[小説]私が発明する理由(終)

小説/本文

例の事件から、数日が経った。

『某ライバル会社』特殊開発室は、恭一郎により全壊させられ、
あのハッキング騒ぎも起きなくなった。
奪われたデータも、アリスにより全てN.H.Kに返された。
いつもの日々が戻ったのである。

「…にしても…今回は久我さん、大活躍だったねえ~」
昼休み、食堂にて満と芹子、悟史が昼食を取っている。
「ああ、向こうの奴らが少し気の毒だと思うくらい、な」
満は苦笑する。
「在素ちゃんも楽しそうだしね。もうすっかりこっちに慣れたみたいで」

例の事件の後。
アリスは『某ライバル会社』を辞め、
N.H.Kに居候することになった。
恭一郎と共に、開発研究室に住み込んでいるのだ。
今日も研究室から、あの狂科学者と、外見からは想像付かない
大人びた口調の少女の声がする。

「在素!!ここに置いてある薬品を勝手に使うなと言っただろう!!」
「あら?そんなこと言ってたかしら?いいじゃない。
そんなにケチケチしてると長生きしないわよ!」

「だいたい君は研究を止めたんじゃなかったのか!」
「会社のための研究は止めたわよ。
私は私のための研究をする。だからここに来たのよ」

外見は子供の在素に、大人顔負けでやりこめられ、
恭一郎は手を出せずにふるふるとしている。

アリスは、今この居場所がとても気に入っている。
ここに来たばかりの頃、何人かの社員に、こう尋ねてみた。

「もし、久我恭一郎が研究を止める、って言ったら、
彼をこの会社から追い出す?」

社員それぞれの答えはこうである。
「え?研究なんかしなくても久我ちゃんは久我ちゃんだしな」
ハリー「久我さんって、ケッコーおちゃめなとこあるから、
そのくらいじゃ嫌いにならないわよぉ!」

継人「いや、むしろ止めたほうが世の中のためにいいんじゃねぇか?」

アリスは、恭一郎が『某ライバル会社』を辞め、
こちらに来た意味が、少しだけ分かったような気がした。
「ま、少なくともお父さんよりは、
世の中のためになるものを造っていくつもりだけど、ね」

『お父さん』

事件後、アリスは草薙京介の戸籍から抜け、
久我恭一郎の実子として、戸籍を入れ直した。
その時に、名前もアリス草薙から
「久我在素」と変えた。
「在素」とは、『ありのままの自分でいられるように』という
願いを込め、恭一郎が字を充てたのである。

「…そういえば…久我ちゃん、前にこう言ってたんだよな…」
満が、神妙な顔をして言う。
「え?なんて?」
「『自慢じゃないが、私は女性と付き合うどころか、
手を繋いだこともない!!』ってさ……」

「ああ、そういえばそんな事を言ってたね~」
「…女と手を繋いだこともないのに、コブ付きなんて…
………ある意味、絶望的なんじゃ………」

実は結婚願望の強い恭一郎。
「…しっ!!それは言っちゃダメ!!!」
芹子が止める。

「き~み~た~ち~……なぁんの話をしているんだね……?」

突然、3人の間に恭一郎が割り込む。
「うわああああっっ!!!久我ちゃん!?」
「私はまだ諦めてないぞーー!!!全世界の女性諸君!!!
この久我恭一郎の花嫁になる者、引き続き大募集中だ!!!!!」

「はっ!そんな物好き、全宇宙探してもいるかどうかね」
あきれ顔で在素が言う。
「動物とかならいるかもね~あははは」
のんき顔で、結構キツいことを言う悟史。
「揃いも揃って…君たち…!!私は負けん!!
最後に笑うのは私だぁああ!!!!はーっはっはっはっは!!!」

イッた目つきで、高笑いする恭一郎。

「前途多難だな」

満の一言に、今日も笑いの渦が巻き起こるN.H.Kであった。

END

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