[小説]最期の恋(終)

小説/本文

雲一つなく、厳しい太陽の光が照らす、夏空の下。
会社の屋上公園のフェンスの前に、汗一つかかず涼しげにたたずんでいるのは…

「白鳥部長、ここにいらっしゃったんですね。……あつく、ないんですか?」
社員食堂が、珍客……赤ん坊の雪彦を前に賑わっているなか、
恵莉は夜半の姿が見えないことを気にして、探していたのだ。
「……まぁ、冷房が少し苦手なのでね」
自身は平気なのだが、恵莉に気を利かせ、木陰のベンチに二人で座る。

「首の傷は大丈夫かい」
雪男の雪彦に噛まれた傷は、夜半の回復魔術によって塞がりはしたものの、完治はしていない。
首から肩にかけて巻かれた包帯が、痛々しい。
「はい、だいじょうぶです。なおしていただいてありがとうございます」
「悲しいことに破壊行為は得意でも回復はちょっと苦手なものでね。あの場では出血を止めるのが精一杯だった」
「そんな……わたしがここにこうして元気でいられるのも、白鳥部長のおかげですし…
……それに、烏丸さんだって……
……どうして、白鳥部長が青森にいっていなかったことに、するんですか?」

夜半は、浪路と恵莉の二人に、自分が青森の山奥でのあの一件に加わっていないことにして欲しい、
と願い出ていた。
皆に説明する時、食堂に顔を出していなかったのもそのためである。
「今回の件は、君が全て良い方向へと導いて、解決した。だから君が俺に礼を言う必要はないよ」
淡々と返す夜半だが……その表情はどこか落ち込んでるようにも見えた。
「むしろ……恨んでくれていい。俺は、彼を殺そうとしたんだし」

夜半とて、喜んで雪彦を殺そうとしたわけではない。
殺戮だけを繰り返し、その手で愛しい者まで傷つける身となってしまったのなら、
止めてやるのが彼のためと思った上での行動であった。
「……烏丸さんは、白鳥部長にとどめをさしてもらいたかったと、おもいます。
そしてそれが、白鳥部長のやさしさだってことも、わかっていたとおもいます」

「…………」
「だから……おちこまないでください」
400歳を超えた自分から見たら、赤子同然の18歳の娘に見透かされて、
夜半は気まずそうに眉間にしわを寄せる。
「……これだから、人間は怖いんだ。
俺からみれば弱いし、寿命も短いし、馬鹿な奴も多いのに……
……時々とんでもない奇跡を起こすから、怖いんだ」

夜半は、恵莉に聞こえにくい程の小さな声で、ぼやく。
「…はい?」
「なんでもないよ。昼休みもそろそろ終わるだろう。職場に戻りなよ」

夜半は恵莉を半ば無理矢理追い返すと、吸い込まれるような夏の空を仰いだ。
「まぁ、結果オーライだったんだからもう気にするのは止めるか。
…人生のボーナスステージを与えられた烏丸君の今後を見守ることで、罪滅ぼしとさせてもらうとするかな」

そう呟くと、いつものように眠そうにオフィスへと戻っていった。

END

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