(人事部)
奈津恵:一ノ瀬君、……貴方は、確かに新人と言っても、そこそこ社会経験を積んだ成人。
私にも、周りにも臆することなく、忌憚のない意見を述べなさいとは言いました。ですが…
秀範:はい。
奈津恵:……さすがに、その意見は少々浅はか過ぎやしませんか?
秀範:そうでしょうか。僕は今までの経験から、総合的な判断で述べたまでですが。
瀬上部長こそ、部長だけの考えで浅はかと決めつけることこそ、早計であると僕は思いますが。
奈津恵:いいえ。私も、この会社での長年の経験と、周りの意見も考慮し、
これが間違いないと自信を持って言えるまでに確信を持っています。
秀範:そうですか。……ならば、僕も同じです。以前お話していましたが、
瀬上部長はこの会社以外での社会経験がないと伺っています。
ならばこの会社外での社会経験は僕のほうが長いということになりますね。
奈津恵:何も会社内だけの経験だけで言っているんじゃないの。そもそも……
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結佳:あ、あの……西城寺くん、休憩から戻ったら……この状況は、いったい……
初南賛:さ、さあ……僕も、トイレから戻ったらこんな感じだったので、何もわからず……
でも、この二人の議論に割り込む勇気と技量は、僕にはありませんね……
結佳:それにしても……一ノ瀬さん、瀬上部長に対して結構物言いがはっきりしてるというか、
こ、怖いもの知らずというか……すごいですわね……
初南賛:なんでも瀬上部長は、とにかく誰からも恐れられちゃうから
「自分に堂々と意見できる経験豊富で肝の据わった人」を条件に、
人事部に新人さんを入れたらしいですから…
結佳:な、なるほど…そうだったの。確かに一ノ瀬さんは、わたしたちよりもちょっと年上だし
悪い人ではないのだけど……若干、近寄りがたい雰囲気もありますわよね……
初南賛:そうですね……でもまあ僕は同性で話しやすいのか、時々趣味の話とかしてくれますけど。
結佳:趣味の話、、、想像つかないけど……どういった?
初南賛:株とか競馬とか。あと、時々ゲームの話も。ジャンルは謎解きが多いかなあ…
結佳:株、競馬、謎解きゲーム……うーん、わたしには無理そう……
初南賛:それでも……確かに、あんまり深く踏み込んだ話はしないですかね……
特にプライベートの話なんかは。
結佳:プライベートかぁ……ご家族とか、ご兄弟とか……恋人とか、どんな感じなんだろう……
初南賛:そういえば……一ノ瀬さんのご家族と言えば
” ピロピロピロピロッ ”(秀範のスマホ)
秀範:……!(切ろうとする)
奈津恵:別に、出ても構いませんよ。まだ休憩時間ですし。
秀範:……すみません……マナーモードにするのを忘れていて……それでは、失礼します。
(フロアの外に出る、秀範)
秀範:……何だい、今仕事中……あぁ、確かに休憩中だけども……
え?……何で今そんなことを……もう、そんなことで電話してこないでくれ。
………あのなぁ、僕と君はもう……………………あ、そうだ、
… ………… …………(小声になる)
そうか、分かった。参考にさせてもらう。
それじゃ、休憩も終わるから。失礼。
(フロアの外から戻ってくる)
秀範:失礼。戻りました。………それで、瀬上部長。
先ほどの話の続きというか、新たな確信といいますか、得られたのですが
奈津恵:新たな確信?
秀範:やはり、たけのこです。
結佳・初南賛:!?
秀範:たまたま、今電話の掛かってきた相手にも尋ねてみたのですが、
やはり、たけのこが良いと言っていました。
奈津恵:なんですって…? ちなみに、今の電話の相手はどなた?
秀範:!!! ………え、ええと………
奈津恵:? あら?今度は随分と口をつぐませたわね。
家族や兄弟なら、意見も似かよりそうだし、あまり参考にならないのですが。
秀範:………家族でも、兄弟でもありません………
(真っ赤になりながら)……昨年離婚した、元妻でして
奈津恵:なら、ほぼ家族じゃないのっ!
ええい、私は譲りませんよ!絶対に、きのこです!
秀範:だから、家族じゃないですって!(ちょっとムキになる)
瀬上部長こそ、どなたか有力な同意見者はいらっしゃらないのですか?
奈津恵:えーと…そう、白鳥君!……いえ白鳥部長もきのこがいいって言ってたわ!
初南賛:(それ絶対参考にならないやつ…!!)
結佳:というか、さっきからお二人で言い争ってるのって……
結佳・初南賛:きのこたけのこ論争!!?!?
初南賛:なんか怖がって損した……まあ平和で何よりだけど。