[小説]私が発明する理由(5)

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そして、夜。

探偵・シャンゼリゼ島崎により再度、催眠ガスにて眠らされた社員達は、
まだ眠ったままだった。
どうやら、最初に恭一郎が撒いたガスよりも、
さらに強力なモノであったらしい。

「……っ……もうこんな…時間かよ……」
またしても、一番先に目を覚ます、継人。
(もう付き合ってられるか!オレは帰る!!)
橘達のことは、警察にでもまかせればいい。
そう思った継人は、怒り気味に研究室へ
自分の手荷物を取りに行こうとする。

「…あれ?継人。目が覚めたの?」

ふと、背後から聞き覚えのある声。
社内で、自分を名前で呼ぶ人物はただ一人。
橘であった。
「…橘さん!?な、何で…」
「久我さんに助けてもらったんだよ」
「アイツ…が…」
まさか、本当にたった一人で助けてくるとは。
「助けられた他の人たちは、疲れたからって、もう帰ったよ。
僕はみんなが目を覚ますまで待ってようと思って」

そうか…みんな無事なのか。
とりあえず、胸をなで下ろす継人。
「そういえば…ヤツは…?」
「久我さん?ああ、研究室にいるよ…でも…」
「でも?」
「僕らをさらったあの小さな女の子…
なんで久我さんと一緒にここにいるのか…」

「…女の子?」

「へえ、結構いい設備整ってるじゃない」
そう言って、アリスは研究室中を歩き回ってみる。
「本当に、『某ライバル会社』を辞めるのか?」
「何度も聞かないでよ。私の好きにしろって言ったのはそっちでしょ」

あの、空き地での対決に決着がついた後。
恭一郎とアリスは、『某ライバル会社』の
特殊開発室の研究所へ向かった。
そこには草薙京介と、その他の研究員達がいた。
草薙達は、モニターで二人の様子を見ていたらしく、
二人が現れるなり、アリスを裏切り者扱いした。
「…アリス…!!お前も久我同様、この組織を裏切るというのか!!」
莫大な資金をかけて造った優秀な人材。
それを失うのは、会社にとってかなりの痛手だ。
「…ひとつ聞くわ」
「!?」
「私が、もう研究をしない、って言っても、ここに置いてくれる?」
アリスの信じられない言葉に、草薙は怒鳴る。
「何を言ってるんだ!!何の為にお前を『造った』と思ってるんだ!?
研究をしないお前など、ここに置いていても無駄に決まってるだろう!!!」

予想通りの草薙の言葉に、アリスは寂しく微笑む。
自分のいるべき場所は、ここではない。
「…頼んだわ」
アリスは、恭一郎の腰を叩き、研究室を去る。

「アリス!!待て!!!どうしたんだ一体!?」
アリスの後ろ姿を追おうとする、草薙。
そんな草薙に足払いを掛ける、恭一郎。
草薙は無様に、顔面から床に叩きつけられる。
「……久我……!!!」
草薙は、鼻血を垂らしながら怒る。
「あのガキも、所詮裏切り者のお前の血を引く人間だったというわけか!!」
「…お前は、私が本当に金だけでこの組織を裏切ったと思っているのか?」
怒りで震える草薙を、冷視しながら恭一郎は言う。
「他にどんな理由があると言うんだ!?」
「…お前には一生、分からないかもしれんな」

恭一郎と草薙がにらみ合っている間、
アリスは隣の部屋に、小さくされたまま『保管』されていた
N.H.Kの社員達を、小さな箱に入れて連れてくる。
「社員さん達は無事よ」

恭一郎は、N.H.K社員の安全を確認すると、
あの、いつもの『狂科学者』の表情に戻る。

「アリス」
「…!?」
初めて名前で呼ばれ、少し驚くアリス。

「見ていなさい。これが発明を人生の意味とする、私の実力だ!!!」

そう言うと、恭一郎はポケットから一本のビンを取り出し、飲み干す。
一瞬にして、体長15メートルくらいに巨大化する、恭一郎。
ドイツで使用した、「巨大化薬」のミニチュア版なのだ。
しかし、巨大化時の能力は、前のものと同じである。
「フフフ……フフ…フッフッフ……」
自分の才能の恐ろしさに、恭一郎は酔いしれる。
そして、ついにあの怪光線を吐いた。
もちろん、光の当たった部分からは、
怪しい植物がニョキニョキと生え始める。
室内にも関わらず、だ。

『うっ…うわあああああああ!!!!』

信じられない光景に、絶叫する『某ライバル会社』特殊開発室員達。
だが、極彩色の植物や動物・虫達は、容赦なく室員達を襲う。
恭一郎は、もはやイッちゃってるという感じで、
どんどん怪光線を吐く。
「ウワハハハハハハハハ!!!!!!全て、壊れろ、壊れてしまえ~~~!!!!!」
もはや、特殊開発室側に、勝ち目などあるわけない。
「…………………」
恭一郎の背後に守られ、様子を見ていたアリスは絶句した。

「……敵に回らなくて良かったわ……」

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