「運良くチケットが取れてよかったぜ・・」
継人は、ドイツ直行便のビジネスクラスのシートにもたれて、ため息と共に呟いた。
エコノミーでよかったのだが、これしかなかったのだ。
「高くついたけど、後でヤロウから・・・
・・・いや、ヤロウは俺がブチ殺すから、会社に請求してやる・・」
芹子達のいる、デュッセンドルフの空港は閉鎖されている。
継人が向っているのはボンであった。
「デュッセンドルフまでタクシー行ってくれんのかよ・・・ふぁ~あ・・・」
さんざん眠ったはずなのだが、継人は少し微睡んでいた。
落ち着こうと貰った飲み物がワインだったのだ。
到着までのイライラ解消のためにブランデーも飲んだ。
気が大きくなってウィスキーも頼んだ。
珍しかったのでラム酒も飲んだ。
(未成年のくせして)(笑)
「それにしても映画もやらねーのかよ・・?」
継人は少し前方の壁に設置されているスクリーンに目をやった。
するとタイミングを合わせたように映像が現れた。
『・・・・現地からです。怪物はさらに巨大化して
南東の方角に向って移動しています。・・・』
ニュース画面には400メートルにも達した久我が、ゆっくり歩く姿が写し出された。
『・・オー、マイ、ガッ・・・』
『シット・・・・』
他の乗客達も息を飲んだ。
「なんてこった・・・」
このままではボンの空港も閉鎖されてしまうだろう。
「くっそ~・・・んっ!?」
スクリーンの久我の様子がおかしい。苦しむように悶えたかと思うと、動きを止めた。
「どっ・・どうしたってんだよ・・・まさか・・・!?」
久我の身体が輝きはじめた。強い光だ。
真っ白になった画面がズームアウトする。かなりの距離をとっての映像となった。
ドイツの街に白く光るモニュメントのように久我がそびえ立っている。
そして・・・
久我は爆発した。
真っ白な光がスクリーンに満ちて、画面は砂嵐と変わった。
悲鳴が機内に満ちた。
継人は声も出ない。
「そ・・そ・・んな・・」
突如、飛行機の全ての窓から閃光が差し込んだ。真っ白な光。何も見えなくなる。
そして数瞬後、デュッセンドルフから到達した衝撃波は、
継人の乗った機体を粉々に粉砕した。
(・・飛んでいる・・・空を・・・)
継人は白い宇宙を飛んだ。
そして、落ちていった。奈落へ。
奈落の到達点は・・・
ビジネスクラスのシートだった。
「はあぁぁぁぁっ!!!」
ガクンっ!と身体が落ちる感覚に継人は一瞬で目が覚めた。
あたりは静かである。
旅客機は順調に飛行を続けていた。
文字どおりの悪夢に継人はうなされていたのである。
「・・・・・ふー・・」
継人は息を落ち着かせ、前のスクリーンを見た。
ニュースの映像である。ドイツの街並が映っている。
しかし・・・
『・・・突如として怪物が姿を消してから、早くも軍や警察による救助活動が行われ・・・』
「なっ・・・なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
立ち上がった継人の形相の恐ろしさに、スチュワーデスがあわてて逃げ去った。
一方、ドイツのN.H.K一行は。
「まったくもう!!なんってことしてくれるのよっっ!!!」
久我は、眞妃の、
「元に戻らないなら、日本にあるN.H.Kのラボを破壊する」
という脅しに、いやいやながらも元に戻ったのであった。
元に戻ったあと、社員からフクロにされたのは言うまでもない。
「……う~ん……じ、実験は大成功……」
ボコボコになりながらも、久我は満足そうだ。
そんな久我を無視して、社員一同は日本に帰る方法を画策する。
「空港はめちゃくちゃだし、どうやって帰ればいいんだ!?」
「チャーターしたヘリで帰る、ってのも無理があるしねえ…」
「でも、早いところズラからないと、ヤバいわよっ!!」
帰る方法で、モメにモメる、社員たち。
しかし、悪夢はこれで終わりではなかったのだ……
「……私の偉大なる実験は、まだ続くのだ……」
久我は、残された力を振り絞って
そう呟くと、自分のすぐ隣で、巨大ラフレシアの蜜にまみれ、
ドイツの街を全力疾走して力つきた橘に目をやった。
その頃、フライト中の継人は。
機内のニュースによると、ドイツは混乱しているものの、
奇跡的に死者や行方不明者はいないという。
さすがに、多くの怪我人は出たらしいが。
これも狂科学者でも一応天才の久我の成せるワザなのか。
「…なんだ…ドイツくんだりまでして損しちまったじゃねえか…」
ホッとして気が抜けたのか、ニュースのアナウンスをBGMに、
継人はそのまま眠りについた。
……が。
”臨時ニュースを申し上げます!!”
アナウンサーが、興奮気味にたった今入ったニュースの原稿を読み上げる。
「ん?なんだ?」
アナウンサーの声に驚き、継人は目を覚ます。
”たった今入ったニュースです!またしても、ドイツ国内において、
さきほどの未確認生命体とはまた別のモノが出現いたしました!!! ”
「な、なにぃぃぃぃぃーーーっっっっ!!!!????」
ニュースのTVカメラは、突然ドイツの中継に切り替わる。
TVには、またしても見覚えのある顔。
しかし、先ほどまでドイツを混乱に陥れていた、
あの憎たらしい変態科学者ではなかった。
「た…………橘さんっっっ!!!???」
そう、久我の代わりに、今度は橘が体長200mの巨大バケモノに
変貌していたのである。
橘は、何かの液体でドロドロに覆われており、
ますます不気味さに拍車をかけていた。
「……あ……あんのヤロウ!!!!
自分で試した後は、今度は他人かよ!?」
まして、実験台にされたのは、自分にとっては他人ではなく、身内。
だからこそ、さらに腹立たしい。
一刻も早く、ドイツに行って橘を元に戻さなければ!!
継人は焦る、……が。
運悪く、ドイツ国内すべての空港が閉鎖された、とガイダンスが流れ、
継人の乗る飛行機は、急きょスウェーデンに着陸することになった。
「す…スウェーデンなんか行ってるヒマあるか!!!
とっととドイツに連れてけーーーーーーーっっっっっ!!!!!」
継人の叫びは、むなしく響くのみだった。
『No15、発射っ!』
白い煙りの筋が、橘に向って行く。
ズズゥゥン・・
「ぎゃーーーーー!!」
橘が絶叫する。
『No12、発射!』『No14、発射!』『No8、発射!』 『No6、発射!』『No3、発射!』
ドイツ空軍機の装備する空対地ミサイル
「ドラゴンフライ」がマッハ1.2のスピードで橘に殺到する。
久我の及ぼした被害を重く見たドイツ政府が、ついに攻撃に踏み切ったのだ。
ズゴォォン・・ズドドォォン・・
「なんで~!なんで僕だけがぁ~!!」
巨大橘にダメージはほとんど無い。
しかしすごく痛い。
そしてとても熱い。
ひと粒で2度おいしいミサイルであった(笑)
「ドイツでよかったわね、大島さん。」
眞妃が見上げてつぶやく。
「何で?」
芹子が聞いた。
「イ◯クやイ◯ンの砂漠だったら、核攻撃されてたかも。」
「でも、核なんて持ってたっけ?あの国。毒ガスじゃないの?」
「え~?細菌兵器ですよぉ!きっと!」
「ビーム砲とかの実験されたりして。」
女子達の無責任な発言が続く。
それを横で聞いている久我は、ニヤニヤしながら首を振っている。
「フッフッフ・・・そんな物は効きませんよ・・・話にならない・・・」
自信満々である。
「ちょっと!それはいいとして、あと何分で元に戻るのよ!大島さんはっ!!」
眞妃の問い詰めにもヘラヘラするばかりの久我である。
「んぐぅ~~っ!!」
ネック・ハンギング・ツリー。
久我の顎を掴んだ眞妃の手が、高々と上がった。
しかも片手。
「ぐぎぃぃ~っ!!あと5分っ!あと5分~っ!!」
足をバタバタさせて久我が喚いた。
「あと5分で戻らなかったら、そこに口開けてる人喰い怪物のエサにするからねっ!!」
そう言うと眞妃は、空港ロビーの床にポッカリと開いた黒い穴の上まで、久我を持って行った。
スターウォーズ・ジェダイの復讐にも出て来た「サルラック」であった。(笑)
「ひぃぃっ!!エピソード1も見て無いのに、今どき前作の化け物に喰われるのはいやだぁぁ!」
バタバタする久我。しかし目は笑ってる。
「懲りてなぁいぃぃぃ・・」
眞妃の目がマジになりかけた時であった。
「あっ!!見てっ!橘くんがっ!!」
一同が見ると、橘の身体が少しずつ萎んで行くところであった。
その光景に一番驚いたのは他ならぬ久我であった。
「ばっ・・ばかなっ!!??そんな・・ばかなぁぁっ!!!」
ガタガタと震え出す久我。
「あ・・あと4時間は元に戻らないはずだったのに・・ぐぇぇっ!!」
再び吊るされる久我。
「あと5分じゃなかったのぉぉ・・・?(超怒)」
いよいよ眞妃がマジ切れモードに入ろうかという寸前・・
「あっ!!あれ見てくださいっ!!あれっ!!」
全員が愛子の指差す方向を見た。
「どこ?」
「あれです!大島さんの回りっ!」
一同が目を凝らすと・・・
「まさか・・!」
「あれはっ!!」
『仙波君っ!!!!!』