[小説]因縁 – Connection -(1)

小説/本文

4月。

「体育館前の掲示板に、クラス分けが貼り出してあるので
各自確認のうえ、それぞれの教室へ行くように。」

入学式を終え、学年主任がそう指示すると、
新入生達は一斉に体育館前の掲示板へと向かって行った。

ここは、私立春雨高等学校。
都立の名門校である英南台高校を落ちた美彦は、
結局、都立入試の前に受かっていたこの高校へと入学した。
生徒総数約1200人、運動部活動が盛んなごく普通の高校。
ただし、数年前までは男子校だったせいか、女生徒が極端に少ないのが特徴である。
「う~~~む……噂には聞いていたが……
本当に女の子が少ないなぁ……」

掲示板に群がる生徒達を、ボーッと長めながら美彦は呟いた。
女子の割合は、だいたい生徒10人に対し2、3人くらい。
そのせいか、女子の制服が異様に目立つので
視界にいる女子が何人いるか、すぐに数えられるほどだ。
その中に、綺麗な長い髪を三つ編み一つに束ねた女子の後姿を見つけた。
ふと……受験の時、消しゴムをくれたあの『みゆきちゃん』のことを思い出す。
「みゆきちゃんはきっと受かったんだろうな~~…」

「みゆきー!何組だった?」

美彦の背後から、女の子の声が。
その女の子は、美彦を追い越して走ってゆく。
そして、三つ編みの少女が振り向いた。

「みゆきちゃん!!??」

「いや~~まさか同じ高校でしかも同じクラスとは!!!」

教室中に響くボリュームで、けたたましく笑う美彦。
こともあろうに、美彦もみゆきも英南台高校に落ち、
偶然にも、二人ともこの高校へと入学していたのだった。
しかも同じクラス。
「みゆき……何?この人…知り合いなの?」
みゆきと同じ中学出身らしい少女が怪訝そうな顔をする。
彼女も同じクラスだ。
「知らん」
「知らんだなんだそんなー!消しゴムくれた仲じゃーないか!!
なぁみゆきちゃん!! ハーッハッハッハ!!」

「そんなもの、知り合いの内に入らん……それと」
「ん! 何だ!?」
「名前」
「あぁ!俺様は…」
「柏葉美彦だろう」
「おおおおお!みゆきちゃんに覚えてもらえるとは光栄だなー!!ハーッハッハ!!」
「受験の時あれだけ大声で叫ばれたら嫌でも覚える。
そうではなく、私のことは名前で呼ぶな。」

「え、何で?っていうか俺みゆきちゃんの苗字知らないもん」

「柴田だ。それに親しくも無いのに名前で呼ばれるのは虫唾が走る。
分かったらとっとと自分の席にでも着け」

柴田みゆきという少女は、出身中学ではかなりの有名人であった。
ものすごい美人という訳ではないが、
身長167cmの長身、なおかつスレンダーな体型で、大人びた雰囲気を持つことから
彼女に好意を寄せる男子生徒も少なくは無かった。
が。
思ったことを即口に出すキツさと、
女とは思えないその口調とややドスの効いた低い声、
嫌いな者は容赦無くはね付け切り捨てるその冷徹主義っぷりが、
次第に男子生徒を寄せ付けなくなっていったのだった。

だが…

「柴田ちゃ―――――――ん!!!! おっはよぉぉぉぉ――――!!!!」
「柴田ちゃ―――――――ん!!!! 宿題見せて――――!!!!」
「柴田ちゃ―――――――ん!!!! 昼飯食お――――!!!!」
「柴田ちゃ―――――――ん!!!! 元気ぃぃぃ――――!!??」

この柏葉美彦という少年は、やたらとやかましく、怖いもの知らずな男ということで
校内でも瞬く間に有名になった。
「柴田ちゃ――――ん!!」
「ほ…ほらみゆき、あっちで柏葉くんが呼んでるわよ…」
美彦の大声+オーバーリアクションに、笑いをこらえる友達。
「放っておけ」

みゆきはまるで相手にはしていなかった。

「柴田ちゃ―――――――ん!!!! たまには一緒に帰ろ――――!!!!
………って、あれぇ?」

放課後。
みゆきと一緒に仲良く下校を試みた美彦だが、
教室には既にみゆきの姿は無かった。
「あれ、柏葉くん。みゆきなら帰ったわよ」
黒板の掃除をしている、日直らしき女生徒に声を掛けられた。
「おお!柴田ちゃんの友達!」
「…あのね、いい加減名前覚えてよね。小林実加子よ。」
「あ…そう、そう!! 小林ちゃん!!
で、柴田ちゃんはもう帰ったのか!?」

無言で頷きながら、黒板を掃除する実加子。
「あの子はそうそう暇はないからね。
あたしだって滅多に一緒には帰らないわよ」

「何―――――!? 小林ちゃんですら一緒に帰れないとは!
これはますます柴田ちゃんと一緒に帰るのが貴重なことに思えてきたぞ!!」

めざせ一緒に登下校!
そう言わんばかりに拳をグッと握る美彦。
そんな彼を見て、実加子は溜息をつく。
「…なんてゆーか、訊くまでも無いかもしれないけど
柏葉くんってみゆきのことが好きなの?」

「だって柴田ちゃんはこの学校で一番最初に知り合ったんだからな!
同じ高校受けて受験番号も前後で、しかも消しゴムまで貰って!さらに一緒に落ちて!!
この高校でも出席番号も近いし、仲良くしたくて当然当然!!」

「……うーん、なんっか良くわかんないけど、
そんな真剣なものじゃないなら、あの子にはあんまりしつこくちょっかい出さない方がいいわよ。
あの子ん家、親一人子一人で、しかも今その親が病気みたいで大変そうだから、
きっとオトコどころじゃないと思うのよね」

実加子の忠告を胸のうちに留めておきながらも。
美彦はみゆきと仲良くしようとすることを止めようとはしなかった。

柴田みゆきと仲良くなりたい。

その気持ちが既にこの時点で恋だったということは、
果たして彼は気づいていたかどうか。

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