛子の言葉に同意する、芹子。
「…ヤツなら人質全員捨てかねねぇからな…行った方がいいだろ」
いつの間にか起きていた継人も、同意する。

「あー、あのー皆さん。」
シャンゼリゼ島崎が一同を呼び止める。
「どうしたんですか、島崎さん?」
「この件は恭一郎さんにまかせておいたほうがいいですよ。彼が本気になったら、
ほとんど無敵なので心配いりません。ですから…」

「ですから?」
島崎は懐からガスマスクを出して装着する。
「!!!」
「ですから、しゅぅ~っと。」
島崎の手には、いつの間にかタクトの代わりに、
恭一郎のと同じ催眠スプレーが握られている。
「うわっ!またあのガスだっ!」
「はい、しゅ~っ。」
次々とガスを噴射して廻る島崎。
「な、何をするんですかぁっ!」
「やっ、やめろぉっ!」
「大丈夫大丈夫、無害ですから、蚊も死にません。
それでは皆さん……おやすみなさ~い」

プシューーーッッッッ!!!

どうやら、再度社員を眠らせるようにと、
前もって恭一郎に頼まれていたらしい。

「だーーーーっっっ!!!そんなバカなーーーっっ!!!!!!」

そうして、社員が全員寝静まった頃…

「はい、皆さんよくお休みみたいですね、寝冷えをしないように……」
そう言って島崎は眠りこけた全員にタオルケットを掛けてゆく。
タオルケットはポケモンの絵であった。これらも恭一郎のアイテムなのだろうか。
「また、お会いしましょう」
寝顔に微笑みを贈り、島崎は秘密結社を後にした。

「……娘?何言ってるの?」

恭一郎の言葉に、嘲笑するアリス。
「君のことを、少し調べさせてもらった。
君は国際遺伝子研究所の生まれだそうだね。人工授精で
生まされた、天性の優性種だそうじゃないか」

アリスは、黙って恭一郎の言葉の続きを聞く。
「…私があの施設に精子を売ったのは6年前だ。
その事は、そちら側の人間では草薙にしか話していない。
君は、草薙の依頼によって『造られた』。
今は知らないが、当時、私の頭脳に心底惚れ込んでいた草薙が
私の精子を使うことを思いつかないはずがない」

ズケズケと言いたいことを言う恭一郎に、アリスが激怒する。
「思い上がるのもいい加減にしなさいよ!!
世の中には、あなたよりも頭のいい人間なんて、
ごまんといるんだから!!あの施設には、ノーベル賞だのなんだのを
とった人間の精子まで置いてあったんだから!!!」

「…ここまでは私の憶測だ」

突然、恭一郎はアリスに近づく。
「なっ…何よっ!?」
不意に近づかれたため、なんの抵抗も出来ないアリス。
恭一郎は、アリスがまとう、レースの付いた襟の上着を、
左肩があらわになるぐらい、強引に脱がす。
「きゃああっ!!!何するのよ!!!」
アリスは必死になって、足で砂を蹴り、恭一郎にかける。
恭一郎は動じず、裸になったアリスの左胸を指さす。
アリスの胸には、タテ3cmほどの大きさで、
うっすらと三日月型の痣がある。

「その痣!」
「!?」
「その痣は久我家の人間にしか出ないものだ」
「!!!」
「何故かは分からないが、出る場所も皆同じなのだ。私にもある」
そう言って恭一郎は、ワイシャツのボタンを外して、
アリスと全く同じ形、同じ位置の痣を見せる。

顔をしかめたまま、アリスは黙っている。
しばらくして、ようやく口を開く。
「……私に、父親も母親もいないわよ!!
私が生まれたのは、試験官の中!!私を育てたのは、
巨大な容器に入った、薬液よ!!」

アリスは、半ばムキになりながら、怒鳴る。
「私も、金髪の女性との間に、子を設けた覚えはない」
あくまで冷静な恭一郎の態度が、アリスの感情をよけいに逆なでさせる。
「黙ってれば好き放題言ってくれて…!!
子供だと思って、軽く見てると痛い目見るわよ!?いい?見てちょうだい!!」

アリスは、ウエストポーチから、
植物の種のようなものを取り出し、地面に放り投げた。
『種』は、地面についたと同時に、
ニョキニョキと目を出し、一瞬にして10メートルほどの高さになった。
そして最後に、てっぺんに「ぱっ」と花を開かせる。
花の中心は、何かの怪物のような口の形をしており、
涎を垂らし、牙まで生えている。
「これは……」
特に驚きもせず、感心して見る恭一郎。
「アマゾンの食虫植物を改良して造ったのよ。しかも、
生みの親…私の言うことをちゃんと聞くのよ。すごいでしょ?
あなたなんて、私の命令一つで食われちゃうんだから」

いかにも恭一郎を食べたそうな、『花』。
「待ってなさい。今は食べちゃだめよ?クスクスクス……」
勝ち誇ったように、クスクス笑うアリス。
しかし、恭一郎はそんなことはお構いなしだ。
「ほほう……これはすばらしい。
ぜひ一度食べられてみたいものだ!」

恭一郎は、目をキラキラと輝かせて言う。
ハッタリではなく、本気の目つきだ。

自分のやることなすことに、全く動じない恭一郎に、アリスがキレる。
「…どこまでバカなのよあなたは!!!
わかったわ!!!お望み通り、食べられなさい!!!」

『花』は、主人の許しを聞き、恭一郎の頭めがけて、牙をむいた。
恭一郎は、なんの抵抗もせずに、頭から食べられる。

血の臭いと、骨の砕ける音が、辺りに生々しく広がる。

「!!!???」

あまりにもあっけない、恭一郎の最期にアリスは逆に驚く。
驚くというか、頭が真っ白になって、硬直していた。
天才と誉れ高い、恭一郎なのだから、どんな攻撃をしたって、
何かしら反撃する、と思っていたのだろう。
それを計算に入れて、『花』に恭一郎を食うように命令したのだ。

「……あっ……あああ………」

『花』は、お構いなしに全て食べ終え、
地面にたまった恭一郎の血をすする。

「や、やめて!!やめなさい!!!」

アリスは、必死になって『花』を止める。
そして、『花』を『種』に戻す薬を撒く。
一瞬にして、その場には、何もなくなった。
恭一郎の血の跡以外は。

「……どうして……どうしてよ……!!!」

「人を殺す、ということが、どういうことか分かったかね?」

背後から、つい先ほどまで目の前にいた男の声が。
恭一郎である。
「な……!?何!?」
確かに、目の前で血を垂れ流しながら食われた、
恭一郎が立っていた。幽霊でも幻でもない。
アリスが腰を抜かして驚いているのも無視して、状況を説明する。
「君のその『花』と同じ原理だ。
『花』が私に襲いかかった瞬間、君は一瞬、目を閉じただろう。
そのスキに、この『種』を撒いて、私の代わりに食べさせた」

そう言って恭一郎はその『種』をもう一度撒く。
1秒とかからないうちに、恭一郎がもう一人現れる。
「まあ、即席クローンってところだな。
まだ形だけで、しゃべりも動きもしないが。
そして本体の私は、君が私をここへ転送させた装置を使わせてもらったよ」

恭一郎は、小さな電卓のような装置を見せる。
さきほど、アリスの服を剥いだときに、
こっそり胸ポケットから奪ったものだ。
ディスプレイに現在地や目的地が記されており、
ボタン部分で操作する。
これが、人体転送装置だったのだ。

アリスは、あまりの実力の違いに、呆然とする。
腰は抜けたままだ。それでも、意地を張り続ける。
「ふ…ふんっっ!!こんな花、私の研究じゃまだ序の口なんだから!!!
いい?今度はね……」

また何か取り出そうとするアリスに、恭一郎は口を挟む。

「ドイツで、未確認生命体が現れて、怪光線を吐いて、
ドイツを全土をジャングルにした事件があっただろう?」

…その事件なら、誰もが知らないはずもない。
アリスも、何度も十分に、研究の参考にしたくらいだ。

「あれは私がやったんだよ」

「…………!!!!」

その気になれば、国一つを滅ぼすくらい、わけないよ。
そう言った目で、恭一郎はアリスに向かって
ニタア~~~ッ と、不気味な笑みを見せる。

(ま、負けた……)

完全に負けを認めたアリスは、観念してその場に座り込んだ。

「私は、私を造った人間すべてを恨んでいたわ」
そう言って、アリスは寂しそうに、遠くを見つめる。
「生まれたときから、
『某ライバル会社のために、よりよい発明をしろ』って
言い聞かされて育ってきた。いいものが出来なければ、
草薙にさんざん殴られたわ。そして決まってこういわれたの。」

何と?と言った目で、相づちを打つ恭一郎。
「『お前の種となった父親は、世界レベルの天才だったんだ。
その血を引くお前が、出来ないはずないだろう』って。
あまりにもその事を言うものだから、
私は自分の父親について調査を始めたの。」

アリスはウエストポーチから、1枚の紙を取り出し、恭一郎に見せる。
ずいぶんと読み返したのか、すでにボロボロになっている。
破れないように、そっと紙を開く。

どうやらアリスを「造った」ときの、研究報告書らしい。
英語で、精子と卵子の提供者の名が記されている。
精子の提供者は、久我恭一郎。

「それであなたのことを知って、あなたのことを調べまくったわ。
今はどこにいるのか、何をしているのか、今まで何を発明・公表したか。
そして…あなたを超えなきゃ、ううん、超えてみせるって心に何度も唱えたわ。
……そうしなきゃ、私は生まれてきた意味がないんだもの……」

そこまで言い終えて、アリスは言葉を濁す。

「君は、生まれたときから…いや、生まれる前からか。
研究だの発明だのしろと言われ続けただろうが、
……もし、そんなことを言われずに育ったら、研究をしていたかい?」

アリスは、何を質問されたのかわからず、きょとんとする。
発明しろ、研究しろ、と言われない生活。
そんなこと、アリスには想像つかなかった。

「人間、生まれてきたからには何かしら意味がある。
ただ、どんな『意味』にするかは、自分自身だ。
君が研究をしなければ、生まれてきた意味がないというのは、周りが
勝手に決めた『意味』であって、君の意志など無いだろう」

恭一郎にそう言われ、はっとするアリス。
そういえば、自分の意志で発明をしたことがあっただろうか?
久我恭一郎を超えなければならない。会社のためになるものを
造らなければならない。そればかりを考え続けてきた。
「私は、発明することが私の生きている『意味』だと思っている。
だが、私がそうだからって、君まで同じ道を歩む必要など無い。
自分の気持ちのない研究など、良い結果が出るわけが無い」

あくまでも、冷静に説く恭一郎。
だが、どことなく、アリスは自分に対する暖かみを感じていた。
いつしか、アリスの瞳からは、大粒の涙が止めどなくこぼれ落ちていた。

「…別に、N.H.Kの人間である私の血を引いているからと言って、
『某ライバル会社』を辞める必要もない。君がまだそこにいたいというのなら、
そこにいればいい。辞めたいなら辞めればいい。君が決めることだ。ただ…」

「ただ?」
「研究だけは、きっぱりと止めなさい」

研究を、止めなさい。
自分の頭脳だけを期待されて造られた、
アリスが初めていわれる言葉。
この瞬間、アリスはただの4歳児に戻り、
年相応に、「父」の胸で、大声で泣きわめいた。

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